親戚の結婚式があったり、娘が盲腸で入院したり、はたまた浦安で祭りがあったりと・・・いろいろ忙しく、すっかり更新が滞っておりました。申し訳ありません。
さて、市場は激しい動きをしていますが、日本株の暴落や世界的なバブル崩壊まではまだ時間があるでしょうから、本日はベーシックインカムを取り上げてみます。(自分の勉強用)
■ ベーシックインカムとは・・・ ■
ベーシックインカムの是非を巡りスイスで国民投票が実施されました。結果は過半数の支持を得られずに否決された様です。スイスは「直接民主制」の伝統を残す国家なので、日本ならば「ベーシックインカム法案」が国会に提出され「与党並びに公明党の反対多数で否決」みたいな状況でしょうか・・。「国民投票」という事態で必要以上にクローズアップされた感は在りますが、しかし一方で世界ではベーシックインカムの効果を真剣に検討する気運が高まりつつあります。
■ AIやロボットに仕事を奪われる? ■
スイスのベーシックインカムの賛成派の中には「これからの時代、AIやロボットに仕事を奪われて生活出来なくなるかも知れない」という不安を抱いている人も少なからず居る様です。
確かに金融取引などはかなりの部分でプログラムによる取引が拡大しており、将来的にはAIなどに仕事を奪われる可能性は否定出来ません。製造業も同様で「生産性の向上」の多くが自動化による人件費の削減によって達成されています。
今後、ビックデータの活用などにより、これまで人の経験やセンスなど数値化出来ないと思われていたスキルがコンピューターに置き換えられて行く事も遠い未来では無いはずです。
一部の人間がAIや自動機械を使役して莫大な富を得る一方で、仕事を失い明日の生活もままならない人達も増える・・・そいなSFの様な日常が実はすぐそこまで迫っているのかも知れません。
■ AIやロボットに仕事をさせるという考え方 ■
一見悪夢の様な未来ですが、考え方を180度反転すれば天国の様な未来に代わります。
「AIやロボットに仕事をさせて、その成果を国民が等しく分け合えば仕事をしなくとも生活出来る」・・・ベーシックインカムを実現すればこんな夢の様な未来も実現できると主張する人達も居ます。
「そもそも人は何の為に生きるのか、仕事をする為では無い」と考える人達もベーシックインカムを支持します。
尤も彼らの考える「働かなくて良い世界を実現するベーッシックインカム」は幻想に過ぎません。AIやロボットを使役して利益を出す企業に高額の税金を課さなければ実現しないからです。Aiやロボットを使役する企業は人間の労働力の質を問いませんから、この様な企業は率先して途上国やタックスヘブンに本社や工場を移転するはずです。
結局「怠け者」の妄想するベーシックインカムは「夢物語」でしか有りません。
■ 国家の社会保障を一元化してもベーシックインカムで生活する事は不可能 ■
ベーシックインカムが実現可能か、ちょっと乱暴な計算をしてみます。
現在日本の社会保障費は31.5兆円です。日本の総人口を1億3000万人として単純に割り算すると一人当たり23万8千円となります。月額2万円。
生活保護の月額支給額が8万円、国民年金の基礎年金が6万円ですから月額2万のベーシックインカムでは生活出来ない・・・。家族が4人居れば8万円になりますが、老人世帯は二人暮らしや独居が多い。生活保護を受ける人も一人暮らしが多いでしょう。
ただ、年金会計に関しては厚生年金も国民年金も国家予算と別会計になっていますから、これが全て無くなる訳では無く、年金の独自会計分は現状維持で、税金負担分がベーシックインカムによる追加となるので、高齢者世帯の年金額を現状とそれ程変わらないでしょう。
困るのは生活保護世代です。現状の8万円が2万円になったら飢え死にする人も出るでしょう。
■ ベーシックインカムの本質は「働かざる者食うべからず」では ■
現在生活保護世帯が生活保護を受給する為には「働け無い事」が前提になっています。車や家屋の保有も認められていません。要は、「資産が無い」「仕事も無い」人でなければ生活保護は認められないのです。
一方、ベーシックインカムの本質は「所得補助」制度で、働く事を前提としています。母一人、子供二人の母子家庭世帯で母親の所得が月額15万円の場合、これが21万円になれば生活はずっと楽になります。
反対に現状の生活保護世帯では下手をすると8万円の月額支給額が2万円になるのですから当然働かざるを得なくなります。ベーッシックインカムが導入されれば生活保護受給者の多くが就労を余技なくされ、それでも不足する金額を「新たな生活保障制度」で補う事になるはずです。
■ 行政コストの削減にはならないだろう ■
ベーッシックインカムの最大のメリットは行政コストの削減だと言われています。社会保障の診査や給付に掛る労力は少なくは在りませんから、これが単純化すればコスト削減になるというのがベーッシックインカムを支持の大きな理由になっています。給付設定の恣意性も無くなります。(生活保護の口利きが一部正当の利権となっている事はあまり知られていません)
しかし、上述の様に、実際に生活保護に相当する人達には何等かの補助的な支給が必要な訳で、この点で行政コストが削減できるとは思えません。又、年金制度も継続されるならば、そにれ掛る労力もそれ程削減できるとは思われません。
■ ベーッシックインカムとフラットタックス ■
行政コストの削減という意味においてベーッシックインカムとセットで議論さるフラットタックス。
フラットタックスとは所得税の税率を所得に寄らず一律にするとういう制度で、ロシアなどは所得税は一律13%の個人所得税に一本化されています。この結果ロシアでは税収が増えました。
現在日本は累進課税が実施されており、高額所得者の最高税率は45%です。尤も、高額所得者はあの手この手で節税をしていますから、むしろ税金逃れによってフラットタックス導入よりも少額の税金しか納めていない高額所得者は富裕層は意外に多いのかも知れません。ロシアの成功例はこうした節税を封じた事も原因しています。
一見、メリットの多い様に見えるフラットタックスですが、低額所得者には課税強化となります。年収200万円の人が10%の所得税を納めると税額は20万円になります。
・・・・あれあれ、この金額とベーッシックインカムの金額が似ていますね。実は諸々の控除により日本の最低課税所得は280万円程度です。これに10%の課税をすると28万円の所得税が発生しますが、最初の乱暴な計算の年額24万円のベーッシックインカムでほぼ相殺されます。
■ 高額所得者に有利なフラットタックス導入の為の飴? ■
ロシアの様な国では、高額所得者にあまり高い所得税を課すと、資金はタックスヘブンに流れたり、アングラマネー化する可能性が高い。これらの資金隠しには当然それなりのコストが掛りますから、フラットタックスによる課税額がこれを下回れば、地下に潜っていた所得を炙り出す事が出来るのかも知れません。
一方、日本においては所得捕捉率に根本的な問題が在ります。俗に「クロヨン」と言われる様にサラリーマンの所為は9割、自営業は6割、農業は4割しか補足されないなどと噂されます。実際に儲かっているのに赤字決算にしている自営業者は沢山居ます。
この様に日本の所得捕捉率が低いのは、マイナンバー制度(納税者番号制度)が整備されていなかった事が原因です。今後マイナンバーの普及とその活用で所得捕捉率が高まれば税収は今よりも確実に増えます。
一方で政治に影響力の有る富裕層は必ずや最高税率を下げる事や、或いはフラットタックスの様な制度の導入を求めて来るはずです。(タックスヘブンに資金逃避させたり、国籍を海外に移すなどの手も有りますが・・・)
この時、国民への飴としてベーッシックインカムの導入がセットで検討される可能性が有ります。フラットタックスを導入しても税率のあまり変わらない中間層はベーッシックインカムに賛成する人も多いでしょう。
■ ヘリコプターマネーとしてのベーシックインカム ■
ここまでの考察はベーッシックインカムの財源が従来の社会保障費とほぼ同額と過程して来ました。
しかし、最近俄かに注目を集めている「ヘリコプターマネー」とベーッシックインカムを結び付ける議論も出て来るでしょう。
「政府がお金を刷って国民に配る」というヘリコプターマネーですが、その経路には大きく分けて3っつ有ります。
1) 公共事業を拡大して間接的に国民にお金を配る
2) 補助金や給付金を厚くして、貧しい世帯を中心にお金を配る
3) 全国民に平等に一定額のお金を配る
1)と2)の組み合わせは現在も行われていますが、財源は税収なのでその額には限りがあります。
3)も小渕内閣が「地域振興券」という名で実施しました。15才以下の子供が居る世帯に一律3万円の「商品券」を配り、その財源は国が補償しました。一見、政府通貨の様に思える「地域振興券」ですが財源は税金から捻出されているはずです。(尤も赤字国債で賄ってはいますが)
小渕内閣の地域振興券で景気が回復したかと言えばNOです。地域経済もその後も衰退し続けt下います。一過性のお金を配った所で、一時的な消費が増えるだけですし、間接的に貯蓄が増えるだけです。
そこで、現在議論されているヘリコプターマネーはもっと大規模なものです。しかし、ただでさえ財政赤字の日本で、ヘリコプターマネーを実施すれば赤字が拡大する事は目に見えています。
しかし、現在の様に10年債までがマイナス金利となっている状況では、「国債を発行すれば赤字が減る」という異常な状況が発生します。様は現在の日本ではヘリコプターマネーが実現するのです。
■ テールリスクを拡大するヘリコプターマネー ■
一見「皆ハッピー」に思えるヘリコプターマネー(ベーシックインカム)ですが、この政策によって景気が回復すると長期金利が徐々に上昇を始めます。
金融機関は手持ちの国債に含み損が発生するので、あわてて国債を手放すでしょう。ここにおいて国債の買い手は日銀しか居なくなります。こうなると、どう見ても「財政ファイナンス」となるので、為替市場で円の下落が進行します。エネルギーを始め輸入物価が上昇し、国内物価を押し上げる事で悪いインフレが加速し、どこかでコントロールを失います。
結局、財政規律の緩んだ国家は高率のインフレによって事実上の財政破綻を来し、国民の貯蓄が価値を失う事で、増税せずに「インフレ税」によって国家の債務を帳消しにして来ました。(これは内国債のケースで、アメリカの様に海外が国債の買い手の場合はデフォルトで借金をチャラに出来ます)
結局、フリーランチは無い事を世界の人達は知る事になりますが・・・もし財務省や政府が財政拡大路線に転じたとなれば、それは近い将来に「インフレ税」を徴収する下準備なのかも知れません。
ベーシックインカム制度は設計によっては人々の幸福を達成するかも知れませんが、国債増発による安易な導入は結果的には国民の負担となって私達を不幸にします。
尤も、私達若い世代にとってガラガラポンは、世代間の所得移転を意味するので、貯蓄が沢山有る方意外は心配する必要は無いのかも知れません。