40歳前後の女性を指してアラフォー(around 40 の略)と表現するメディアが増えている。かつての女性は「仕事と結婚」の間で、二者択一を迫られていたもの。ところがアラフォー世代は、男女雇用機会均等法のもとで社会進出を果たしたことから、仕事と結婚を比較的自由に選択できるようになった。だがそのことが人生の転機を遅くさせ、将来に対する漠然とした不安を抱かせている。
まずこの世代を語る上で欠かせないのは、1986年に施行された男女雇用機会均等法の存在だろう。現在40歳の女性は、施行当時18歳だった。各企業では総合職制度や育児休業制度などを導入。このため、女性の社会進出が急速に進んだ。当時のバブル景気も追い風になった。バリキャリ(バリバリ働くキャリア女性)という言葉が「現代用語の基礎知識」で初めて登場したのは、1991年版のことである。
そのためか、アラフォー世代の中には「なにも急いで結婚する必要はない」と考える人も増えた。厚生労働省の人口動態統計によると、女性の初婚年齢は1990年には26.9歳だったが、2005年には29.4歳まで上がっている。また国勢調査などによると、30〜34歳女性の未婚率は1990年には13.9%だったが2005年には32.0%まで上がっている。この世代に、結婚の判断を保留する人が増えているわけだ。
実はアラフォー世代が結婚の判断を保留する要因の一つに、周産期医療の発展がある。つまり、高齢出産が以前ほど危険ではなくなっているのだ。人口動態統計によると、女性が第一子を産む平均年齢は1990年には27.0歳。2005年には29.1歳まで上がっている。また35歳から44歳までの女性が産んだ子供の数は、1990年には約10万人だったが2005年には約17万人まで増えている。
アラフォー世代は独自の文化も生み出した。例えば故・岩下久美子氏が1999年に提唱した「おひとりさま」もその一つ。これは「個を確立した大人の女性」を指す言葉だった。同氏は「おひとりさま」の行動として、レストランを1人で気軽に利用する、1人旅を楽しむなどのスタイルを提案した。依存心をなくすことで個を確立して、逆に他者との良い共存関係を目指す意図があった。のちにアラフォー世代では、ご褒美消費などの「おひとりさま」的な新習慣も定着した。
これらの時代背景から、アラフォー世代が仕事・結婚・出産・趣味などの人生の選択肢を比較的自由に選び取ってきたことが分かる。言い換えるとアラフォー世代は、仕事と結婚という二者択一から逃れた最初の世代だとも言える。
だが自由の代償として、アラフォー世代は漠然とした悩みを抱えている。各メディアが興味を示すのは、この悩みの部分だ。
まず、この世代のキャリア女性は「ガラスの天井」という問題を抱えている。管理職に就いている女性が、それ以上の要職に就けないという状況を指す。制度上はそのことを全く明記しないのに、運用で差別されるため「ガラスの天井」と表現する。厚労省の賃金構造基本統計調査によれば、民間企業で部長職に就く女性の割合は2005年時点で2.8%に過ぎない。この限界を見越し、職を辞して結婚や出産に踏み切る女性もいる。
またアラフォー世代にとって、結婚や出産に関する悩みは多い。例えば「未婚者などは出産までのタイムリミットが迫っている」という問題がある。つまり結婚や出産を決断するために残された時間が、少ないのだ。そしていざ出産に踏み切った場合も、周りに同世代の母親がいないことで悩むことになる。いっぽう結婚しないことを選択している人は、老後の生活に漠然とした不安を抱いている。
双方の悩みに共通するのは「女性の人生における転機が遅くなっている」ということだろう。ざっくり言えば転機が10歳ほど遅く訪れている。しかも自分と似た生き方をした先輩が少ないため、ロールモデル(お手本)も見つけられない。むしろ自分自身が後輩世代のモデルとなっており、特にキャリア女性にとってはこれが重圧になっている。
2004年には「負け犬」が流行語となった。「30代・非婚・子なし」という定義だが、積極的に職業をまっとうする女性を、逆説的に応援する言葉だった。これはアラフォー世代に属する非婚者の姿そのものだといえる。世代が抱える問題は、現在まで持ち越されたまま。アラフォーとは、女性の新しい生き方を示す「最先端の世代」である一方、新しい生き方にもがく「苦悩の世代」でもある。
●私の息子や娘たちの40歳前後の問題なんだね~