陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

576.源田実海軍大佐(36)この漫画によって、「紫電改」とともに、源田実の名もクローズアップされた

2017年04月07日 | 源田実海軍大佐
 この通信システムの整備により、地上からの指揮誘導がスムーズになったほか、敵機の機上交信を傍受して在空の味方戦闘機に知らせることができるようになった。

 海軍だけに限らないが、ノイズがひどくてあまり活用されていなかった機上電話の改善にも力を入れ、苦心の末に完成した通信網と地上指揮機構を充分に活かせるようにした。

 こうしてせっかく作り上げた立派な通信システムであったが、有効に機能したのは松山基地の時だけであって、作戦の都合で部隊が鹿屋、大村と移動することによって活用されなくなった。

 また、機材と搭乗員の補充が消耗に追いつかないこともあって、その後は戦力の減退と共に、三月十九日のような大戦果が挙げられなくなった。

 「海軍航空隊始末記」(源田実・文春文庫)によると、著者の源田実は、終戦間近の部隊の状況について、次の様に記している。

 「このころは飛行機の数も少なく、熟練搭乗員の数もずいぶん減っていたが、士気については一分の衰えも見せなかった」。

 新鋭戦闘機「紫電改」で編成された三四三空の活躍は、ゼロ戦が往年の耀きを失ってしまった日本海軍戦闘機隊の中にあって、ひときわ目立ち、「日本海軍に強力な新鋭戦闘機隊が現れた」として、一時は強烈な印象を敵に与えた。

 ちなみに「紫電改」は戦闘機「紫電」の二一型以降の名称である。局地戦闘機「紫電」は、水上戦闘機「強風」を陸上戦闘機化したもので、「紫電改」は従来の「紫電」を低翼に再設計したものであり、自動空戦フラップと層流翼が特徴だった。

 「週刊少年マガジン」に昭和三十八年七月から昭和四十年一月まで連載され、その後新書や文庫による単行本も出版された、「紫電改の鷹」は三四三空を題材にした空戦記漫画である。

 著者のちばてつやの戦争に対する思いが現れており、当時の戦記漫画とは一線を画した異色の作品になっており、人気を呼んだ。

 また、紫電改は日本海軍航空隊の有終の美を飾った名機であり、「剣部隊」(第二次三四三海軍航空隊)はエースパイロットを集めた精鋭部隊であると、子供を中心に当時の人々に認識させるのに一役買った。

 作者のちばてつやは「この作品は失敗作だと思っている。話が地味で悲惨であり、主人公もくそ真面目だから」と述べている。だが、この作品は、近年まで版を重ねて出版され続けている。

 この「紫電改の鷹」の中に搭乗する「源田司令」は、まさに源田実そのもので、この漫画によって、「紫電改」とともに、源田実の名もクローズアップされた。

 漫画は「紫電改の鷹」のほかに、ビッグコミックオリジナル(小学館・昭和五十一年九月一日号)に掲載された「紫電」(松本零士作)、「紫電改のマキ」(野上武志・秋田書店)などがある。

 漫画だけでなく、ほぼ同じ時期に封切された映画「太平洋の翼」にも三船敏郎扮する「千田大佐」として颯爽とした源田実の姿が描かれている。

 映画「太平洋の翼」は、昭和三十八年一月三日に公開された戦争映画で、配給は東宝。監督は、松林宗恵、円谷英二(特撮)、音楽は團伊玖磨。

 戦争末期、新鋭戦闘機「紫電改」を中心とした第三四三海軍航空隊の戦いと人間模様を、事実に基づいて描いた映画だが、フィクション場面も加えられている。

 出演は、三船敏郎(千田大佐)、加山雄三(滝大尉)、夏木陽介(安宅大尉)、佐藤允(矢野大尉)、星由里子(玉井美也子)、池辺良(三原少佐)、渥美清(丹下一飛曹)、西村晃(稲葉上飛曹)など、往年のトップスターが名を連ねている。

 ちなみに、現在、「紫電改」を題材にした書籍は多数発行されているが、主なものは次の通り。

 作家の碇義朗(大正十四年十二月二十一日~平成二十四年十月十六日)が紫電改についての著書が多い。「最後の戦闘機 紫電改―起死回生に賭けた男たちの戦い」「紫電改の六機―若き撃墜王と列機の生涯」(碇義朗・光人社NF文庫)、「紫電改入門―最強戦闘機徹底研究」(碇義朗・光人社NF文庫)、「最後の撃墜王―紫電改戦闘機隊長菅野直の生涯(碇義朗・光人社NF文庫)などがある。

 その他の作家では、「帰って来た紫電改―紫電改戦闘機物語」(宮崎勇・光人社NF文庫)、「『源田の剣』改訂増補版・米軍が見た『紫電改』戦闘機隊全記録」(高木晃治・ヘンリー堺田・双葉社)などがある。