金曜日の夕方、会合に出かけた。車に乗っていつものようにラジオを聴いていると現代音楽の様相について語られている。ジョン・ケージとの出会いやアドルノのエピソード、ダルムシュタットの夏季講習会の思い出話をするのは、指揮者としても有名な作曲家のピエール・ブーレーズであった。バーデン・バ-デン在住なので、独メディアに出る事が多いかと思うと、実はパリでのTVショーで見かけるほど多くは無い。
番組は地元のSWR制作で9回のシリーズ再放送である。二十世紀後半の現代音楽の歴史を振り返るもののようである。既にマウリチオ・カーゲルが登場しているが、年内にまだヴォルフガンク・リームや先日亡くなったジョルジュ・リゲティなどが登場する。
ブーレーズの話で耳についたのは、アドルノが講演の出番が無くて愚痴っていたことやケージとの交友である。また、ムジック・コンクレートへの意見なども、偶然性の音楽への見解と共に興味深かった。前者の限界と後者でのコンピュータ音楽への流れが、言い訳としてではなく、体験として語られるところがこのインタヴューの真骨頂である。
そしてその追懐される道程は、自ら試してみて判断する必要を説いており、この作曲家が当時の西欧の第一線の思潮の影響下に存在した証明でもあろう。つまり、限界を察知した時点で転向する判断を自らに課している。
該当HPのリンクに、1967年バイロイト際指揮初登場時に「怒りのブーレズ」として、シュピーゲル誌に独占インタヴューされた時のコピーが見られる。これを読むのは初めてであるが、今日から見ると、特別に過激な発言とは映らない。
それは、我々がその当時からする未来を生きているのであり、大なり小なり歴史的な影響を受けているからである。この作曲家の作風の転換や指揮者としての業界活動については触れないが、既に分岐点を更に進んでいた事がここに表れているのも事実であろう。
反対に、ハンブルクの演出オペラ劇場の作曲家兼劇場支配人リーバーマンなどが、一撃の下に「平均的な市民階級の趣味(を持った芸術家・作曲家)」とこき下ろされ、「ヴェルナー・ヘンツェは、表層的なモダニズム」と叩かれているのを読むと痛快というほか無い。また本人が音楽劇を作曲するなら、ジャーン・ジュネとの合作で、ピーター・ブロックかイングマル・ベルイェマンの舞台に期待したいとある。
今日の我々からすると、ピエール・ブレーズを攻撃する事も容易であるが、作曲家としての現在を批判する必要は感じない。2001年11月には、バーゼルでの指揮演奏会のために同地に滞在中、未明のホテルのベットから叩き起こされて、過激派として三時間の拘束を余儀なくされた事を記しておく。
冗談のようなエピソードであるが、スイスの公安当局のリストには、上のインタヴューで述べた発言「(芸術のために)最もエレガントで最も高くつく解決法として、オペラ劇場を爆破せよ!」で、以降過激派としてリストアップされており、半世紀近く後にも、その古い珍奇なリストを以って国家権力は猛威を奮う事を、反テロ宣誓や共謀罪が叫ばれる今日故にどうしても留意しておきたい。
当時の知識人として、過激派を装った傾向も無きにしも非ずであるが、こうした寧ろ政治的発言の少ない芸術家が、「キューバにこそ市民社会を越えたものがあり、中共の紅軍に西欧の劇場で暴れて欲しい」としたのがいけなかったのであろう。
SWR2放送をWEB/RADIOライヴで聞く:
11月17日19時 John Cage
11月23日19時 Wolfgang Rihm
12月8日19時 György Ligeti
番組は地元のSWR制作で9回のシリーズ再放送である。二十世紀後半の現代音楽の歴史を振り返るもののようである。既にマウリチオ・カーゲルが登場しているが、年内にまだヴォルフガンク・リームや先日亡くなったジョルジュ・リゲティなどが登場する。
ブーレーズの話で耳についたのは、アドルノが講演の出番が無くて愚痴っていたことやケージとの交友である。また、ムジック・コンクレートへの意見なども、偶然性の音楽への見解と共に興味深かった。前者の限界と後者でのコンピュータ音楽への流れが、言い訳としてではなく、体験として語られるところがこのインタヴューの真骨頂である。
そしてその追懐される道程は、自ら試してみて判断する必要を説いており、この作曲家が当時の西欧の第一線の思潮の影響下に存在した証明でもあろう。つまり、限界を察知した時点で転向する判断を自らに課している。
該当HPのリンクに、1967年バイロイト際指揮初登場時に「怒りのブーレズ」として、シュピーゲル誌に独占インタヴューされた時のコピーが見られる。これを読むのは初めてであるが、今日から見ると、特別に過激な発言とは映らない。
それは、我々がその当時からする未来を生きているのであり、大なり小なり歴史的な影響を受けているからである。この作曲家の作風の転換や指揮者としての業界活動については触れないが、既に分岐点を更に進んでいた事がここに表れているのも事実であろう。
反対に、ハンブルクの演出オペラ劇場の作曲家兼劇場支配人リーバーマンなどが、一撃の下に「平均的な市民階級の趣味(を持った芸術家・作曲家)」とこき下ろされ、「ヴェルナー・ヘンツェは、表層的なモダニズム」と叩かれているのを読むと痛快というほか無い。また本人が音楽劇を作曲するなら、ジャーン・ジュネとの合作で、ピーター・ブロックかイングマル・ベルイェマンの舞台に期待したいとある。
今日の我々からすると、ピエール・ブレーズを攻撃する事も容易であるが、作曲家としての現在を批判する必要は感じない。2001年11月には、バーゼルでの指揮演奏会のために同地に滞在中、未明のホテルのベットから叩き起こされて、過激派として三時間の拘束を余儀なくされた事を記しておく。
冗談のようなエピソードであるが、スイスの公安当局のリストには、上のインタヴューで述べた発言「(芸術のために)最もエレガントで最も高くつく解決法として、オペラ劇場を爆破せよ!」で、以降過激派としてリストアップされており、半世紀近く後にも、その古い珍奇なリストを以って国家権力は猛威を奮う事を、反テロ宣誓や共謀罪が叫ばれる今日故にどうしても留意しておきたい。
当時の知識人として、過激派を装った傾向も無きにしも非ずであるが、こうした寧ろ政治的発言の少ない芸術家が、「キューバにこそ市民社会を越えたものがあり、中共の紅軍に西欧の劇場で暴れて欲しい」としたのがいけなかったのであろう。
SWR2放送をWEB/RADIOライヴで聞く:
11月17日19時 John Cage
11月23日19時 Wolfgang Rihm
12月8日19時 György Ligeti