大きなかぶ農園だより

北海道マオイの丘にある大きなかぶ農園からのお便り・・
※写真はsatosi  

続 ”幼馴染のふたり”

2009-11-29 | 日記
結局ノボルさん札幌の用事は口実らしく、長沼温泉で何日かゆっくりしたいと言う。
翌日は週末で満室。「静さんちでゆっくりしてもらう?」と夫と私が促がすが
静さんは「ぜったいだめ」と口をへの字にして目も吊り上げている。
口数少ないノボルさんだが帰りたくない気持ちはひしひしと伝わってくる。
家では孫夫婦と同居しているが会話はないようだと親戚から聞いていたので、
家や土地や親戚や全てのしがらみから解放されて過ごす時間を贈りたいと強く思う。
静さんもそれを思ってのことだったろうが、こうして故郷を離れた場所で初めて
ノボルさんと向い合うことになってみて、相手の老いと衰えの現実を目の当たりにし
たショックが戸惑いとなっているのだと推測した。
ナントイッテモ自分が指定した南千歳駅に降り損なったことが「信じられない」ことらしくボロクソになじる。
「静さん自分と比べるからがっかりするんだよ、86なら不思議じゃないよ」と言っても効き目なし。
一人暮らしの気楽さと緊張感をバランスよく維持し貫く静さんからみたら情けないに尽きるのだろう。
ノボルさんはポンポン言われるのがさほど苦にならない様子で穏やかに座って静さんを眺めている。
二泊目の宿泊先は決まらず「静ちゃんが一緒に釧路まで行ってくれるのなら今日帰る」とノボルさん踏ん張り、
静さんはあきれながらも「一人でならあぶないものしょうがないんでしょ」とどこまでも相手をボケ扱い。
別れ際に私の両手を自分の両手で強く握りしめたノボルさん、あれはぜったいボケてなんかいなかった。
(人生これからだ!)って腹の底でニヤリと笑って南千歳駅からちゃっかり二人で釧路に向かった。