その時、「南雲長官」と、第二航空戦隊司令官・山口多聞少将が突然、声をかけて、次のように言った。
「それでは、長官は、どうゆう風にやったら良いとおっしゃるのですか?」。
「南方作戦一本鎗だ」。南雲中将は、間髪を入れずきっぱりと言い切った。そして次の様に南雲中将は論じた。
「ハワイと南方に空母、飛行兵力を二分するときは、どちらも兵力不足になる恐れがあるし、真珠湾攻撃は何といっても投機的な支作戦にしか過ぎない」
「成功すれば成る程良いが、それにしても南方作戦が安心してやれる程度で、攻略を企図するのではないから、颱風一過の感じで爾後の戦局への戦果拡充が伴わぬ」
「万一失敗すれば、全作戦を台無しにして我が艦隊勢力もその半分を失う心配があり爾後、彼我の勢力の均衡は破れる。得るところよりも失うところの方が多かりそうで、開戦の作戦指導としてはまことに危なっかしい気がする」
「それよりも、南方作戦に全力を傾注して作戦目的を達し、速やかに不敗の態勢を確保した上で、アメリカ太平洋艦隊の撃滅を策する法が手堅いと思われる」
「我が海軍の全勢力を上げて南方作戦に従事するならば、太平洋艦隊の多少の牽制などはさして介意するに足らないと思う。以上のような理由で、本職は真珠湾作戦に反対である」。
このような南雲中将の主張を聞いて、連合艦隊の幕僚たちは顔を見合わせた。南雲中将の言にも一理はある。ことに軍令部ではだいたい南方作戦一本鎗の方針だった。
真珠湾を主唱するものは連合艦隊司令長官・山本五十六大将であるが、南雲中将は、当の真珠湾作戦の最高指揮官たるべき人である。幕僚たちが顔を見合わせたのも無理はなかった。
だが、山本大将は、相変わらず黙然と、目を閉じたままだった。
「本職は、真珠湾作戦に全面的に賛成であります」。一座の視線がサッと声の主に注がれた。第二航空戦隊司令官・山口多聞少将だった。山口少将は、やや上気持した顔をこわばらせて、次の様に論じた。
「南雲長官の言われる通り、真珠湾作戦には、多分に投機的な性格はあります。しかし、南方作戦を前にして、太平洋に重圧を加えている米国艦隊をほっておくということはない」
「アメリカ海軍は闘志極めて旺盛である。必ずや太平洋艦隊は英蘭豪の艦隊をも糾合して、我が南方作戦へ反撃してくることは必至であります」
「たとえ上陸に成功しても、補給線を攪乱され、もしくは艦隊の虚に乗じて本土を脅かされるような事態が生じたならば、作戦は収拾のつかないものになる恐れがあります」
「ゆえに、真珠湾への一撃は、作戦上まずなさなくてはならぬことと認めます。しかも我々の主敵はアメリカ海軍であります。兵力二分の不利を言われるならば我が艦隊の空母勢力はむしろ全部を上げて真珠湾に指向するのが至当です」
「私のみるところでは、南浦作戦など無防備に等しい地域だから、海軍の全勢力を注ぎ込むほどの事は無い、むしろ緒戦の主作戦はハワイに指向するのが本筋ではないかと思います」
「以上のような理由から、本職は真珠湾作戦に全面的に賛成で、この成功に、万全の方法を講ずることを望みます」。
一座は急に騒然とした。賛否両論が確然として対立したのである。南雲中将の所見に賛同の意を表す者と、山口少将の考えを是なりとする者とがはっきり分かれたのである。
だが、そこまで来ても山本大将は、黙って一座の議論に耳を傾けていた。そして、みんなの議論が出尽くした頃、山本大将は厳然として、次のように言った。
「真珠湾作戦に対する諸官の見解はよくわかった。しかし、本職の見解は、あくまで真珠湾はたたかねばならぬと思う。
それは激しい口調だった。一座はしんと静まった。山本大将はきっと一座を見まわして次のように続けた。
「諸官は、本職が連合艦隊司令長官の職にある限り、この作戦は決行するものとお含み願いたい。そして万全の措置を研究しおかれたい」。
一座の者は、山本大将の固い決意を改めて感じた。
「それでは、長官は、どうゆう風にやったら良いとおっしゃるのですか?」。
「南方作戦一本鎗だ」。南雲中将は、間髪を入れずきっぱりと言い切った。そして次の様に南雲中将は論じた。
「ハワイと南方に空母、飛行兵力を二分するときは、どちらも兵力不足になる恐れがあるし、真珠湾攻撃は何といっても投機的な支作戦にしか過ぎない」
「成功すれば成る程良いが、それにしても南方作戦が安心してやれる程度で、攻略を企図するのではないから、颱風一過の感じで爾後の戦局への戦果拡充が伴わぬ」
「万一失敗すれば、全作戦を台無しにして我が艦隊勢力もその半分を失う心配があり爾後、彼我の勢力の均衡は破れる。得るところよりも失うところの方が多かりそうで、開戦の作戦指導としてはまことに危なっかしい気がする」
「それよりも、南方作戦に全力を傾注して作戦目的を達し、速やかに不敗の態勢を確保した上で、アメリカ太平洋艦隊の撃滅を策する法が手堅いと思われる」
「我が海軍の全勢力を上げて南方作戦に従事するならば、太平洋艦隊の多少の牽制などはさして介意するに足らないと思う。以上のような理由で、本職は真珠湾作戦に反対である」。
このような南雲中将の主張を聞いて、連合艦隊の幕僚たちは顔を見合わせた。南雲中将の言にも一理はある。ことに軍令部ではだいたい南方作戦一本鎗の方針だった。
真珠湾を主唱するものは連合艦隊司令長官・山本五十六大将であるが、南雲中将は、当の真珠湾作戦の最高指揮官たるべき人である。幕僚たちが顔を見合わせたのも無理はなかった。
だが、山本大将は、相変わらず黙然と、目を閉じたままだった。
「本職は、真珠湾作戦に全面的に賛成であります」。一座の視線がサッと声の主に注がれた。第二航空戦隊司令官・山口多聞少将だった。山口少将は、やや上気持した顔をこわばらせて、次の様に論じた。
「南雲長官の言われる通り、真珠湾作戦には、多分に投機的な性格はあります。しかし、南方作戦を前にして、太平洋に重圧を加えている米国艦隊をほっておくということはない」
「アメリカ海軍は闘志極めて旺盛である。必ずや太平洋艦隊は英蘭豪の艦隊をも糾合して、我が南方作戦へ反撃してくることは必至であります」
「たとえ上陸に成功しても、補給線を攪乱され、もしくは艦隊の虚に乗じて本土を脅かされるような事態が生じたならば、作戦は収拾のつかないものになる恐れがあります」
「ゆえに、真珠湾への一撃は、作戦上まずなさなくてはならぬことと認めます。しかも我々の主敵はアメリカ海軍であります。兵力二分の不利を言われるならば我が艦隊の空母勢力はむしろ全部を上げて真珠湾に指向するのが至当です」
「私のみるところでは、南浦作戦など無防備に等しい地域だから、海軍の全勢力を注ぎ込むほどの事は無い、むしろ緒戦の主作戦はハワイに指向するのが本筋ではないかと思います」
「以上のような理由から、本職は真珠湾作戦に全面的に賛成で、この成功に、万全の方法を講ずることを望みます」。
一座は急に騒然とした。賛否両論が確然として対立したのである。南雲中将の所見に賛同の意を表す者と、山口少将の考えを是なりとする者とがはっきり分かれたのである。
だが、そこまで来ても山本大将は、黙って一座の議論に耳を傾けていた。そして、みんなの議論が出尽くした頃、山本大将は厳然として、次のように言った。
「真珠湾作戦に対する諸官の見解はよくわかった。しかし、本職の見解は、あくまで真珠湾はたたかねばならぬと思う。
それは激しい口調だった。一座はしんと静まった。山本大将はきっと一座を見まわして次のように続けた。
「諸官は、本職が連合艦隊司令長官の職にある限り、この作戦は決行するものとお含み願いたい。そして万全の措置を研究しおかれたい」。
一座の者は、山本大将の固い決意を改めて感じた。