入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「秋」(53)

2022年10月14日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 森は輝いていた。夜露でしっとりと濡れた峠から上は、朝の日を浴びて樹々の枝に残るその露が光り、そうでない光の届かない森との明と暗の対比を見せて、いつもとは違った印象を与えてくれた。晴れた日の森や林、曇りの日、そして雨の日と、そんな大まかな分け方でも幾つもの違った表情を見せてくれるのに、実際はもっと繊細で、例えばこの季節の雨の森でも驚くほど多彩な表情を見せてくれる名優である。
 昨日行った身延の原生林は南アルプスを構成する山域だけに、久しぶりに訪れた深山の趣はそれはそれで良かった。信州でよく目にする落葉松の人工林はなく、急峻な山腹を覆う自然林と古杉(こさん)が見せる山容は懐かしいものを見たような気がした。それでも、入笠の長年馴染んだ森や林に帰ってくると、やはりここに最も安堵感を覚える。

 きょうも囲い罠に鹿の姿はない。一昨日山を下りる前に、誘引のために丁寧に塩を何箇所かに施しておいたというのに、効果はなかったようだ。牛が下牧した日が先月の21日だから、もうすぐ1ヶ月になる。これまでに、これほど長く捕獲できなかったことがあっただろうか。
 やはり案じていたように、逃亡した鹿によってこの囲いが人の仕掛けた恐ろしい罠であることを、自らの体験を交えて仲間に教えたとでもいうのだろうか。だとしたら、鹿の能力を見くびっていたことになる。
 猟師によっては、人工的な臭気を消すため、道具だけでなく自分の体臭さえも気にかける人の話は聞いている。罠掛けの指導してくれた人もそういう人だった。また、捕獲した鹿を銃を使って殺せば飛散した血の匂いで、鹿は囲いに近付かなるとも教えられた。だが、ここではそういう話は悉く打ち消された気がした。それになにより、あの立て続けに聞える銃声こそ、鹿にとってはここの場所としったであろうに、翌々日には捕獲したことさえある。
 幸いというのか、その後下では諦めたのか何も言ってはこない。しかし、それでは新米にありつけるのはまだ先のことになる。きょうも5名ほどのご婦人連がキャンプに来ている。鹿たちもボツボツ下に移動するだろう。雄鹿には激しく敵愾心を燃やしているが、ウムー、どうなることやら。

 写真は本年最後のツタウルシ。もうこの呟きに、この植物の写真は添えないつもりだ。気温や雨に耐えて、よくここまで保ってくれた。華やかさの中に見せ始めた翳りは、紅葉の先駆けとなったツタウルシには似合わない。また来年を楽しみにしたい。

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする