真夜中の独酌。午前3時に目が覚めて、それからもうすぐ6時になろうとしている。このうすら寒い、暗い写真は、昨日入笠で撮ったものだ。こういう風景に気持を置いて、あれこれと詮無いことを考えていた。
今日からもう、毎日上に行かずともよくなった。淋しく、暗い安堵だ。一年(ひととせ)を送る以上に、牧を閉じる感慨は深い。木の芽吹く春から、爽やかな風が流れる夏、絢爛たる紅葉の秋、そして単色の渋い森や林を雪が化粧(けはい)し、万物の眠る冬へと、巡る季節の中にずっといた。その間に牛が来た。
今年は雨が多かった。それでも牛たちは大過なく過ごし、子を宿し、しっかりと体重を増やして下りていった。見習いと呼んでいた種牛も、立派にその任を果たした。もう来年からは、見習いとは呼ばない。入牧頭数こそまだ不足だが、牧場の使命は充分に果たしたと思っている。
有害動物に指定された鹿、この動物は、人間からそんな目で見られていることなぞおよそ知るまい。銃に撃たれ、罠に捕獲され、今年も幾頭もの鹿が殺された。人間同士でさえ、争いは絶えない。そこへ鹿は、多産を武器に侵入してきたのだ、この狭い国土では安住できる森も林もないというのに。
多量の塩などを使って、鹿を誘引する場所を幾か所も広範な地域に設け、そこに不妊薬を開発して投入するということは、机上の空論に過ぎないのだろうか。鹿でなくとも、ひとたび生を与えられれば、懸命に生きようとするのが生物の本性ではないか。
入笠牧場の新しい方向を模索しながら、また今年も終わる。登山道の整備や冬季営業は牧場管理人としての仕事ではなく、ささやかな個人的な試みに過ぎない。来年からは法華道の整備も、心配の種だ。相変わらず侵入してくるオフロードバイカーによって、ますます古道は荒れてしまう恐れがある。その他もう一つの古道石堂越え、鹿嶺高原へ通ずる道と、課題は尽きない。
入笠牧場の宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましてはカテゴリー別の「H27年度冬季営業」を、また天体観測に関心のある方は「入笠牧場からの星空」をご覧ください。