■首都高速の橋桁の錆止め塗料にかつて高度経済成長期からバブル期にかけて使用された鉛入り塗料が、最近の塗装更新で、下地塗装を剥がす必要性が増えているため、鉛による作業者への健康リスクが高まっているというニュースが、連休突入直後に報じられました。一体、鉛がどのように作業者の体内に取り込まれたのでしょうか。関連記事をチェックしてみました。
**********毎日新聞2019年4月27日 03時05分(最終更新 4月27日 03時17分)
防護対策は手探り 鉛塗料はがす工事増加、飛散リスク高まる
↑塗装工事が進められている首都高7号小松川線の高架下。鉛を含んだ塗料をはがす作業中であることを知らせる掲示がされていた=東京都江東区で4月16日、大久保昂撮影↑
鉛の飛散リスクが高まっているのは、高度経済成長期からバブル期にかけて橋桁のさび止めに使われた鉛塗料が劣化し、更新時期を迎えつつあるからだ。
高速道路の橋桁の鋼材には塗料が何層にも塗り重ねられており、さび止め塗料は「下塗り」と呼ばれる内側の層に当たる。外側の層に守られているために劣化が緩やかで、下塗りに手を加えず、外側の塗り替えだけで済むケースがこれまでは多かった。しかし、首都高の大半の路線で開通から30年以上が経過し、下塗りの劣化も目立ってきた。首都高の担当者は「今後、鉛塗料をはがす工事が増える可能性がある」とみている。
労働安全衛生法などは鉛から労働者を守るための対策や健康管理を義務づけているが、規制対象となるのは現場の塗装工を直接雇用している事業主だ。工事を発注する側の首都高も13~14年に鉛中毒の発症者が出たことに危機感を強め、受注業者に対して特殊なマスクの使用や使い捨て防護服の着用を義務づけるなどの対策を打ってきた。
ただ、新たに導入した対策が別の問題を引き起こして再考を余儀なくされるなど手探りの面もある。
例えば、首都高は14年10月、特殊な薬剤と塗料を化学反応させてはがす手法を全面的に取り入れた。鉛の飛散を防止するための試みだったが、15年2月にこの工法で作業していた首都高7号小松川線の現場で火災が発生し、作業員2人が死亡した。
薬剤では鉛塗料がはがしにくいことも明らかになり、機械で塗料を削り取る方法に戻した。首都高は粉じんの飛散防止対策を以前よりも手厚くすることで、作業員たちが吸い込まないようにしているという。【大久保昂】
**********毎日新聞2019年4月27日 03時00分(最終更新 4月27日 03時17分)
首都高速、鉛中毒リスク 労働者の2割検出 東京の診療所
↑塗装工事が進められている首都高7号小松川線の高架下。鉛を含んだ塗料をはがす作業中であることを知らせる掲示がされていた=東京都江東区で4月16日、大久保昂撮影↑
首都高速道路の塗装工事などに携わり、健康診断を受けた労働者170人のうち、2割近くに当たる31人の血液から、鉛中毒の発症リスクが高まる濃度の鉛が検出されたことが健康診断を担当した医師の調査で判明した。平成初頭までに整備された高速道路の鋼材の塗装には、さび止め剤として鉛が使われているケースが多く、塗り替え工事で削り落とした際に飛散し、吸い込んだ可能性がある。古いさび止め塗料は更新時期を迎えつつあり、労働者の健康をいかに守るのかが課題に浮上している。【大久保昂】
労働者を鉛にさらされる作業に就かせる場合、鉛の血中濃度などを調べる健康診断を受けさせることが雇用主には義務づけられている。首都高で塗装工事をしていた労働者の健康診断を請け負った「ひらの亀戸ひまわり診療所」(東京都江東区)の毛利一平医師は、鉛の血中濃度が異常に高い人が多いことに気がついた。
そこで、鉛による健康被害の危険性の広がりを確かめようと、2017年8月~19年4月に同診療所で健康診断を受けた170人の血中濃度を集計した。大半が首都高の塗装工事を担当していたり、そうした現場に出入りしていたりする労働者だった。
集計の結果、鉛中毒と診断された労働者はいなかったものの、発症リスクが高まる水準として国が示している目安(血液100ミリリットル当たり40マイクログラム)を超えていた労働者が31人いた。最も高い人は81・8マイクログラムに達しており、4人の外国人技能実習生も含まれていた。
さらに昨年7月ごろ、血中濃度の高い労働者5人の皮膚の表面を鉛に反応する薬剤で調べたところ、全員の体に鉛が付着していることも分かった。毛利医師は「鉛の飛散対策が不十分で、現場で吸い込んでいる可能性が高い」と指摘する。
首都高の塗装工事を巡っては、13~14年に労働者2人が鉛中毒を発症した。これを受け、厚生労働省や国土交通省は建設業界に加え、工事を発注する高速道路会社や自治体などにも対策の徹底を求めてきたが、現場への浸透は容易ではない。
首都高も昨年から現場の抜き打ち検査に乗り出すなど対策を強化しており、「受注業者に対して鉛対策の徹底を義務づけているが、現場で徹底されていなかった可能性はある。発注者の責務として指導していく」と話している。
塗料メーカーでつくる「日本塗料工業会」(東京都渋谷区)は1996年から鉛を含んだ塗料の削減を進めており、現在は国内ではほとんど使われていない。
「現場への教育徹底を」
●久永直見・愛知学泉短期大非常勤講師(産業医学)の話
倦怠(けんたい)感や腹痛といった鉛中毒の症状が表れても、その時点では、医師も原因に気づかない例が多い。近年はインフラの更新によって発症リスクが高まっており、見落としを防ぐためには医師が必要な知識を持つことが不可欠だ。また、中小の塗装業者や一人親方も含め、作業者への教育を徹底する取り組みも進めてほしい。
<鉛中毒>
鉛を体内に取り込むことで起きる健康障害。頭痛や倦怠(けんたい)感、手足のまひなどの症状に襲われ、死に至ることもある。全国労働安全衛生センター連絡会議(東京都)によると、1996~2016年度に国内で38件が労災認定された。世界保健機関(WHO)は13年、世界で毎年14万人以上が鉛中毒で死亡しているとの推計を発表している。
**********日経コンストラクション2018年12月12日05:00
塗装作業員から高濃度の鉛検出、首都高の補強工事
首都高速道路の補強工事に携わる複数の塗装作業員の血液から、激しい腹痛などを伴う「鉛中毒」を発症する恐れのある高濃度の鉛が検出されたことが分かった。
作業員は別の工事で被害に遭った可能性も指摘されているが、鉛の血中濃度は首都高の現場で働くようになってからもおおむね横ばいで推移している。
首都高の工事では5年ほど前、塗装作業員が鉛中毒を発症している。塗装の塗り替え工事で、既存の塗料をかき落とすケレン作業をしていた作業員が、飛散した高濃度の鉛の粉じんを吸引したのが原因とみられる。
その後、国や自治体、高速道路会社などが再発防止策を講じてきたが、今回の問題はいまだに塗装作業員が鉛中毒にかかる恐れがあることを物語っている。
↑問題が発覚した首都高7号小松川線の補強工事の現場。画像を一部加工(写真:日経コンストラクション)↑
(谷川博)
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■高速道路の橋桁の鋼材には塗料が何層にも塗り重ねられており、さび止め塗料は「下塗り」と呼ばれる内側の層に使用されました。外側の層に守られているために劣化が緩やかで、下塗りに手を加えず、外側の塗り替えだけで済むケースがこれまでは多かったのですが、首都高の大半の路線で開通から30年以上が経過し、下塗りの劣化も次第に目立ってきました。首都高の担当者は「今後、鉛塗料をはがす工事が増える可能性がある」とみていました。
我が国では1990年頃まで、高速道路の橋梁など鉄に塗る塗料に、防錆などのために鉛丹(四酸化三鉛)が混入されていました。橋梁塗装は、塗膜の劣化のため、約5~10年毎に塗り替えを行いますが,この時にディスクグラインダーを使って、古い塗膜を削る作業を行っています。この時、鉛粉じんが発生して、鉛中毒を起こす事例が報告されてきました。
首都高速道路は、高速道路の構造物の約8割を高架橋形式が占め、その大半で鋼桁形式を採用しています。そのため、鋼橋の塗装更新は必須であり、最近5年間は、毎年約14万㎡の需要があるそうです。これまでにも作業員の鉛中毒が発生したり、鉛塗料を剥がすために溶剤を使用したことから2度の火災事故を起こすなど、その作業環境の抜本的な変更が必要となっていました。
その結果として制定されたのが「鋼橋塗装設計施工要領」で、首都高の現場に即した塗膜除去方法、安全・安心・環境を意識した水性塗料の採用、コンクリート高欄の長期耐久性を企図した防水塗装の採用などが反映されていますが、やはりまだ末端の作業者には徹底し切れていなかったようです。
■鉛入りの粉塵を吸引することで発症する恐ろしい鉛中毒ですが、東邦亜鉛安中製錬所の降下ばいじんの中にも鉛など有害重金属が含まれていることが、群馬県の調査データからも確認されています。
○2019年4月17日:鉛やカドミウムが通常より最大60倍降り注いでいる東邦亜鉛安中製錬所周辺の土壌汚染の深刻度↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2933.html
東邦亜鉛は、鉛やヒ素入りの非鉄スラグをこれまで大量に岡田工務店を通じて、内陸県である群馬県の広範囲にばら撒いてきましたが、安中製錬所の周辺に住む住民にとっては降下ばいじん中に含まれる鉛やヒ素、カドミウム、水銀などの有害物質の管理もズサンであり、製錬所周辺の土壌はこれらの有害物質で高濃度に汚染されています。
地元住民に対しても「降下ばいじん対策要領」を緊急に制定し示す必要が東邦亜鉛にはあるのではないでしょうか。
【ひらく会情報部】