■高崎市の若宮苑を巡る補助金の不正給付を巡り、当会会員が高崎市を相手取って係争中ですが、本来はこうした介護保険制度の根幹を揺るがす事件が起きた場合、行政が率先して是正措置をとらなければなりません。ところが被告高崎市はなんと若宮苑を補助参加させて、不正行為を是正するどころか隠蔽しようと法廷で、公金を使って訴訟代理人の弁護士を起用して、抵抗を続けています。そのため、当会会員は、介護保険制度の元締めであり、補助金の一部も支給している群馬県に対して、不正給付を通報し是正措置を相談しましたが一向に埒があきません。そこで、2017年9月19日に群馬県監査委員あてに群馬県職員措置請求書(住民監査請求書)を提出したところ、この度、11月21日付で住民からの監査請求を棄却・却下するとする監査結果通知が送られてきました。
なお、本件住民監査請求の経緯は次のブログ記事を参照ください。
〇2017年9月20日:若宮苑不正給付事件…不正支出のうち群馬県が負担した公金分の回収を求めて当会会員が県に住民監査請求↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2417.html#readmore
〇2017年10月2日:【速報】若宮苑不正給付事件…高崎市の不正支出のうち県負担分の回収を求める住民監査請求で補正書提出↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2428.html#readmore
〇2017年10月17日:若宮苑不正給付事件…県が負担した公金分の回収を求めて当会会員が県監査委員の前で10月16日に陳述↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2440.html#readmore
*****住民監査結果*****PDF ⇒ scn_0001.pdf
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群監第202-30号
平成29年11月21日
小川 賢 様
群馬県監査委員 丸 山 幸 男
同 林 章
同 橋 爪 洋 介
同 星 名 建 市
住民監査請求に係る監査結果について
平成29年9月19日付けで収受した標記請求に係る監査結果は、別紙のとおりです。
群馬県監査委員事務局
特定監査係
TEL:027-226-2767
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群馬県職員措置請求監査結果
第1 請求人
群馬県高崎市剣崎町906番地
岩崎 優
群馬県安中市野殿980番地
小川 賢
第2 請求書の提出
平成29年9月19日
なお、請求人に対し、同月29日に補正を求め、同年10月2日に補正が行われた。
第3 請求の内容
1 請求の要旨(請求書原文が長文にわたるため、当監査委員がその内容を要約したもの)
請求人岩崎優の母親(以下「本件入所者」という。)は、平成27年6月20日から同年8月12日まで介護老人保健施設若宮苑(以下「若宮苑」という。)に入所していた(以下「本件入所1」という。)が、若宮苑が施設サービス計画(以下本件措置請求において「ケアプラン」という。)を作成したのは、事実証明書1のとおり同年7月15日であり、入所日から約25日間はケアプランなしで介護保健施設サービスが提供されていたことになる。
介護保健施設サービスは、ケアプランに基づいて提供されるものであり、ケアプランを欠くことは、利用者に合わせた適切な介護及び療養は不可能であることから、介護保険法(平成9年法律第123号。以下「介護法」という。)第8条第28項の規定及び介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号。以下「基準省令」という。)第13条第1項の規定に違反する。
加えて、当該ケアプランは、本件入所者本人の同意が得られておらず、交付もなされていないことから、基準省令第14条第7項及び第8項の規定にも違反する。
また、本件入所者は、平成27年9月18日から同年10月15日まで若宮苑に入所していた(以下「本件入所2」という。)が、本件入所2についてもケアブラン本体が作成されていないため、当然、本件入所者本人の同意が得られておらず、交付もなされていない。よって、この点についても介護法第8条第28項の規定並びに基準省令第14条第7項及び第8項の規定に違反する。
さらに、本件人所1及び本件入所2(以下これらを「本件入所」という。)における極めて重大な違法事由は、ケアプラン第2表の利用者(家族)確認欄(以下「栄養ケア計画」という。)の請求人岩崎優名義の署名が偽造されている点である(事実証明書1及び2)。請求人岩崎優は、栄養ケア計画に署名したことはなく、名前が誤って署名されていることから、外形上、請求人岩崎優本人の署名でないことは明らかであるが、このことは、鑑定人による筆跡鑑定の結果により立証されている(事実証明書3)。
栄養ケア計画の署名を偽造し、若宮苑の用に供することは、刑法(明治40年法律第45号)第159条及び第161条に規定する私文書偽造罪及び同行使罪に該当し、犯罪である。
市町村から事業者に支払われる介護給付費については、全体の50%が国・県・市町村の公費から負担されているが、施設等給付費の場合と居宅介護費の場合でその割合は異なり、施設等給付費の場合、国20%、県17.5%、市町村12、5%とされている。本件入所に関し、高崎市長から若宮苑に支払われた介護給付費(以下「本件介護給付費」という。)の合計金額は829,103円である(事実証明書4)が、その17.5%に相当する145,092円は、群馬県知事が高崎市長に支出した平成27年度介護給付費県費負担金を財源とするものである。
そして、市町村を保険者とする介護保険制度における都道府県の役割は、介護法第5条第2項の規定により、
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介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならないとされている。また、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第239条第2項において、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪かあると思料するときは、告発をしなければならない」とされている。
本件入所に関し、若宮苑が栄養ケア計画の署名を偽造し、及び介護報酬の支払を受けたことは、介護法第22条第3項にいう偽りその他不正の行為により介護報酬の支払を受けたことにほかならず、高崎市長は、若宮苑に対し、本件介護給付費の額及び当該額に100分の40を乗じて得た額を徴収すべき義務があるところ、これを徴収していない。そのため、群馬県知事は、高崎市長に対し、介護法第5条第2項の規定に基づき、高崎市長から若宮苑に支払われた本件介護給付費のうち、群馬県知事が高崎市長に支出した平成27年度介護給付費県費負担金を財源とする部分(以下「本件県費負担金」という。)を回収させるよう助言すべきであるが、これを怠っている。
よって、群馬県知事に対し、高崎市長を告発し、失われた県民の財産である本件県費負担金を回収するよう、監査委員が勧告することを求める。
2 事実証明書
請求人から提出された事実証明書は、次のとおりである(各事実証明書の表題は、措置請求書等における請求人の記載をそのまま使用した。ただし、事実証明書6は、個人名のみ加筆した。また、補正書とともに請求人から追加提出された資料は、当監査委員において表題を記載し、事実証明書7として付番した。)。
(1) 事実証明書1 ケアプラン総合計画書(本件入所1関係)
偽造ケアブラン第2表(本件入所1関係)
(2) 事実証明書2 偽造ケアプラン第2表(本件入所2関係)
(3) 事実証明書3 筆跡鑑定書
(4) 事実証明書4 高崎市・介護保険給付のお知らせ
(5) 事実証明書5 URL(資料として提出されているわけではなく、請求人陳述実施時にURLのみ提出された。)
(6) 事実証明書6 介護保険法第5条2項の規定を蔑ろにする群馬県の代理人である弁護士甲(以下「弁護士甲」という。)からの手紙
(7) 事実証明書7 平成28年4月20日付け群馬県知事宛て高崎市長発「平成27年度介護給付費県費負担金の実績報告について」ほか添付書類
3 補正について
(1) 補正依頼
本件措置請求については、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「地自法」という。)第242条第1項に規定する請求の要件を具備しているかどうか判断するに当たり不明な点が存在したことから、請求人に対し、平成29年9月29副寸けで補正依頼通知を送付し、同年10月2日に補正書が提出された。
(2) 補正書の内容(当監査委員が補正を求めた嘔項に対する請求人の回答をまとめたもの)
ア 誰に関する措置請求かについて
(回答) 群馬県知事に関する措置請求である。
イ 今回の措置請求は、「群馬県から高崎市に対して支払われた平成27年度介護給付費県費負担金の返還に加えて、当該介護給付費県費負担金の額に介護法第22条第3項の規定による100分の40を乗じて得た額の返還請求を含むもの」と解釈してよいか。
(回答) 100分の40を乗じて得た額の返還請求は含まない。
(3) 補正依頼期間の取扱いについて
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監査委員が措置請求書に記載された不明部分を確認するために補正を求めることは、適正な監査の実施に当たり必要不可欠な手順であることから、請求人に対し補正依頼通知を送付した日の翌日(平成29年9月30日)から哺正書が提出された日(同年10月2日)までの期間については、地自法第242条第5項に規定する監査を行う期間(60日)の計算から除外した。
第4 請求の受理
本件措置請求は、地自法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、平成29年10月11日に受理を決定した。
第5 監査の実施
1 監査対象事項
本件措置請求に係る措置請求書、事実証明書及び補正書の記載を総合し、監査対象事項は次のとおりとした。
高崎市に支出した平成27年度介護給村費県費負担金のうち、本件県費負担金相当額の返還等について
2 監査対象機関
健康福祉部介護高齢課(以下「介護高齢課」という。)
3 請求人の証拠の提出及び陳述の機会の付与
(1) 証拠の提出及び陳述の機会の付与
平成29年10月16日、地自法第242条第6項の規定により、請求人に対し、証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、請求人岩崎優は次のとおり陳述を行い、事実証明書5及び6を追加提出した(ただし、事実証明書5は、URLのみ提出された。)。
(2) 請求人陳述の要旨
介護法第123条第1項第2号において、「都道府県は、市町村に対し、介護保険施設及び特定介護施設入居者生活介護に係る介護給付に要する費用の額について、100分の17.5を負担する」とされている。
また、介護法第5条第2項において、「都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない」とされている。
しかしながら、群馬県知事は、若宮苑に対して不適正なケアプランに基づく介護保健施設サービスに係る介護給付費を支払った高崎市長に対し、当該介護給付費の財源の一部である本件県費負担金を回収させるよう助言すべきところ、これを行っておらず、群馬県民全体に損害を与えていることから、請求人岩崎優は群馬県知事に損害の補填のための是正措置を求めた。
これに対し、群馬県の代理人である弁護士甲から請求人岩崎優宛てに手紙が送付されてきた。
この手紙には、高崎市長を刑事告発するか否かは、請求人岩崎優が決めるべき問題であり、群馬県が刑事告発することはない旨が記されていた。
しかし、厚生労働省老健局介護保険計画課長通知(手成26年8月29日付け老介発0829第1号)において、保険者、都道府県又は国保連に寄せられた事業者に関する不適切なサービス提供、介護報酬不正請求等の苦情・告発・通報情報等の適切な把握及び分析を行い、事業者に対する指導監督を実施することとされている。また、全国介護保険指導監査担当課長会議資料(第2分冊・厚生労働省老健局)において、指導や監査において犯罪の恐れがあるものについては、警察、検察当局とも協議の上、刑事告発等についても検討することとされている。
それにもかかわらず、弁護士甲は、「群馬県が刑事告発することはない」と主張しているのである。
仮に、請求人岩崎優が若宮苑に対する刑事処罰を求めないこととした場合、不適正なケアプランに係る犯罪が全く存在しなかったことになる。その結果、群馬県が県民の損害を補填する義務を放棄したことになり、群馬県民全体の損害が補填されなくなってしまう。
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この点、熊本県においては、介護事業所を詐欺罪で刑事告発しているので、群馬県だけが無法地帯ということはあってはならない。
また、弁護士甲からの手紙には、介護保険給付に係る事務は保険者である高崎市が行い、介護保険施設に対する指導監督も中核市である高崎市が行うこととされていることから、本件は高崎市において検討すべき問題であり、原則として、群馬県が高崎市の判断に働き掛けることはない旨が記されているが、このことは、介護法第5条第2項違反である。弁護士甲の手紙からは、群馬県知事に本件県費負担金を回収する意思がないことが伺える。
さらに、この手紙には、群馬県としては、請求人岩崎優と高崎市との間で住民訴訟が係属中であると承知しており、このような状況の下、群馬県が高崎市に対して働き掛けることはなく、当該住民訴訟の結果により、何らかの事務処理が必要となった場合は、適切に処理したい旨が記されている。
しかし、これでは群馬県知事が群馬県民全体の損害の補填を自ら放棄してしまうことになり、介護法に規定されている義務の不作為を宣言したも同然である。つまり、群馬県知事は、自ら群馬県民全体の損害を補填すべく高崎市長から本件県費負担金を回収すべきであるにもかかわらず、請求人岩崎優に失われた本件県費負担金を回収させようともくろんでおり、介護法第5条第2項における地方公共団体の責務を放棄しているものといえる。
したがって、地自法上、群馬県監査委員には、群馬県民全体の損害の補填を正しく実行する責務がある。
よって、今回の住民監査請求に基づき、速やかに次の6点の措置を講じるよう、群馬県知事に対し、群馬県監査委員が勧告することを求める。
1 介護法第5条第2項の規定により、高崎市長に対し、必要な助言をすること。
2 高崎市長を告発し、失われた県民の財産である本件県費負担金を回収すること。
3 予備的に法的手段を講じること。
4 文書偽造により公金を不正に受給したことは犯罪行為であり、群馬県に損害を与え、極めて悪質であることから、警察に被害届を提出し、厳しく対処すべきこと。
5 介護法第69条の39の規定により、ケアプランを偽造した介護支援専門員の登録の消除を速やかに実施すること。
6 文書偽造という刑事事件の犯罪を、事後に是正するために必要な措置として、若宮苑を処分するよう高崎市長に速やかに助言すること。
4 監査の実施
平成29年10月24日、介護高齢課に対し、監査委員による対面監査を行った。また、これに先立つ同月19日、監査委員事務局職員による事務監査を行った。
第6 監査の結果
監査対象機関に対する監査の結果及び関係書類の調査等を行った結果は、次のとおりである。
1 関連する法令等(各法令等の記載は、該当部分の抜粋である。)
(1) 介護法
(国及び地方公共団体の責務)
第5条 国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。
2 都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない。
3 (略)
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(保険給付の種類)
第18条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 被保険者の要介護状態に関する保険給付(以下「介護給付」という。)
二 被保険者の要支援状態に関する保険給付(以下「予防給付」という。)
三 (略)
(登録の消除)
第69条の39(略)
2 都道府県知事は、その登録を受けている介護支援専門員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該登録を消除することができる。
一~三(略)
3 (略)
(報告等)
第100条 都道府県知事又は市町村長は、必要があると認めるときは、介護老人保健施設の開設者、介護老人保健施設の管理者若しくは医師その他の従業者(以下「介護老人保健施設の開役者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、介護老人保健施設の開設者等に対し出頭を求め、又は当該職員に、介護老人保健施設の開設者等に対して質問させ、若しくは介護老人保健施設、介護老人保健施設の開設者の事務所その他介護老人保健施設の運営に関係のある場所に立ち入り、その設備若しくは診療録、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2~3 (略)
(業務運営の勧告、命令等)
第103条 都道府県知事は、介護老人保健施設が、次の各号に掲げる場合に該当すると認めるときは、当該介護老人保健施設の開設者に対し、期限を定めて、それぞれ当該各号に定める措置をとるべきことを勧告することができる。
-~2(略)
2 (賂)
3 都道府県知事は、第1項の規定による勧告を受けた介護老人保健施設の開設者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該介護老人保健施設の開設者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命じ、又は期間を定めて、その業務の停止を命ずることができる。
4~5 (略)
(許可の取消し等)
第104条 都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該介護老人保健施設に係る第94条第1項の許可を取り消し、又は期間を定めてその許可の全部若しくは一郎の効力を停止することができる。
一~十二(略)
2~3(略)
(都道府県の負担等)
第123条 都道府県は、政令で定めるところにより、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額について、次の各号に掲げる費用の区分に応じ、当該各号に定める割合に相当する額を負担する。
一 介護給付(次号に掲げるものを除く。)及び予防給付(同号に掲げるものを除く。)に要する費用100分の12.5
<P6>
二 介護給付(介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)及び予防給付(介護予防特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)に要する費用100分の17、5
2~4 (略)
(報告の徴収等)
第197条 (略)
2 (略)
3 都道府県知事は、市町村長(指定都市及び地方自治法第252条の22第1項の中核市(第203条の2において「中核市」という。)の長を除く。以下この項において|川じ。)に対し、当該市町村長が第5章の規定により行う事務に関し必要があると認めるときは、報告を求め、又は助言若しくは勧告をすることができる。
4~5 (略)
(大都市等の特例)
第203条の2この法律中都道府県が処理することとされている事務で政令で定めるものは、指定都市及び中核市においては、政令の定めるところにより、指定都市又は中核市(以下「指定都市等」という。)が処理するものとする。この場合においては、この法律中都道府県に関する規定は、指定都市等に関する規定として、指定都市等に適用かおるものとする。
(2) 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下「地自令」という。)
(介護保険に関する事務)
第174条の49の11の2 地方自治法第252条の22第1項の規定により、中核市が処理する介護保険に関する事務は、介護保険法第4章第3節及び第4節並びに第5章第2節及び第4節から第6節までの規定により、都道府県が処理することとされている事務(司法第75条の2第1項、第82条の2第1項、第89条の2第1項、第99条の2第1項及び第115条の6第1項の規定による都道府県知事による連絡調整又は援助に関する事務を除く。)とする。この場合においては、次項及び第3項において特別の定めがあるものを除き、同法第4章第3節及び第4節並びに第5章第2節及び第4節から第6節までの規定中都道府県に関する規定(前段括弧内に掲げる事務に係る規定を除く。)は、中核市に関する規定として中核市に適用があるものとする。
(3) 群馬県介護給付費等県費負担金交付要綱(以下「県費負担金交付要綱」という。)
(交付の対象事業)
第2条 この負担金は、次の事業を交付の対象とする。
(1) 介護給村費負担事業(介護給付費県費負担金)(市町村が法の規定に基づいて行う介護給付及び予防給付に要する費用の支給事業をいう。)
(2) (略)
(交付額の算定方法)
第3条 この負担金の交付額は、算定政令の規定により算定するものとする。ただし、(略)。
2 介護高齢課の主張及び説明
(1) 介護保険制度について
ア 介護保険制度について
介護保険制度は、介護を要する状態になっても、できる限り自宅で自立した日常生活を営めるよう、真に必要な介護サービスを総合的・一体的に提供する制度で、平成12年4月に開始されたものである。
市町村が保険者となっており、制度運営の中心を担っている。
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イ 介護老人保健施設について
要介護1から5までの認定を受けた高齢者に対し、施設サービス計画に基づき、その自立を支援し、家庭への復帰を促すために、医師による医学的管理の下、看護・介護といったケアはもとより、作業療法士や理学療法士等によるリハビリテーションに加え、栄養管理、食事、入浴などの日常サービスまで併せて提供する施設である。医療と介護の中間的な位置づけの施設であるといえる。
ウ 介護老人保健施設において利用できる介護サービスのうち、施設サービス(入所)の内容について要介護者の在宅復帰等を支援することを目的として提供される介護サービスで、策定された施設サービス計画に基づき、要介護者が介護老人保健施設に入所後、医療、介護、リハビリテーション等のサービスを受けるものである。
エ 介護支援専門員について
介護支援専門員とは、要介護者又は要支援者(以下「要介護者等」という。)からの相談を受け、要介護者等がその心身の状況等に応じて適切な介護サービスを受けられるよう、介護サービス事業者等との連絡・調整を行う者で、要介護者等が自立した日常生活を営むために必要な援助に関する専門的知識・技術があるとして介護支援専門員証の交付を受けた人をいう。
介護老人保健施設における介護支援専門員の果たす役割は、主に次のとおりである。
・ 入所者及びその家族との面接による課題の把捉(アセスメントの実施)
・ 施設サービス計画の原案の作成
・ 施設サービス計画の作成及び交付
・ 施設サービス計画の変更
オ 介護保険施設におけるケアプランについて
介護保険施設の計画担当介護支援専門員が、当該介護保険施設に入所する要介護者1入1人に対して、当該介護保険施設において提供する介護サービスの種類、内容、担当者等を定めた計画をいう。
カ 介護保険施設におけるケアプランのうち、入所者又はその家族の同意を必要とする単位について個別に作成され、管理されていれば、それぞれに同意が必要である。
キ 介護給付に係る国・県・市町村の費用負担の割合について
次のとおりである。
・ 介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るもの
国20%、県17.5%、市町村12,5%
・ その他の介護給付に係るもの
国25%、県12.5%、市町村12.5%
(2) 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の支出等について
ア 介護給付費県費負担金を支出する根拠について
介護法第1 2 3条第1項の規定により、都道府県は、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額について、同項に定める割合に相当する額を負担するものとされている。
詳細は、次のとおりである。
・ 関係法令等 介護法
介護保険の国庫負担金の算定等に関する政令(平成10年政令第413号。以下「算定政令」という。)
県費負担金交付要綱
・ 対象経費介護給付及び予防給付に要する費用
<P8>
・ 県費負担金の算定方法 介護保険施設及び特定入居者生活介護に係るもの17.5%
その他の介護給付に係るもの12.5%
イ 平成27年度介護給付費県費負担金の対象範囲について
平成27年度介護給付費県費負担金の対象となるのは、平成27年3月から平成28年2月までに提供された介護サービスに係る費用である。
ウ 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の交付について
次のとおりである。
・ 交付申請年月日及び金額平成27年4月17日3,741,841,000円
・ 交付決定年月日及び金額平成27年5月7日3,741,841,000円
・ 変更交付決定年月日及び金額平成28年3月31目3,904,081,937円
・ 確定年月日及び金額平成28年5月11日3,904,081,937円
エ 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の支出について
次のとおりである。
・ 概算払年月日及び金額平成27年5月20日ほか10件合計3,430,009,000円
・ 精算払年月日及び金額平成28年5月20日474,072,937円
(3) 介護保険制度における県と市町村との関係等について
ア 介護保険制度における都道府県の役割について
介護保険制度における都道府県の役割は、広域的なサービス提供体制の整備に取り組むとともに、必要な助言と適切な援助により保険者である市町村を支援することである。
都道府県の主な事務は、おおむね次のとおりである。
・ 淑町村支援に関する事務
・ 事業所・施設に関する事務
・ 介護サービス情報の公表の事務
・ 介護支援専門員の登録等に関わる事務
・ 財政支援に関わる事務
・ 介護保険事業支援計画の策定に係る事務
・ その他の事務(国民健康保険団体連合会の指導監督)
イ 介護法第5条第2項に規定する「必要な助言及び適切な援助」の内容について
介護保険制度における都道府県の責務や役割が規定されたものであり、それ以上の内容を説明をする文書等はないが、介護法第5条第2項の規定は、具体的な事務を行う上で直接の根拠法令となるものではない。
ウ 介護保険制度における都道府県と市町村又は中核市との関係について
介護法第1 9 7条第3項の規定により、都道府県知事は、市町村長に対して、介護法第5章の規定により行う事務に関し、必要があると認めるときは、報告を求め、又は助言若しくは勧告ができるとされているが、同項の規定は中核市の長を除くこととされているため、中核市に対しては適用されない。
エ 都道府県が処理する介護保険に関する事務のうち、中核市が処理するものとされている事務について
介護法第203条の2の規定により、地自今第174条の49の11の2に規定されている事務については、中核市が処理するものとされている。
したがって、中核市に所在する介護老人保健施設に対する質問又は立入検査(第100条第1項)、業務運営の勧告又は命令(第103条第1項又は第3項)、許可の取消し(第104条第1項)等の各権限
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・ 県費負担金の算定方法介護保険施設及び特定入居者生活介護に係るもの17.5%
その他の介護給付に係るもの12.5%
イ 平成27年度介護給付費県費負担金の対象範囲について
平成27年度介護給付費県費負担金の対象となるのは、平成27年3月から平成28年2月までに提供された介護サービスに係る費用である。
ウ 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の交付について
次のとおりである。
・ 交付申請年月日及び金額平成27年4月17日3,741,841,000円
・ 交付決定年月日及び金額平成27年5月7日3,741,841,000円
・ 変更交付決定年月日及び金額平成28年3月31目3,904,081,937円
・ 確定年月日及び金額平成28年5月11日3,904,081、937円
エ 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の支出について
次のとおりである。
・ 概算払年月日及び金額平成27年5月20日ほか10件合計3,430,009,000円
・ 精算払年月日及び金額平成28年5月20日474,072,937円
(3) 介護保険制度における県と市町村との関係等について
ア 介護保険制度における都道府県の役割について
介護保険制度における都道府県の役割は、広域的なサービス提供体制の整備に取り組むとともに、必要な助言と適切な援助により保険者である市町村を支援することである。
都道府県の主な事務は、おおむね次のとおりである。
・ 淑町村支援に関する事務
・ 事業所・施設に関する事務
・ 介護サービス情報の公表の事務
・ 介護支援専門員の登録等に関わる事務
・ 財政支援に関わる事務
・ 介護保険事業支援計画の策定に係る事務
・ その他の事務(国民健康保険団体連合会の指導監督)
イ 介護法第5条第2項に規定する「必要な助言及び適切な援助」の内容について
介護保険制度における都道府県の責務や役割が規定されたものであり、それ以上の内容を説明をする文書等はないが、介護法第5条第2項の規定は、具体的な事務を行う上で直接の根拠法令となるものではない。
ウ 介護保険制度における都道府県と市町村又は中核市との関係について
介護法第197条第3項の規定により、都道府県知事は、市町村長に対して、介護法第5章の規定により行う事務に関し、必要があると認めるときは、報告を求め、又は助言若しくは勧告ができるとされているが、同項の規定は中核市の長を除くこととされているため、中核市に対しては適用されない。
エ 都道府県が処理する介護保険に関する事務のうち、中核市が処理するものとされている事務について
介護法第203条の2の規定により、地自今第174条の49の11の2に規定されている事務については、中核市が処理するものとされている。
したがって、中核市に所在する介護老人保健施設に対する質問又は立入検査(第100条第1項)、業務運営の勧告又は命令(第103条第1項又は第3項)、許可の取消し(第104条第1項)等の各権限
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は、当該中核市がその権限を有することになる。
オ 介護保険施設等に対する指導監督の権限について
都道府県が指定した介護保険施設等に対しては、都道府県に指導監督の権限があるが、中核市が指定し、又は権限移譲により移管された介護保険施設等に対しては、中核市が指導監督の権限を有する。
具体的には、上記エのとおりである。
(4) 若宮苑について
ア 若宮苑の概要について
次のとおりである。
・ 医療法人十薬会介護老人保健施設若宮苑
・ 〒370-0031高崎市上大祭町759番地管理者矢島祥吉
・ 入所定員一般棟50名、認知症専門棟10名
・ 開設年月日平成2年4月16日
なお、開設許可は県が行ったが、平成24年4月に改正介護法が施行されたことに伴い、指導監督権限は中核市である高崎市に移譲されている。
イ 本件入所の事実及び介護給付の提供について
請求人岩崎優から介護高齢課に送付された文書や高崎市が若宮苑に指導に入った時の文書等により間接的に確認している。
ウ 高崎市が若宮苑に支出した本件介護給付費の金額について
介護高齢課では把握していない。
エ 若宮苑に対する調査等について
介護高齢課では行っていないし、法令上もすることができない。
オ 若宮苑に対する任意の調査について
請求人岩崎優と高崎市が住民訴訟で争っている現段階において、調査等をする予定はない。
(5) その他
ア 本件入所に関し、若宮苑が本件入所者に提供した介護保健施設サービスが法律上の原因を欠いている(又は介護法の規定に違反する)とする請求人の主張について
介護法において、介護保険の保険者は市町村とされており、個別の介護給付費の支給に関する審査・支払に関する事務は市町村が実施している。また、高崎市に所在する介護保険施設に対する指導監督権限は、中核市である高崎市にあるため、法令上、県が高崎市に対して指導や助言をすることもできない。
したがって、県は、本件入所に係る事実の詳細を知りうる立場にはなく、若宮苑による本件介護給付費の請求が法令に違反するか否かは高崎市において判断されるものである。
イ 本件入所に関し、若宮苑が本件入所者の栄養ケア計画の署名を偽造したとする請求人の主張について
栄養ケア計画の署名の偽造が事実であるか否かも含め、県には若宮苑に対して指導監督を行う権限はないため、請求人の主張に対し、調査し、又は判断することはできない。
ウ 本件入所に関し、本件入所者の栄養ケア計画の署名が偽造されていた場合における本件県費負担金への影響について
本件介護給付費の支給が不正又は不適正なものとして、高崎市が若宮苑に対し、本件介護給付費の返還を求めた場合には、本件県費負担金の算定基礎となる介護給村費が減額となるため、本件県費負担金も減額となる。その場合、県は高崎市から本件県費負担金相当額を返還してもらうことになる。
エ 請求人岩崎優と高崎市との住民訴訟の審理の状況等について
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請求人岩崎優と高崎市との間の事案であり、現在も係争中であることは承知しているが、県が関与する立場にはないため、審理状況等は把握していない。
オ 本件介護給付費の支出等に係る高崎市に対する県の指導・助言等の実施状況及び今後の対応について
中核市である高崎市に対して、県には指導・助言を行う権限がないため、特に行っていない。
なお、請求人岩崎優と高崎市との間で係属している住民訴訟の結果、高崎市に対して本件県費負担金の返還を求める必要が生じた場合には、返還の事務処理等を適切に行うこととする。
カ その他請求大の主張に対する反論について
本件措置請求は、高崎市が所管する介護保険施設が提供したサービス内容に起因するものであるが、法令上、請求人岩崎優と高崎市との間で解決されるべきものである。若宮苑が提供したサービスの内容や支払われた介護給付費が適正であったか否かは、高崎市において判断されるものであり、県に判断する権限はない。
また、本件介護給付費の支給の適否について請求人岩崎優と高崎市との間で裁判で争っている状況の下で、本件介護給付費の支給が不正又は不適正であることを前提とした本件措置請求も適当ではないものと考える。
3 事実関係の認定
(1) 介護給付に要する費用の負担害I」合について
都道府県における介護給付に要する費用の負担割合は、介護法第1 2 3条第1項、算定政令第2条第1項及び県費負押金交付要綱第3条の規定により、次のとおりとされている。
・ 介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るもの17.5%
・ それ以外の介護給付に係るもの12、5%
(2) 高崎市に対する平成27年度介護給付費県費負担金の交付決定、支出等について
交付決定伺い、変更交付決定伺い、概算払伺い、確定及び精算払伺い、支出回議書等を調査したところ、高崎市長に対し、次のとおり決定され、及び支出されていた。
ア 交付決定等
決定年月日 金額
交付決定 平成27年5月 7日 3,741,841,000円
変更交付決定 平成28年3月31日 3,904,081,937円
確定 平成28年5月10日 3,904,081,937円
イ 支出
支出年月日 金額
概算払 1回目 平成27年5月20日 311,819,000円
2回目 平成27年6月19日 311,819,000円
3回目 平成27年7月17日 311,819,000円
4回目 平成27年8月20日 311,819,000円
5回目 平成27年9月18日 311,819,000円
6回目 平成27年10月20日 311,819,000円
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7回目 平成27年11月20日 311,819,000円
8回目 平成27年12月18日 311,619,000円
9回目 平成28年 1月20日 311,819,000円
10回目 平成28年 2月19日 311,819,000円
11回目 平成28年 3月18日 311,819,000円
合計 - 3,430,009,000円
精算払 平成28年 5月20日 474,072,937円
合計 - 3,904,081,637円
(3) 高崎市に支出した平成27年度介護給付費県費負担金のうち、本件県費負担金相当額について
介護高齢課では把握しておらず、判明しなかった。
介護高齢課では、介護給付費県費負担金の支出に当たり、県費負担金交付要綱の規定に基づいて事務を行っており、各市町村に対して、個々の事業者ごとに支払った介護給付費の内訳等の資料の提出を求めていないとのことだった。
(4) 介護法第5条第2項の規定の趣旨について
介護法第5条第2項は、都道府県に対して、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われる容易必要な助言及び適切な援助をしなければならないと規定しているが、「逐条解説介護保険法」(増田雅暢著、平成26年4月発行)によれば、同項の規定は、介護保険事業が健全かつ円滑に行われるように、保険者である市町村を重層的に支えて言うことを狙いとして、都道府県の責務を規定したものとされている。
(5) 都道府県が処理する事務の中核市への権限移譲について
地自令第174条の49の11の2は、介護法第4章第3節及び第4節並びに第5章第2節及び第4節から第6節までの規定により都道府県が処理することとされている介護保険に関する事務に関し、中核市が処理すると規定しており、この中には介護老人保健施設の開設許可(第94条)、質問又は立入検査(第100条第1項)、業務運営の観光又は命令(第103条第1項又は第3項)、許可の取消し(第104条第1項)等の事務も含まれているなど、都道府県の権限が中核市に移譲されていた。
(6) 中核市に対する都道府県の助言等について
介護法第197条第3項は都道府県知事が、市町村長に対して、当該市町村長が介護法第5章の規定により行う事務に関し、報告を求め、又は助言若しくは勧告をすることができると規定しているが、同項の規定は、中核市の長に対しては除外されている。
第7 監査委員の判断
本件措置請求に関して、認定した事実関係を基に監査委員が判断した結果は、次のとおりである。
なお、課判断紅毛は、請求人陳述実施時における請求人の主張に対応させたものである。
1 判断
(1) 介護法第5条第2項の規定による高崎市長への助言について
請求人は、介護法第5条第2項の規定を根拠として、群馬県知事が高崎市緒に和解や円から本件介護給付費の返還等の助言をするよう主張している。
しかしながら、同項の規定は、地域保険方式による介護保険事業の導入に伴って、保険者となって制度の
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中心的役割を担い、事務的・財政的負担が増すことになる市町村を、国、都道府県、医療保険者、年金保険者等が重層的に支えていくことを狙いとして、介護保険事業が健全かつ円滑に運営されるよう、都道府県の責務を抽象的に宣言したにとどまるものであり、都道府県に対して具体的義務を際したものではない。したがって、それのみでは法的規範性を有しておらず、「必要な助言及び適切な援助」の具体的実効性は、別途、同項の規定の趣旨を実現するために個別に規定された介護法の各条項によってはじめて与えられるものである。
これをもとに本件をみるに、都道府県知事か市町村長に対して助言等をする根拠となる介護法第197条第3項は、市町村長に対して、当該市町村長が介護法第5章の規定により行う事務に関し、報告を求め、又は助言若しくは勧告をすることができる旨を規定しているものの、中核市の長を除外している。また、介護老人保健施設に対する質問又は立入検査(第100条第L項)、業務運営の勧告又は命令(第103条第1項又は第3項)、許可の取消し(第104条第1項)等の各権限についても、同法第203条の2の規定による地自令第174条の49の2の11の規定により、既に中核市に移譲されているというのであるから、結局のところ、群馬県知事は、中核市たる高崎市の長に対し、介護法第5条第2項を根拠とする具体的な助言をすることはできないというべきであって、請求人の主張は失当である。
そして、本件県費負担金の取扱いにつき、高崎市長に対し、さらに進んで任意の助言、調査等を行うかどうかについて、介護高齢課長は、請求人岩崎優と高崎市との間で係属している住民訴訟の結果により高崎市が若宮苑から本件介護給付費の返還が必要となった場合には、本件県費負担金相当額についても返還の措置を講じるとしており、上記の介護保険制度における都道府県と市町村又は中核市との法的関係性に加え、介護給付費県費負担金は都道府県が負担するとされているものであることを考慮すれば、このような同課長の判断も合理性を欠くものと評価することはできない。
なお、請求人は、厚生労働省老健局介護保険計画課長名の通知(平成26年8月29日付け老介発0829第1号)を挙げて、都道府県は保険者(市町村)、都道府県等に寄せられた事業者に関する不適切なサービス提供や介護報酬の不正請求等に関する苦情・告発・通報情報等の適切な把握及び分析を行い、事業者に対する指導監督を実施することとされている旨を主張するが、当該引用部分は「第二保険者による適正化事業の推進」に属するものであることから、保険者たる市町村に対する記述であることは明らかであって、同主張は採用することができない。また、同様に、全国介護保険指導監査担当課長会議資料(第2分冊・厚生労働省老健局)を挙げて、指導や監査において、犯罪の恐れがあるものについては、警察、検察当局とも協議の上、刑事告発も検討することとされている旨を主張するが、若宮苑に対し指導や監査を実施する権限を有するのは中核市たる高崎市であるから、間主張は採用することができない。
さらに、請求人は、熊本県が介護事業者を刑事告発した事例を挙げて、群馬県も同様に対応するよう主張するが、熊本県の事例は中核市ではない市町村に所在し同県が指導監督権限を有する介護事業者に対して行われたものであるから、本件措置請求に適切でなく、同主張は採用することができない。
以上のことからすれば、本件措置請求のうち、群馬県知事が高崎市長に介護法第5条第2項の規定による助言をするよう求めるとする部分については、請求人の主張は理由がない。
(2) 本件県費負担金相当額の返還について
請求人は、群馬県知事か高崎市長に対して本件県費負担金相当額の返還等の措置を講じないことが違法又は不当な財産の管理を怠る事実に当たるとして、高崎市長から本件県費負担金相当額を返還させるよう主張しているが、当該怠る事実を認めるためには、高崎市が若宮苑に支出した本件介護給付費が違法又は不当と認められ、かつ、高崎市長から群馬県知事に本件県費負担金相当額が返還されない状態でなければならないところ、現段階において、高崎市は本件介護給付費の支出を正当として請求人岩崎優とも係争中であるとい
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うのであるから、上記の介護保険制度における都道府県と中核市との法的関係性を考慮すれば、群馬県知事が違法または不当に財産の管理を怠っているということはできないというべきであって、請求人の主張は失当である。
以上のことからすれば、本件措置請求のうち、群馬県知事が高崎市長から本件県費負担金相当額を返還させるよう求めるとする部分については、請求人の主張は理由がない。
(3) 高崎市長の刑事告発その他の求める措置について
その他、請求人は、群馬県知事に対し、①高崎市長を刑事告発すること、②警察に被害届を提出すること、③介護法第69条の39第2項の規定による介護支援専門員の登録の消除を実施すること、④若宮苑の処分を高崎市に助言することを求めているが、本件措置請求は、高崎市長が若宮苑に支出した本件介護給付費のうち、本件県費負担金相当額の返還等の措置を群馬県知事が講じないことにつき、違法または不当な財産の管理を怠る損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができるところ、上記の請求人の求める措置は、請求人が群馬県の被った損害であるとする本件県費負担金相当額の返還や補填をするために必要な措置とはいえないから、地自法第242条に規定する住民監査請求として不適法である。
また、請求人は、群馬県知事が「予備的に法的手段を講ずるよう」主張しているが、求める措置の内容が具体的に特定されていないから、住民監査請求として不適法である。
したがって、本件措置請求のうち、群馬県知事が高崎市長を刑事告発すること等を求めるとする部分及び予備的な法的手段を求めるとする部分については、いずれも却下を免れない。
2 結論
以上のことから、本件措置請求のうち、群馬県知事が介護法第5条第2項の規定による高崎市長への助言をするよう求めるとする部分及び本件県費負担金相当額を返還させるよう求めるとする部分については、請求人の主張は理由がないから、これをいずれも棄却する。
また、群馬県知事が高崎市長を刑事告発すること等を求めるとする部分及び予備的な情的手段をこうじるよう求めるとする部分については、住民監査請求として不適法であるから、これをいずれも却下する。
以上
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■群馬県の監査委員は、実質的にすべて監査作業を県の職員に任せてしまっています。書金が仕上げた監査結果にちょっと目を通すだけで、県職員のなすがままです。だから、実態として全く機能しません。今回の監査結果もその背景や経緯が如実に読み取れる内容となっています。
とくに刑事訴訟法で定められた公務員の告発義務について、当会を含む監査請求人が、この権限を行使して、財務会計行為上の損害を回復するように求めたのですが、あろうことか県監査委員(=群馬県職員の傀儡)は、「予備的に法的手段を講ずるよう求める請求人のしゅちょうには、求まる措置の内容が具体的に特定されていないから、不適法である」として、切って捨てました。これでは、そもそもこうした不祥事件に対する自浄作用の乏しい役所の組織の怠慢や無責任体質を温存しさらに助長しかねません。
また、介護法に定めた県の立場は市町村に対して重層的な役割を果たすと認識していながら、「高崎市は中核市だから、権限はすべて高崎市にある」として、自らの不関与を正当化しようと監査結果で縷々記述する始末です。
このまま住民訴訟に持ち込んでも、行政側に立って審理する裁判所の体質からして、費用の時間のムダだという意見もあります。他方、これでは中核市の場合、中核市自らが違法行為を行ってもそれを監視する上部組織が存在しないことになり、違法行為=犯罪が野放しになってしまうため提訴すべきだとする意見もあります。
年末までの30日間に対象方針を検討の上、判断する所存です。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】