また夜中起きている。昨夜のさんま飯と豚汁のせいだと思うが、喉が渇いて目が覚めた。幸い、さんま飯は案じていたほど出来は悪くなく、豚汁は赤羽さんの労作の味噌を使っているのだから、もちろん悪いはずがない。あのH夫婦の評価も同じだったと思う。
長い秋を望んでいるのだから、もう少しこうして何もない秋の夜を、雨の音を聞きながら起きているつもりだ。ビールのお蔭で気持ちが安定して来た。
こんな山の中で、こんな時間に、こんなふうに時を過ごしている自分のことを、他人のように捉えつつも満足している。ゆっくりと過ぎていく時間の経過を、普段よりさらに意識しつつ。
午前7時半、気温は6度に届かなかった。周囲全体の色調が渋い茶色に変わって、特に、落葉松の葉はそれが最も進み、赤茶けて見えるようになってきた。そのせいもあって、きょうのような曇天の日はもの寂しさをいっそう強く感じ、その雰囲気、気配は、一人でいるのに合っている。
囲いの中の雨に濡れた緑の牧草の色が場違いにさえ見え、風もなく、音もなく、ここから見えてる風景は1枚の絵のように動きというものが一切ない。気付かぬうちに落葉も進み、まだ辛うじて薄緑の葉を付けた白樺の樹幹が、牧場の冬支度を急かすかのように少しづつ目立つようになってきた。
外に出ると、遠く北アルプスの方向に幾つかの峰々が雲海の上に見えた。天気はこれ以上悪化しそうもなく、夕方になれば次第に回復が期待できそうだ。
ウルシはまだ黄色だったが、カエデだかモミジだかは赤く染まり始めていた。初の沢の大曲がりのマユミの実も大分赤くなってきて、もう少しすればあの辺りの主役を張れるようになるだろう。北門の先の谷にはヤマブドウの葉も赤く色付き始めたようだし、いよいよいたる所で激しさと、哀しさの入り混じった秋が、その最盛に向かうだろう。
赤羽さんは最高の伴侶といろいろな土地を旅することができていいですね。かんとさんは一人だけ例の特権を持っていますから、予約無用で結構です。およその日はこちらで承知しています。
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本日はこの辺で。