国民皆保険制度50 周年を迎えて
The Health Care System of Japan ― The 50th Anniversary ―
独立行政法人国立病院機構 理事長 矢 義雄
■ はじめに
今年は,わが国で国民皆保険制度が実施されてか
ら50 周年を迎える。すべての国民に給付の平等と
医療へのフリーアクセスを可能にした素晴らしい社
会保障制度で,世界大戦後の敗戦国でありながら,
世界で4 番目に達成されたことは特記すべきことで
あった。
■ 国民健康保険制度の成り立ち
そもそもの健康保険のしくみは,中世のドイツに
おけるマイスターを中心とした職能集団(ギルド)
の互助組織より始まるとされている。そして1883
年に,時の宰相ビスマルクがこの組織を中核として
全国展開し,疾病保険法を制定した。1911 年には,
イギリスが,労働環境が著しく劣悪化した状況を鑑
みて,労働者への処遇改善と産業のさらなる振興と
いう国策に沿って,医療に公的支援を行う国民保険
法が制定された。
わが国も,遅れること10 年余の1922 年(大正11
年)に同様な目的で健康保険法が制定され, 2 年後
に実施されて,公的な医療支援が開始された。当初
の加入率は3 %にすぎなかったが,1938 年(昭和13
年)に国民総動員法の一環として改正された国民健
康保険法が制定され,当時国民の大半を占めていた
農業従事者も加入できるようになり,1943 年には加
入率が70 %を超えるようになった。しかし,1948
年には戦後の混乱期もあって加入率が60 %を切る
ようになり,国民の間で健康不安が広がった。そこ
で,政府はイギリスにおいて戦後の社会復興を目指
した政策提言の「ベバリッジ報告」の強い影響を受
け,1950 年の社会保障審議会による「50 年勧告」
に従って,国民皆保険制度の確立を政策として取り
入れた。