こころの天気図:免疫と精神不調=東京大教授、精神科医 佐々木司
2019年2月20日 (水)配信毎日新聞社
昨年の本庶佑(たすく)さんのノーベル医学生理学賞受賞で注目を集めた「免疫」は、精神不調との関わりも深い。その一つは精神不調がもたらす免疫機能への影響だ。うつ状態や疲労の蓄積は、免疫系の機能を低下させ抵抗力を落とすことが知られている。ストレスも免疫力を低下させる。
このため、うつ状態では風邪をひきやすくなる。以前に感染し、普段は体の奥に潜んでおとなしくしているウイルスが悪さを始めることもある。例えば水ぼうそうウイルスは、強い神経痛を伴う帯状疱疹(ほうしん)という皮膚疾患を引き起こす。
免疫機能低下は、がんのリスクも高める。普段なら体の細胞ががん細胞に変化しても免疫細胞が取り除いてくれるが、免疫機能が低下するとそれがうまくいかなくなる。
また、緊張やストレスが高まると、それに負けないようもっと頑張ろうと体が自然と反応する。その際、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌が高まるが、これは免疫系の働きを抑制する作用がある。
「頑張ろうとしているのに、何で?」と思うかもしれないが、免疫系は体と心がゆったりしている時にしっかりと働く。頑張りすぎて緊張している時は働きが鈍るのだ。ちなみにコルチゾールは皮脂を過剰に分泌させ吹き出物を増やすが、こういう時は免疫機能も落ちている。頑張りすぎは体にも心にも良くない。
もう一つの大きな関わりは、感染やそれに伴う免疫反応が精神不調に影響する点だ。風邪をひいたり熱が出たりした時に眠たくなるのはその一例。感染への反応で免疫細胞の活動が高まり、免疫物質の分泌が増えることが原因だ。これは感染症を治すのに必要な反応であり、よく眠れば体の抵抗力も高まる。
また、風邪やインフルエンザ感染では気分が落ち込みやすいが、これも免疫反応との関係である。風邪や感染が過労や疲労、うつ気分などで抵抗力が下がって起きている場合には、悪循環でうつ症状がより長引く可能性もある。無理せず予防に努めてほしい。
特に注意が求められるのは妊娠中の女性だ。風疹で知られるように、妊娠中のウイルス感染は胎児の発達に影響する可能性も否定できない。本人だけでなく、感染源となり得る周りの人たちも、ワクチン接種を含めた注意が必要である。
一部の精神疾患では、インフルエンザ大流行の年に生まれた子はわずかながらリスクが高まる可能性も報告されている。手洗いやうがいの励行など、予防の大切さを知っておこう。(次回は3月27日掲載)