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「統合政府」という幻想・・・人口動態を直視するべき

2019-02-25 05:01:00 | 時事/金融危機
 

■ 「統合政府で考えれば政府の借金はチャラ」 ■

三橋貴明氏や高橋洋一氏がさかんに宣伝する「統合政府」。

1) 日銀は政府の子会社
2) 政府と日銀を連結決算にしたら政府の借金は日銀の資産になる
3) 「政府+日銀}=「統合政府」と考えれば、財政赤字は事実上ゼロになる

一昔前は「キワモノ」扱いされていた「統合政府」ですが、最近は池田信夫氏も普通に使い始めています。経済学的にんもホットワードです。

誰にでも分かる簡単な算数なので、一般の人にも理解し易い。

以前は「中央銀行の独自性が失われたら通貨の価値がって極端なインフレが発生する」という説が学者の間の常識でしたが、異次元緩和(隠れ財政ファイナンス)が長期化しても一向に金利上昇の気配すら無いので、常識的?な経済学者も「統合政府」論を無視できなくなっています。

■ 数字のトリックで遊ぶ前に、人口動態を直視すべき ■


「統合政府によって国家の借金はチャラ」という数字のトリックに安心してしまった人は下のグラフを見て下さい。



これは2040年、今から20年程未来の日本の人口動態です。出生率が急激に上昇でもしない限り、かなり高い確率で、日本の年齢別人口はこの様な比率になります。

青色の労働人口が、赤色とオレンジ色の高齢者と、緑色の子供の生活を支える訳ですから、労働者の税と年金、そして医療費の負担は相当に高い・・・と言うか、もう無理・・・。

若年層の負担増だけでは財政も社会も維持出来なくなる事が明確なので、「財政ファイナンスで財政を維持される=統合政府論」が台頭して来ているのです。

■ 夫が妻にお金を貸しても「借金は増えない」の嘘 ■

「統合政府論」を唱える人は「夫が妻にお金を貸しても、その家の借金は増えないよね」などと本気で言います。

こんな発言をする人は、通貨が2種類存在する事を知らない人です。

1) その国の中で流通する通貨
2) 世界で流通する通貨(基軸通貨)

「統合政府」論で借金が相殺されるのは「国の中で流通する通貨」=「円」です。円を大量に発行すれば、円はドルに対して値下がりします。異次元緩和で円はドルに対して半額近く減価しています。


■ 過剰な供給力がインフレを抑制する ■ 

しかし、円が減価しても国内のインフレは加速していません。何故か・・・それは貿易収支がバランスしているから。日本は輸出でドルを稼ぎ、それで原料や食料やエネルギーや様々な物資を輸入しています。これがバランスしている間は、充分な供給力が存在するので極端なインフレは起こりません。さらに新興国から輸入される安い製品が、「円の減価」の影響を相殺します。

1) 貿易収支は黒字か若干の赤字
2) 新興国からの安い輸入品が円安の影響を相殺
3) 充分な供給力が、国内のインフレを抑制

世界全体で観れば新興国の発展で「過剰な供給力」を抱えています。これが先進国のインフレを等しく抑制しています。

■ 賃金の伸び悩みが需要を抑制 ■

日銀が円を増刷しているのに、何故インフレが起きないのか・・・。その答えは簡単で、賃金が伸びていないから。これは国会での「統計偽装」からも裏付けられようとしています。

では大量に発行された円は何処に行ったのでしょうか?



上のグラフは2013年から2018年の日銀の当座預金残高の推移です。ゼロ金利、マイナス金利下でも金融機関の日銀の当座預金残高が増え続けている事が分かります。5年間で300兆円程増えていますが、この多くが国債で運用されていますから、日銀が異次元緩和で購入する年間60兆円程の国債は、ほぼほぼ当座預金の増額分で購入されている事が分かります。

その間、家計も企業も預金残高を増やし続けています。家計の預金の主体は65歳以上の高齢者です。

1)高齢者が年金を預金する
2)企業も内部留保を増やす
3)銀行預金が日銀の当座預金に積み上がる
4)日銀が当座預金で国債を購入する
5)国債発行が年金に化ける

「高齢者の預金」+「企業の内部留保」 ←→ 「日銀の当座預金」

こででは賃金が増える訳が有りません。当然、インフレ率も抑制されます。

■ 金利差によって海外に吸い出される円 ■

日本国内のインフレ率の低迷は、海外への資金流失を加速します。よりましな金利を求めて、様々な投資や銀行預金の運用を通じて、円はドルに姿を変え、海外に流失します。

当然、その運用益は国内に還流しますが、それが海外に再投資されたり、預金の積み上がったままになります。

■ 貿易収支と所得収支が支える日本 ■

所得が増えない環境下でのインフレの進行は、庶民の生活を破壊します。

今の日本において、「異次元緩和を行ってもインフレ率が上昇しない」事は、むしろ喜ぶべきです。

これが日銀と財務省の正確なコントロールの成果なのか、或いは企業の不断の努力の結果なのかわ分かりませんが、幸いにも現在は経済は安定しています。

しかし、その安定が、様々な幸運の微妙なバランスの上に成り立っている事は忘れるべきではありません。人口動態のグラフを改めて観れば、そのバランスが崩れる可能性の方が高い事は誰の目にも明らかなのだから。

「統合政府の観点から見れば、国家の借金はチャラになる」というのは、数字のトリックに過ぎない事が理解頂けたでしょうか。