最近、アニメを観る本数がめっきり減ってしまいました。以前は子供達とアニメトークを楽しんでいたのですが、息子は彼女とオタク道を極めつつあり、娘は韓流にハマってしまし、オヤジの出番は無くなりました。
かわいそうに思ったのか、最近が家内がアニメのお相手をしてくれます。以前は私が居間のPCでアニメを観ていると「キモイ、そういうのは自分の部屋で観てよ」と掃除機の騒音で邪魔をしていた家内も、今では「ねえ、あの続きまだ?」と聞いて来る様になりました。
そんなこんなで、アニメライフに少し変化が表れているこの頃、観るアニメも「夫婦で楽しめるアニメ」に変わりつつあります。
今回の19夏アニメベストは、そんな私的な変化を反映したものとなります。
第一位 『女子高生の無駄づかい』
『女子高生の無駄づかい』より
第一位の選出理由は「家内が一番喜んで観ていたから」ですが、私的にも相当に評価の高い作品。とある東京近郊の女子高で再会した小学校の同級生、「バカ」「オタ」「ロボ」を中心とした日常劇ですが、「バカ」の馬鹿さが突き抜けていて、ハラワタが捩れます。
4コマ漫画原作ですが、「バカ」が馬鹿な会話を始めると、「オタ」が利口だけどかなり世間とズレた返しをして、そこに普通の女子高生の「オタ」が普通のツッコミを入れる構造。会話として全くかみ合っていないのだけれど、3人の友情が接着剤となってコミュニケーションが進んでゆきます。
これ、実際の女子高生の会話もこんな感じですよね。話題がコロコロ変わるけれど、とりあえずノリで「マジ、ありえねぇー」とか「うわぁ、それキモ!」とか「パナイわ」なんて相槌を適当に打って何となく会話が進んで行く。
この作品、「会話が成立する場」の作り方が非常に上手いのですが、セリフ先録りの「プレスコ」作品。同様の作品に岸誠二監督の『遊びあそばせ』が先ず思い浮かびますが、日常のほんの少しのズレを笑いに転化するテクニックとしては『女子高生の無駄づかい』の方が断然優れています。
原作は未読ですが、アニメは入学してからの1年間を、時間を追って描く事で、ギャグアニメならが、しっかりと登場人物達が成長してゆく様が描かれます。
私個人としては「バカ」と「ヤマイ」の絡むシーンが好き。「ラスト・クラッパー」なんて捧腹絶倒!!
第1位 『コップクラフト』・・・・これも第一位ですよ!!
『コップクラフト』より
ハリウッドが映画化権を取得した事で一時話題になったラノベ『フルメタルパニック』の著者、賀東招二のラノベ作品のアニメ化。ベテラン作家の賀東招二は、大変器用な方で京アニ作品を中心に脚本を書いたり、『氷菓』や『天城ブリリアントパーク』のシリーズ構成を担当されたりしています。
地球と異世界の間にゲートが開き、セマーニ(異世界)の土地の一部が地球に突然「飛ばされ」てしまった後の世界を描いています。異世界の土地は「サンテレサ市」として開発され、セマーニ人と地球人が一緒に生活しています。
セマーニは科学技術は後進国ですが、魔法や妖精が存在するファンタジー世界で中世の様な封建国家。セマーニ人にとっては地球は科学によって豊な生活を実現した理想世界です。ですから、セマーニ人は地球に住み続けています。
セマーニ人は私達の世界では「移民」だと思え違和感は薄らぎます。「サンテレサ」はアメリカのカリフォルニア州の大都市だと思うと分かり易い。雑多な民族が混在して、快楽と犯罪が蔓延る街。
その街の刑事「ケイ・マトバ」とセマーニ人の騎士の少女「ティラナ・エクセディリカ」がある事件を切っ掛けにバディーを組んでセマーニ人絡みの事件の捜査に当たる。アメリカ刑事もののドラマを、そのままラノベにした様な作品ですが、原作は推理小説としても、刑事小説としても「大人向が楽しめる小説」として評価が高い。
アニメは「アメリカの刑事映画」を忠実に再現した様な作風ですが、低予算作品なので、動画がヌルヌル動く事はありません。いえ、むしろ全然動かない。
一般的には「口パク」で誤魔化す事の多い低予算アニメですが、この作品は「モンタージュ」や「引きの絵」を上手に挿入して単調になる事を防いでいます。
例えば、ハンドルを操作する手元を写しながら会話が進行したり、部屋の片隅にカメラを固定した状態で、登場人物がフレームに入ったり出たりしながら会話するシーンがあったり。これ、70年代のアメリカの映画を彷彿とさせます。
この作品を観ると、アニメにおける「絵コンテ」の重要性を思い知らされます。アニメにおける「絵作り」は、どうしても「キャラクターを動かす」事に注意が集中します。しかし、アニメは「映像作品」として捉えるならば、背景や近景ふ含めた「フレーム」の作り方は、重要な要素の一つです。
そして、低予算映画が「固定カメラ」を多用する様に、低予算アニメも同じ手法を用いれば、動画を無駄に使わずとも「映像として成り立つ」事を、この作品は見事に証明しています。
内容は、異世界から来た少女が地球との文化のギャップに戸惑いながらも、移民差別や、民主主義を理解して行くというものです。最初は反目しあっていた「ケイ」との信頼の醸成や、ほのかな恋心の芽生えが、甘酸っぱいスパイスとして効いています。
実は、ラノベの古典的名作の『フルメタルパニック』を未読だったのですが、ネットでアニメを観だしたら面白くて、アニメ全話と、さらにラノベの続き(本編)を完読してしまいました。
同一作者のデビュー作、『フルメタルパニック』は戦場しか知らない少年の相良宗介が、ある少女を護衛する為に高校生活を送り、戦場的判断で日常生活で色々トラブルを生むという内容ですが、『コップクラフト』でもエクセデリカが文化ギャップ故のトラブルを巻き起こします。実はよく似た構造です。
『フルメタルパニック』はラノベの皮を被った「戦記SF小説」として秀逸ですが、『コップクラフト』はラノベの皮を被った「本格刑事小説」です。ラノベの皮を被るだけで一般小説よりも100倍以上は売り上げるのですから、「一皮剥ける」事が良いとは限らないのが現在の日本の小説とラノベの関係。
興味を持たれた方は、6話までは我慢して観て下さい。7話目から大人の鑑賞に堪える作品というか、近年のドラマや映画のどの作品よりも素晴らしい内容になります。「30分」って、こんなにも濃密な時間なのかと感心する事しきり。
第3位 『Dr.STORN』
『Dr.STORN』より
少年ジャンプ連載作品のアニメ化。
ある日、世界中の人々が突然石化して、3700年が経った後の物語。文明は滅び去り、科学も失われ、世界は森林に覆われます。
最初に石化が解けたのは、科学知識の豊富な少年「石神 千空」。洞窟のコウモリの糞が作り出した硝酸が体表の石を溶かしたのっです。
千空は友人の石化を解く事を皮切りに、科学の失われた世界に、再び科学の大国を築く事を目指します。しかし、それを望まない男に阻まれます。彼は「汚い大人」の居ない世界を作ろうと行動を始め、千空と敵対します。
千空は命を狙われ逃亡し、人間の村にたどり着き、そこで「科学王国」を作る事を決意します。彼に興味を持った一部の村人の手を借りて天然素材から実験道具を一から作り、化学薬品や電気を作り出してゆきます。
「少年漫画」には昔は「サバイバル物」と呼ばれるジャンルが有りました。核戦争で自分だけが生き残るとか、島に流れ付くなど様々なバリエーションが有ります。大元を辿れば元祖ラノベの『十五少年漂流記』や『ロビンソ・ンクルーソー』に行き着く、歴史あるジャンルです。
ただ、それらの作品の多くは、何も無い場所で「原始生活」を始める事をテーマとしていました。科学の発達した近代以降、人々は心の底で違和感を感じており「原始生活」にある種のロマンを見出していたのでしょう。(今でもアメリカのTVプログラムでは「原始人もの」が放映されるなど、ジャンルとして確立しています)
しかし『Dr.STORN』は、「原始の世界に科学を再興する」という新しいジャンルの「ジュブナイルSF」作品です。これは、斬新です。「科学の夢」が失われつつある現代だからこそ生まれた作品とも言えます。
内容的にも科学的で、原作を読んだり、アニメを観る事で、科学に興味を持つ子供が増えるとするならば・・・文科省が推薦すべき作品です!!
第4位 『彼方のアストラ』
『彼方のアストラ』より
人類が宇宙に進出した後の時代のお話。高校の夏休みの研修旅行で、とある惑星に行くことになった男女9人。ところが、ワームホールに飲み込まれ、宇宙の彼方へ飛ばされてしまいます。そこで、偶然にも見つけた宇宙線に乗り込み、数々の惑星に立ち寄って水と食料を補給しながら地球を目指すという「SFサバイバル」作品。少年ジャンプ連作マンガのアニメ化です。
「SF=電脳」の様になってしまった現代において、『Dr.STORN』も『彼方のアストラ』も古典的なSF作品です。しかし、SF本来の魅力に溢れる骨太の作品として、私はこの2作品を大きく評価します。
『Dr.STORN』が科学自体をテーマにしている一方で、『彼方のアストラ』の科学は「舞台装置」の役目を果たしているだけで、その本質は「本格ミステリー」です。
緻密に練り上げられた謎が、地球が近づくにつれて一つ一つ明らかになり、何故彼らが彼方の宇宙に捨てられたのか原因が明らかになってゆきます。そして、さらには地球に隠された秘密の核心に到達する・・・。回を追う毎に興奮で胸が高鳴る見事な構成に感服。
マニュアル化された脚本の、つまらないハリウッド映画を観るならば、この作品を観た方が余程面白い。
第5位 『荒ぶる季節の乙女たちよ』
『荒ぶる季節の乙女たちよ』より
岡田麻里が原作を担当したマンガのアニメ化。
文芸部に集う年頃の少女達の群像劇。『女子高生の無駄づかい』が今風の作品なのに対して、こちらは「演劇的」な作風。
今時の女子高生に反感を覚えながらも、性に憧れる、ちょっと時代遅れの文芸部員の女子達が真剣に性に悩む姿が、カワイイ絵柄で展開します。岡田麻里作品としてドロドロ感が少ないので万人向け。
1話の後半があまりにもインパクトが大きいので、その後の失速が心配でしたが、なかなかキャラ立ちも良く、楽しめる作品でした。(作画はもう少し頑張って欲しい回も有りましたが)
敢闘賞 『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃にお母さんは好きですか』
『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃にお母さんは好きですか』
ラノベの異世界物には飽きたのですが、「母親同伴」の異世界物にはビックリ。ヒロイン・・・お母さんだよ・・・・。
まあ、色々アレな作品ではありますが・・・・「真々子さんは俺の嫁」って事でOK?・・・あ、別に私がマザコンって訳じゃ無いですからね。真々子さんが隣に住んでたらヤバイって方向で宜しく。
残念賞 『炎々の消防隊』
『炎々の消防隊』より
人体が自然発火する現象が多発した世界、特殊消防隊は「焔人(ほむらびと)」と化した人の魂を鎮め、街を火災から守る正義のヒーロー・・・・のハズですが、何か裏に陰謀が渦巻く。
今風の作品で面白いのですが・・・あの事件の後でこの作品はちょっと・・・。作画なんて今期最高なんですけどね。特に炎のエフェクトの手描き作画のが凄い。こういう職人芸は、だんだんと観れなくなるかも知れません。
とまあ、アニメを観る本数も、熱量も失われ気味の54歳親父ですが、今期イチオシも紹介します・・・
『俺を好きなのはお前だけかよ』
ラノベの「お約束」を逆手に取った作品でキワモノ扱いされるかも知れませんが・・・面白い!!原作4巻まで買っちゃいました。(3巻まで読みました)
実に原作、推理小説として良く出来ています。小説は文章で書かれていますから、文字で書かれた内容と現実にズレがあっても読者には分かりません。その「不可視性」を巧みに利用して読者騙すのが推理小説の常套手段です。
さらに、この小説、ほとんどが主人公のモノローグで構成されますが、モノローグが事実を語るとも限りません。
そういった、小説ならではの「面白さ」に溢れた作品です。アニメは原作者のシリーズ構成と脚本でうまく纏まっていますが、原作も合わせてお読みになる事をお勧めします。(但し、ラノベを読みつけている方限定)
『無限の住人』・・・・3話で何故、あそこまで原作を飛ばしちゃうかね・・・。話数の問題だとは理解していますが、残念です。しかし4話は悪く無かった。そもそも3話の蒔絵の回は、原作でも戦闘シーンは素晴らしいのですが、ストーリーとしては分かり難く、蒔絵と影久の幼少時を描いたアニメ4話を先にもって来る方が話としては理解し易い。
ちょっと余談。作画ってヌルヌル動く事が良いと言われる昨今ですが、カクカク動いても演出によっては魅力ある事がこの二つのOPを比較すると良く分かります。
『炎々の消防隊』OP
『コップクラフト』OP
図らずもカーアクションや落下系の演出が共通する両作品のOP。『炎々の消防隊』は予算も充分なのか、ヌルヌルと良く動き、アングル変化やエフェクト作画も素晴らしい出来栄え。もうOPだけでおなかイッパイって感じで本篇見なくても良い。でも、EDはしっかり見る!!(こちらも凄い)
対する『コップクラフト』は予算を節約する為に、止め絵と動画をバランス良く使い、背景も単純化。動画部分ではコマを飛ばしているので動きはカクカクしますが、デフォルメされ、タメの利いた動きはダイナミックで小気味良く、キャラクターが音楽とシンクロしています。
両OPとも、まさに職人芸。