■ ゆうちょ銀行は「銀行」では無い ■
株式を公開し、普通の銀行になったかに見える「ゆうちょ銀行」ですが、実は普通の銀行ではありません。
ゆうちょ銀行は一般の郵便局の時代から貸付が禁止されています。普通の銀行は個人や企業に融資をして金利を得る事を本業としています。貸付の原資は預金であり、これを「信用創造」で膨らめる事で貸し付けを増やし利益を拡大します。
一方、巨大な官営金融機関であった郵便局が貸付を行うと民間の金融機関の業務を圧迫するので、郵便局は貸付を禁じられていました。かつては郵便局が国民からあつめた「貯金」は財政投融資として国に融資されていました。
財政投融資が廃止されてからは、郵便直の運用はもっぱら日本国債で行われており、投資の形態は変われども、国家に融資する金融機関である事には変わりありませんでした。
現在、株式を公開して民営化を進めるゆうちょ銀行ですが、未だに一般への貸付業務は認められていません。理由はゆうちょ銀行の株式の3/4を未だに国が保有している為に、郵便貯金には「国家補償」が付いていると考える事が出来、他の金融機関よりも信用力が高いので、170兆円を超える貯金を保有するゆうちょ銀行が貸付に参入すると民間、特に中小の金融機関の業務を圧迫すると考えられるからです。ですから、ゆうちょ銀行が100%民間の金融機関になるまでは住宅ローン市場などに参入する事は暗黙の内に禁止されています。
■ 融資のノウハウが無いゆうちょ銀行は貸付業務は無理 ■
ではゆうちょ銀行が100%株式を公開すれば貸付業務に参入できるかと言えば・・・これも難しい。貸付には融資先のリスクを計る信用診査が必要ですが、民間の銀行は長年の経験で多くのノウハウや融資先との繋がりを持っています。これこそが「銀行の財産」とも言えますが、これを一はら構築せざるを得ないゆうちょ銀行は下手をすれば「不良債権の山」を築きかねません。
元々、特定郵便局などは自民党の後援団体として政治家との繋がりも深いので、政治家の口利融資などが拡大するという危険性も皆無では有りません。
資金供給が逼迫している時代ならいざ知らず、民間の銀行ですら融資先が見つからずに資金を日銀にブタ積みしている様な状況で、ゆうちょ銀行が貸付業務に参入する余地は無いとも言えます。
■ ゆうちょ銀行は巨大な投資銀行になりつつある ■
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1358553 より
上記グラフはゆうちょ銀行の決算資料から引用したものですが、204兆円の資産運用の内、日本国債運用は40%まで減少しています。かつては80%以上を日本国債で運用していたゆうちょ銀行ですが、日銀の異次元緩和で国債金利が下がり過ぎ、10年債までがマイナス金利となる中、で最早貯金を日本国債で運用すると「逆ザヤ」が発生する状況になっています。
生命保険などの資金は長期運用が可能ですから年限の長いプラス金利の国債による運用で金利を稼ぐ事が出来ますが、預金(貯金)は引き出される事が有るので、あまり長期の国債の運用は出来ません。日銀の異次元緩和はゆうちょ銀行の資金を日本国債市場から締め出す事に成功?しています。
一方、ゆうちょ銀行はゴールドマンサックスの日本支社長を運用部門に迎えるなど、投資部門の戦力を拡大しています。彼らは豊富な郵便局の資金を、外国債、海外投資信託などで運用しています。現在では資産の22%、額にして45.3兆円が海外投資で運用されています。この額はどんどん拡大しています。
又、不動産REITへの投資も解禁になる様です。
■ プライベート・エクイティとヘッジファンドへに投資を開始するゆうちょ銀行 ■
さらにゆう貯銀行は、より高い金利を確保する為にプライベート・エクイティとヘッジファンドへに投資を開始する様です。
FRBの利上げ以降、ヘッジファンドの運用実績はダウの平均利回りを下回っています。要は現在は株式ETFへ投資するよりも利益が少なく逆にリスクの高いヘッジファンドやプライベート・エクイティに投資を開始するのです。
既に2014年頃からアメリカの年金基金などは損失の恐れが有るとしてヘッジファンド投資を停止していますが、その危険な投資に今さらゆうちょ銀行が参入すると言うのはまさに「カモネギ」としか言い様が在りません。
■ 不動産バブルの兆候が表れる中でREITに投資する危険性 ■
マイナス金利でマンションブーム再来かと期待された不動産市場ですが、反対に新築マンションの供給は低下しています。これは異次元緩和以降の金利低下によるマンションブームが既にピークに達した事を意味しています。
23区内の新築マンションの平均価格は5200万円を超えており、最早平均的なサラリーマンの年収では購入が躊躇される価格に達しています。
マンションバブルが発生する場合は、都内から新築マンションの供給が拡大し、それが川崎や横浜方面に拡大し、さらに府中や高尾といった東京西部、埼玉に達し、千葉県の到達するとバブルが弾けると言われています。現在は既に崩壊直前の状況です。
民間アパートも相続税対策で供給過剰が続き、空室率は適正の30%を超えて35%程度になっています。地区年数の長い物件から空室が増えていますが、新築の空室も不便な地域の物件から増えておりアパート経営が成り立たないオーナーが今後急増するでしょう。
この様にアベノミクスの影響で発生した首都圏を中心とした不動産バブルですが、そろそろ崩壊の時期を迎えています。そこにゆうちょ銀行がREITで資金を供給すると言うのですから・・・危険極まり無い。
■ 一見自己資本比率は高いのだけれど ■
世界の投資銀行や年金基金がリスクの高い市場から撤退している現在、周回遅れでリスク資産を増やすゆうちょ銀行ですが、一度危機が始まればGPIF同様に大きな損失を被るはずです。
銀行の危機に際しての耐性の基準としてBISは国際業務に携わる条件として「自己資本比率を8%以上」にするというバーセルⅢの基準を課しています。実はゆうちょ銀行の自己資本比率は26.38%とも有り、一見非常に健全な銀行に見えます。
これはゆちょ銀行が貸し出しを禁じられている事からリスク性の資産が少なく、健全なリスク0の資産とされる自国国債(日本国債)を40%も保有している事に起因しています。
仮に金融危機が発生しても自己資本比率が26.38%もあれば経営は安全なのでしょうか・・・・。
実はゆうちょ銀行の最大のウィークポイントは日本国債です。現在は日銀の超次元緩和で金利が低く抑えられている日本国債ですが、どこかの時点では日本国債の需給は崩れるはずっです。これを予測してメガバンクなどは日本国債の保有率を減らし続け、残存年限も3年以下に圧縮しています。
地方銀行や信用金庫などは未だ日本国債の保有率が高いのですが、金融庁は来るべき日本国債の金利上昇に対応する形で、これらの金融機関の日本国債の保有率を下げる様に指導し、かつ経営体質を強化すべく再編を促しています。
この流れから取り残されているのがゆうちょ銀行です。未だに40%以上もの日本国債を保有するゆうちょ銀行はリスクの塊とも言えるのです。
これはゆうちょ銀行も認識していて、急ピッチで米国債や外国の投資信託などにポートフォーリオを組み替えていますが、その分、別のリスクを抱え込む結果となっています。
最早「巨大な投資銀行」と化してゆうちょ銀行ですが、その実体は・・・・かなり劣悪と言えるのでは?
ただ、未だにゆうちょ銀行の最大の株主は日本国政府ですから、いざとなれば国が救済してくれます。預金限度額もペイオフの範囲内の1000万円。(1300万円に拡大される様ですが)
まあ、国債をジャンジャン刷って救済すれば良いだけ・・・・尤も国債金利が上昇する過程で発生するゆうちょ銀行の経営危機ですから、1000万円が実質的に幾らの価値として残るのかは????
これを言ったら国内のどこの金融機関も同じなんだけどね・・・・。