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『Just Because!』・・・受験シーズンに雪が降る度に全話見直す

2023-02-17 04:23:24 | アニメ

『Just Because!』より

 

■ 今年も受験シーズンに雪が降る ■

2月に入ると「南岸低気圧」によって、太平洋側にも雪が降ります。今年も2月10日に東京でも雪が降りました。2月の雪で問題になるのが受験。今回も都内の私立高校の受験日と雪が重なり、ヒヤヒヤした受験生も大勢いらしたと思います。そんな困った風物詩のニュースを聞くと観たくなるアニメがあります。2017年に放送されたアニメ『Just Because!』です。

大学受験を控えた高校3年生の3学期の期間だけを描いた群像劇ですが、「高校3年の3学期」という、独特な空気感の中で展開する物語は、何度観ても心の奥にチクリとした疼きを覚えます。丁寧に丁寧にシーンやカットを積み上げて作られた「実写作品」に近い肌合いのこの作品を、故高畑勲氏が観たらどう評価するか気になる作品でもあります。

■ 「音楽と映像のシンクロ」ではアニメ史上No1のシーン ■

中学時代に神奈川から福岡に転校した泉瑛太は、高校3年の3学期に再び神奈川に戻って来ます。3カ月間だけ通う高校には、中学時代の野球部の親友の相馬陽斗と、中学の同級生だった夏目美緒が通っています。瑛太は美緒に密かに恋していた・・。グラウンドで再会した瑛太に、陽斗はいきなり野球対決を挑みます。意味不明なままピッチャーを引き受ける瑛太。そんな二人を、校舎から見守る美緒・・「何で今頃帰って来るのよ・・」と困惑を隠せません。美緒の陽斗への思いを瑛太が知っていたからです。

転校以来、野球から遠ざかっていた瑛太ですが、彼の球はなかなか速い。そんな対決を吹奏楽部の森川葉月が渡り廊下から眺めています。そして、応援歌のフレーズをトランペットで吹き始める。近くに居た後輩達がそれに合わせると、校舎内の部員達もだんだんと合奏に加わって行きます。陽斗と瑛太の対決は、甲子園予選の様相を呈し、そして陽斗の打球はフェンスを大きく超えて行く。

そんな二人の対決を必死でカメラに収めたのは写真部2年の小宮恵那。廃部寸前の写真部存続の為に、コンテストに出展する作品の素材を捜していた彼女は、最高の一瞬をカメラに収めたと確信します。

そんな、様々な人の視線など知らずに、ホームランを打った陽斗は、校舎に向けて走り出します。彼は野球対決にある「願掛け」をしていたのです。ホームランを打ったら、吹奏楽部の森川葉月に告白するという。

 

ほぼ1話のストーリーを書いてしまいましたが、この野球対決のシーンは、『涼宮ハルヒの憂鬱』の26話の「ライブアライブ」と、『坂道のアポロン』の7話の学園祭シーンに匹敵する、音楽と映像がシンクロした日本アニメ史上屈指の名シーンだと私は確信しています。いえ、むしろ演奏がメインで無いシーンでこの演出は、No1と言っても過言では無い。

 

■ 珠玉の青春群像劇 ■

『Just Because!』は瑛太が転校して来てから、卒業するまでの3カ月を描いた作品です。

ホームランを放った後、学校の玄関で葉月に追い付いた陽斗は、告白するハズが、テンパッテしまい口から出た言葉が「明日ヒマ?俺はヒマなんだけど、水族館に行きませんか?」という間の抜けたもの。さらに、その場に居合わせた瑛太と美緒も誘ってしまうテイタラク。そして、そこにやって来た葉月の親友の乾 依子までがメンバーに加わってしまう。こうして、殆ど繋がりの無いメンバー5人で水族館に行く事に。

美緒は中学時代からずっと陽斗に思いを寄せながら告白出来ずに居ます。そんな美緒の心を瑛太は中学時代から知っていますが、瑛太は美緒の事が密かに好き。そして陽斗は葉月に告白・・・オイオイ、どうするんだ、この複雑な片思いのパズルは解けるのか?

中学で同級生だった瑛太・陽斗・美緒というグループに、親友同士の葉月と依子という組み合わせだが、実は同じクラスでありながら、葉月と美緒にはほとんど交流が無かった。生徒会長を務め、派手めな女子と付き合いのある美緒と、控えめな性格でクラスでも影の薄い葉月には接点が無い。そんな陽斗を巡る女子二人の関係が、やがて信頼関係に変わって行くのもこの作品の見所の一つです。

 

■ 依子の気持ちを見逃すべからず ■

水族館で知り合いになった5人は、LINEでグループを作り、なんだかんだと友交を深めて行きます。この関係で依子の果たす役割はとても大きい。快活な彼女は、消極的な葉月と新に知り合いになった3人の仲を取り持って行きます。特に葉月に告白した陽斗をサポートします。

相馬の気持ちに気付いている依子は「葉月は好きな人いる?」と聞く。中学時代から友人だった二人の間では、どうやらこの手の会話はあまりなかったらしい。葉月は「依子は好きな人いるんだ?」と聞く。すると彼女は「まあ、私も女子だし」とはにかんで答える。「私の知っている人?」「そうかも・・・」と顔を赤らめる。

「依子ちゃんは葉月ちゃんがすきなんじゃねぇ?」ってユリ展開を期待したアナタ・・・アニメの観過ぎです。(最初は私もそう勘違いしましたが)。何回か見返して、おじさん、ピンと来ちゃいましたよ!!「依子ちゃんは陽斗君の事が大好きです!」

依子は葉月と陽斗を積極的にくっ付けようとしていますが、葉月の事よりも陽斗の方を良く観察しています。いえ、陽斗の感情を一番理解していると言っても過言では無い。陸上で推薦入学が決まる様な依子が、野球部の主軸で陽気な陽斗に恋心を抱くのは自然な流れとも言えます。一方で、葉月は依子にとっては生涯の親友と言える存在。

依子の恋は多分実らないと彼女自身が気付いています。それは陽斗が葉月に告白する前から。観察力のある依子は、陽斗の心が自分には全く向いていない事に気付いていたハズです。もしかすると陽斗が葉月に密かに思いを寄せている事すら察していた可能性もある。だから彼女は、葉月に告白した陽斗をサポートする事で、自分に恋心にケリを付けた。

私がこの作品を評価するのは、頼子の気持ちを作中では具体的に全く描いていない点です。普通ならば依子の気持ちを視聴者に気付かせる演出をしてしまいますが、それが一切無い。「気付く人だけ気付いてね・・・」という抑制があるからこそ、依子の親友や、新しく知り合った美緒や瑛太への気遣いがジワ~~と効くのです。これこそが「文学的抑制」です。

■ 「文学的抑制」の美学 ■

「文学的抑制の美学」がこの作品にはオープニングシーンから、ラストシーンまで徹底して貫かれています。ここで言う「文学的」とは『四畳半神話大系』を始めとする森見登美彦作品群とは真逆のベクトルを示します。「書かない事の美学」と言っても良い。(鴨志田一の脚本は素晴らしい)

主人公の瑛太は、無口で自分の事を多くは語りませんし、本心も滅多に言わない。ただ、濁した言葉や、飲み込んだ言葉が彼の気持ちを雄弁に物語る。美緒も高校生の女子としては言葉を選ぶタイプです。葉月に至っては、言葉に全く嘘が無い。故に彼女は自分に確信の無い事を一切言いません。依子も多弁に見えて、飲み込むべき言葉を良く弁えています。彼らが語らないが故に、そして言葉を飲み込むが故に、彼らの気持ちは画面からヒシヒシと視聴者に伝わてくる。

■ 「映像に語らせる」美学 ■

さらに輪を掛けて「映像に語らせる美学」も貫かれています。例えば瑛太と写真部の後輩の小宮が絡むシーンの後ろには、老婆が居るシーンが度々あります。道端であったり、本屋の中であったり。この老婆、実は陽斗の祖母なのですが、陽斗は祖母の口から瑛太と小宮の動向を家で聞いている。しかし、そのシーンはカットされ、瑛太との会話の中で「お前小宮と〇〇なんだって」と持ち出されます。「ばーちゃんが見てた」と。これも映像作品だからこそ出来る演出です。文章にしてしまうと「そんな瑛太と小宮の姿をも守る一人の視線があった。瑛太の祖母が見ていたのだ」・・・となってしまい興ざめになってしまいます。

「映像に語らせる美学」はこの他にも「風景に語らせる」という手法も多様されます。明日受験という晩、美緒は窓を開けて瑛太の家の方を見つめます。そして同じ時、瑛太も美緒の家の方角を見ている。小さく写るお互いの家の窓明かりのロングカットが、二人の視線そして二人の気持ちです。もう痺れます。

「風景に語らせる」と言う点では、この作品は教科書と言っても過言では無い。坂道や階段のアップダウンを使った演出も素晴らしいが、湘南モノレールの使い方が実に上手い。(バスや電車も含め)。シーンに切り替わにモノレールが登場する事が多いのですが、懸垂式モノレールが画面の上を横切って行く光景は、千葉市と湘南モノレール沿線にしか無い唯一無二のものです。これが挿入される事で、「他の何処でも無い場所」が確定され、その場所で今を生きる高校生達の息遣いにリアリティーが加わります。

■ 「音に語らせる」美学 ■

「音に語らせる」シーンも多々あります。写真部の小宮がバレンタインの夜に瑛太に会うシーン。モノレールの駅のホームで小宮は瑛太に実らぬ恋の告白をします。そしてカメラがロングに切り替わり「ガッタン」と言う機械音がホームに響く。実はこれ、モノレールのポイント切り替えの音なんです。普通の電車なら、構内放送や発車ベルが使われたりするシーンですが、「ガッタン」という音がモノレールという唯一無二の空間を作り出す。知らない人には皆目分からないシーンではありますが、シリーズ構成で全話で脚本を書いている鴨志田一は、この近所に住んでいたので、「ガッタン」という音こそが湘南モノレールの駅である証明なのでしょう。そして、二人の関係のポイントも切り替わります。

 

■ 小宮さんと、写真部の男子部員二人がイイ!! ■

恋愛作品の名作には「名振られ役」が不可欠です。『俺の青春ラブコメが・・・』が名作なのは、一式いろはの貢献が大きい(彼女はもうワンちゃん狙っている様ですが)。同様に『Just Bcause!』では写真部の小宮 恵那(えな)の存在が絶大です。彼女無くしては、この作品はイジイジした凡庸な三角関係ドラマの成り果てたでしょう。

小宮 恵那はとにかく猪突猛進で、空気を読まない。写真展に瑛太の写真を出展する許可を取る為に、瑛太に付きまといますが、いつしか瑛太が気になって仕方が無くなる。他人の間合いにズケズケと入り込む小宮を瑛太は迷惑に思いますが、瑛太はそれを隠そうとしない。だから余計に踏み込むうちに、小宮は瑛太に恋をしてしまう。

小宮は空気を読まないが、空気は読めるので、瑛太の美緒に対する気持ちにも直ぐに気付きますが、瑛太もそれを指摘されても、小宮に対しては意外にも否定する事が無い。これは相性の問題で、内に秘めるタイプの瑛太にとって、ズケズケと入り込んで来る小宮は自分の感情の捌け口としては悪く無い存在なのかも知れません。これは陽斗も指摘していて「お前ら仲良いよな。だって瑛太が素で話すのって小宮ぐらいじゃん」とさすがは親友は鋭い。

空気を読まない小宮さんが搔きまわすからこそ、このラブストーリーは最高に面白い。そしてその恋が決して実らない事を視聴者は予感するから、彼女を観ていて切ない気分が押し寄せて来る。

そんな小宮を密かに慕う写真部の鉄オタ男子もイイ。彼らの健気さにこそ、アニオタ男子は共感するのです。この鉄オタ男子無くして、この作品は名作になり得なかったとも言えます。

 

■ 『Just Becasue!』と『月がきれい』を見ずしてアニメオタクを語るべからず ■

脈絡も無く『Just Because!』愛を語ってしまいましたが、こんなに素晴らしい作品を作られた小林敦監督の作品が途絶えている事が悲しい。小林監督はProduction I.Gの制作出身で、『ガールズ&パンツァー』でも水島勉監督回に次ぐ回で監督を務められて様です。『Just Because!』程の完成度の作品を撮れる(あえて撮ると書きます。実写映像の撮り方を熟知されているので)監督が評価されない日本のアニメ事情はどうかしています。

とにかくこの作品、カット割りが細かい。群像劇なので、同時進行する別の場所のシーンの切り替えや、ちょっとした風景のシーンの挿入など、手間が掛かる演出をひたすら繰り返します。それなのに、じっくりロングで見せるシーンもあるので、せわしない印象は一切無い。演出としては限りなく実写演出に近い。絵コンテが販売されていた様なので、ネットで観る事が出来ます。

私は『Just Because!』と『月がきれい』を観ていないオタクにアニメを語る資格は無いと確信しています。

ちなみにシリーズ構成と全話脚本は『青春ブタ野郎はバニーガールの夢を見るか』の原作者の鴨志田一。鴨志田氏は、藤沢近辺が出身地らしく、「青ブタ」も鎌倉から藤沢界隈が聖地です。『Just Because』も、本当にこの辺りの何気ない風景のオンパレードですが、聖地巡礼に行くと、この風景があるからこそ、あの名作が生まれたのだと納得させられます。

 

■ 「文科省課題アニメ」に指定して欲しい ■

『Just Because!』を私は「文科省課題アニメ」として強く推したい!(そんなものは有りませんが)

 

1)進路が異なる高校3年生達をリアルに描いている

  陽斗・・・就職  

  瑛太・・・私大受験 

  美緒・・・私大受験 

  葉月・・・推薦入学  

  依子・・・スポーツ推薦

高校を卒業すると、子供達は様々な人生を迎える準備に入ります。就職を選択した人は、18才で社会に出る事になります。そんな彼らのリアルが詰まった作品です。

 

2)家族関係をしっかり描いていいる  

  陽斗・・・母親と彼女の祖父母の4人暮らし 

父親を早くに亡くした陽斗は、看護師の母親が家計を支えているが、母親は忙しい。祖父母が陽斗を養育したと思われるが、仕事帰りの母親の荷物を、さり気なく自転車の前かごに入れるなど随所に陽斗の家族への優しさが伝わるシーンが描かれる。祖父母にも優しい。

  葉月・・・父母は農業。4人兄弟。

葉月も父母は農家で朝から忙しい為、家事と兄弟の世話はほぼ彼女の仕事。大学の4年間だけが彼女の自由になる時間なので、敢えて関西の大学で一人暮らしをする事に。今まで家族や兄弟の為に時間を使って来たからこそ許された小さな我儘でしょう。

  瑛太・・・父親と母の3人暮らし

  美緒・・・父、母、姉の4人暮らし。

瑛太と美緒は一般激なサラリーマンの家庭。三菱村の土地柄、三菱系の社員かな。比較的裕福な家庭と思われる。

  依子・・・家族構成は不詳

家族がしっかりと描かれている作品は名作が多い。この作品は、本当に家族が良く登場しますが、その背景設定もしっかりしていて、登場人物の人格設定にしっかりと繋がっている事が素晴らしい。

 

3) 担任がイイ

フランクだけど、生徒をしっかり見ている担任の「ゲンさん」が最高。多くの教師が彼を見習うべき。

 

以上の理由から、文科省にはこの作品を「文科省課題アニメ」に指定する事を強く願う。

「あ~、冬休みの間に『JUST BECASE!』を観ておくように。休み明けに感想を聞くから、早回しで観るなよー!」って先生が言う所を想像してニヤニヤしてしまう。

 

・・・ああ、文章を書いていたら又観たくなったので、もう一回観よう!何回観ても発見と驚きがあるから。

ちなみに今期アニメは『もういっぽん!』一択。異論は認めず!