オオクボサン

今年の田畑の作付計画の申請が終わり、注文していた野菜の種も届き、暗黙に背中を押される。
始動に備え、夫は毎週歯医者に通って体調整える。
　大久保さんが「今年はこれしかないけど」と黒千石を届けてくれた。
穂別で裏山に棲む熊と共存しながらひとりで暮らす大久保さんは、時々里にやってくる。
「今日は道立図書館に行くついでに・・」と言いながら1～２時間はひとりで喋る。
「えー！！すごい！それから？！」　と、初めの30分は聴く気満々の話題炸裂。
次の30分は定番で周りの農家との考え方のちがいをこれでもか！ってほどぼやく。
次の30分で昔話の花咲かせ、毎回聞くけど、まだ聞いたことのない過去が暴露。
ボチボチこちらの聴く態度が怪しくなり、そわそわし始める。気力体力限界近し・・・・
それを察知して、次の15分は、毎回こうして長話しになる諸事情を丁寧に解説してくれる。
（いいのいいの、山奥で話の合う人いない事情は合点承知。気のすむまで吐き出して、大久保さん）
その間に「今日荷物送れますか？」などなどの電話が来りするので、一層そわそわし、送り状など書き始める。
刻々変わるこちらの事情も十分理解し、大久保さん椅子から立ち上がる。「あ、もう行く？」「うん」
と言い、立ったまま15分とりとめなく話しは続く。（うううう、さ、さ、酸素が、、、、）外に飛び出しパクパク空気吸う。
それ見て（なにやってんだ？）と笑いながら「また来るわ」と大久保さん。いつもこの調子。70歳まだまだこれから・・・・
　60歳、ヘトヘト。　娘に電話で大久保事件詳細を告げると、「わたし、今日オオクボサンしてきた」と言った。
（え？あ、そうなんだ・・・・）ストンと腹に落ちた。世の中モチツモタレツ・オタガイサマだ。
自分もオオクボサン何度もしながら生きてきた。
昔のことすぐ忘れてしまう。その時その時、黙って相槌打ってくれた皆さんありがとう！
おかげさまで、今は15分本気で喋ればもう満足できる身体に落ち着きました。