そう、昨日の思いもよらぬ展開には驚いた。
あれだけ確信していた貴婦人の丘の誘引場所だったが、結局、雄鹿1頭がやってきただけで終わった。それも残置しておいたヘイキューブを1時間近くもかけて食べ尽すと、森の中に消えてしまったという。そして後は待てど暮らせど、1頭の鹿も現れなかったと、M氏の弁。
9時半をもってその場所での待機を打ち止めにし、とりあえず引き上げることにした。M氏は午前5時ごろから4時間以上も、窮屈な見張り用テントの中で待機していたわけだが、その努力は実らなかった。鹿の行動を読むことの難しさを痛感させられた。
その後の行動については二つの選択があった。一つは諸条件の揃った貴婦人の丘で、引き続き待機すること。もう一つは、鹿の出没する可能性のより高い、大沢山に賭けてみるか、ということであった。で、協議の末に後者を取った。
1カ月におよぶ誘引と馴化を続けた場所を放棄して、予定外の場所で実験を続行することには当然、納得できない思いがなかったわけではない。しかし、鹿が現れなければすべてが無駄になってしまう。それに、諸条件の揃ったといっても、狙撃の状況を記録するはずの要員は確保できていないし、爆音機はすでに作動していなかった。可能性の低い第1の場所にあまり執着する理由は最早なかった、とも言えた。
M氏を大沢山に送り出した後、牧場内で唯一、双眼鏡を使えばかろうじて貴婦人の丘の誘引場所が見える第2牧区に行ってみた。そこからは、うまいことに大沢山も一望できた。
しかしやはり、どちらの場所にも鹿の姿はなかった。ただ悔しいことに、大沢山の西斜面には、5,6頭の鹿が出ていた。いつもそこなら鹿の群が出る草地だったが、かといって狙撃するには遠すぎる場所だった。
思い付いて、第1牧区にまだ仕掛けてあった罠を回収するため、さらに第1牧区に上がることにした。そこは最後に雄の大鹿を捕えた場所だったが、その鹿は後日M氏に銃で止めてもらおうと二人で行ってみたら、なんと罠を引きずりながら、本家・御所平峠の方に遁走していくところだった。
回収し終えて、第1牧区の中でも一番眺めの良い丘まで来た。そこからは、いままさにM氏がたつまを張る大沢山が、映画のスクリーンのように見えていた。愛用のカールツアイスなら、鹿に気付かれずにそこで動静の一部始終を知ることができた。
ああ、もう予定の文字数を越えてしまった。「思いもよらぬ展開」はもう一日続けることにして、霙混じりの雨の中、今日は里に帰ろう。
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