■ Googleを脅かす Chat GPT ■
「AIが人間を越えるのは未だ先」と思われていましたが、昨年末頃から、それが現実化するのでは無いかと言われ始めました。
各所でマイクロソフト社が出資するOpenAI社の、「大規模言語モデルAI」のChat GPTが話題になっています。「簡単な質問文を入力すると、テキストベースで答えを返してくれるソフト」というのが一般的な理解でしょう。アメリカの大学生が課題に使ったりして問題になっていますが、Google先生が登場した時を思い出します。
ところが、Chat GPTの性能は「調べもの」に留まりません。例えばChat GPTにエクセルの表をコピペして「エクセル 票集計 項目順 マクロ」などと入力すると、マクロ(簡易的なプログラム)を吐き出します。少しマクロを勉強した事がのある人が、多少修正すれば、実用的なマクロが完成します。
プログラムも言語ですから、「大規模言語モデル」はプログラムを言語として学習するのでしょう。或いは、マイクロソフトが学習させた。結果、マクロ程度の簡単なプログラムなら、瞬時に組む事が出来る様に成長した。これが他のプログラム言語で同様に学習出来るかは現状は未知数です。エクセルの表で実行される命令文は「表」に限定されているので、「限定的」で「シンプル」です。だからAIの習得も速い。
一方、汎用プログラム言語で組まれるプログラムは、処理が多様なのでAIとて容易には習得できません。しかし、プログラムを細かく分解して行けば、やっている事は至極単純です。ですから、数行から数十行レベルのプログラムの習得は言語AIは特異なはずです。誰かが根気強くプログラム言語を教えれば、エクセルのマクロ同様に様々な断片的なプログラムを作る様になるハズ。
問題はここからで、Chat GPTは無料で利用出来るので、プログラムが組めるとなれば、多くのプログラマーが利用する様になります。ここがオープンAIの真骨頂で、多くの人が繰り返し利用する事で、AIの自立学習が加速します。様々なプトグラムの質問に対して、回答を「検索」する内に「パターン化」のコツを掴んで行きます。最初はミスも多いと思われますが、その内にミスは減って行き実用に耐える様になり、いつしか人間の能力を超えて行きます。
より多くの人が利用したAIは学習機会が多いので、成長のスピードが速くなります。今、Googleは相当に焦っている様で、サンダー・ピチャイCEOが「コードレッド」を発令して、Chat GPTにデファクト・スタンダードの座を許すまじとBERTという自然言語処理モデルAIを発表して追撃します。「質問」に対して「関連度の高いページを提示」するGoogleよりも、「テキストベースで回答を書いてくれる」Chat GPTの方が、「現代の怠惰な人間」には便利だからです。Gooleの優位性は一瞬にして揺らいでいます。
■ ホワイトカラー失業が始まった ■
私は以前よりAIはホワイトカラーを労働市場から駆逐すると主張して来ました。ホワイトカラーの仕事はPCに向かって行う業務内容が多いのですが、PC内で完結する仕事はAIの得意分野です。
例えば機械翻訳ですが、以前の機会翻訳は文脈などを理解出来なかったので、かなり「変な翻訳」をしていました。だから、「機械翻訳は使い物にならない」と言われて来た。しかし、現在の機会翻訳は「かなり自然な文章」で翻訳をします。ビジネスの契約書や、書籍の翻訳以外ならば、ある程度実用に足る。
実際に翻訳を生業とする方達の働き方も変わって来ており、機械翻訳で自動翻訳されたテキストを修正したり、或いは、翻訳前の文章を機械翻訳し易い文章に手直しする仕事が多くなっている様です。現状は、「機械翻訳を上手に使っている人の生産性が向上」したと言えます。しかし、誰かの生産性が向上したという事は、別の誰かの仕事が奪われた事に等しい。
さらに、機械翻訳を使う機会が増えれば、翻訳AIは自律的に学習して、次第にミスが少なくなります。ある時点では、人間の翻訳家と同等、或いはそれ以上の能力を獲得する。そのなる時もそう遠くは無い。10年後に翻訳家という仕事がどれだけ残っているか・・・彼らは今恐怖を実感しているハズです。
先に書いた様に、プログラミングもAIの得意とする分野です。10年後にプログラマーは今の翻訳家と同じ恐怖を味わっているでしょう。
■ クリエイティブの仕事から消えていく・・ ■
AI化が話題になった時に、「単純作業はAIに置き換わり、クリエイティブな仕事は残る」と言われていた。私は???と思っていましたが、現実にはクリエイティブと呼ばれる仕事がAIに奪われ始めた。
作曲はクリエイティブな作業と思われいましたが、作曲AIは「激しいロック クライマックス」などと入力すると、立ちどころに幾つかの曲を作曲してくれる。著作権に引っ掛からない様に作曲するので、これで商業作曲家の仕事は実際に減り始めています。(それ以前に自称作曲家達がフリー音源をネットに山積みにしているので、ニュース番組の背景音源などは、かなりフルー音源が使われていましたが。)
イラストAIも相当に進化しています。「犬 可愛らしい」などと入力すれば、何パターンかのイラストを瞬時に生成します。これで、商業的なイラストレータの仕事は瞬時に激減したハズ。
CGのAIの進化も著しい。人物の写真やイラストを1枚読み取らせて、テキストを入力すると、表情豊かにテキストを読み上げる動画が瞬時に作成されます。テキストの翻訳も同時に行い、音声出力までこなす。Vチューバーなどは顔見せするとアクセスが増えますが、顔出しを躊躇っていた様な方達には便利でしょう。他人の顔写真を使ったら肖像権の問題が出ますが、AIのCGソフトで「〇〇風の顔」を作れば、肖像権に引っ掛かる事も無くリアルなアバターが作成出来ます。
AIで静止画をリアルに動かす技術は、アニメーターの仕事を脅かします。現在でも動画の工程でCG技術は活用されていると思われますが、より少ないコマ数の原画からリアルな動画を作る事が可能になります。日本の2次元アニメは自然なCG化が難しいとされていましたが、AIは自然な2次元アニメの手法をあっという間に習得するでしょう。これでアニメーターの仕事が大幅に減ります。
■ AIはコミュニケーションが苦手? ■
営業職の方などは「AIは人をコミュニケーションが出来ないから営業職は無くならない」と考えている方が多い。しかし、現在アメリカでは保険の外交員が大幅に失業しています。何故なら、有利な保険を勧めてくれるならば、相手は別に保険の外交員である必要は無いからです。PCで条件を入力したら、瞬時にお薦めの保険が幾つか提示される・・・外交員に会う時間が節約され、お世辞を聞く時間も節約出来ます。
この様に、「人と人がコミュニケーションして成立」していた仕事は、「仕事のやり方を見直す事で自動化と省力化」が可能です。ビックデータを活用した貸出(フィンィング)が既に実用化されていますが、その人の与信状況や、経済状況をビックデータから抽出して信用を審査すれば、経験豊かな貸し出し担当程度と同程度の仕事は出来てしまうのです。
しばらくは、仕事のプロセスをAIに合わせて再構築した人の勝になります。AIを使いこなす営業、AIを使いこなす翻訳家、AIを使いこなす音楽家・・・この先10年程は、そういう時代になるでしょう。
■ AIが苦手とする仕事 ■
AIが苦手(或いは機械が苦手)とする職種もあります。老人介護や看護がそれに当たります。ボケ老人はワケワカメなので、AIが彼らを理解する事は難しいし、介護の仕事を熟すロボットよりも人間の賃金の方が安い。看護も同様で、様々なセンサーで健康状態を管理するロボットよりも、看護師の方が優秀です。患者の血色を観たり、言動から容態を推測したり、さらにはオムツを変えたり、シーツを変えたりする事を自動化するコストは看護師の人件費よりも大きい。
同様に建築作業員など肉体労働も自動化が難しい。農林水産業など自然を相手もする仕事も、AIやロボットが苦手とする仕事です。但し、農業の一部は「農業工場」として自動化し易い分野ですが・・。
■ 真のシンギュラリティが達成されたら、研究職ですら失業する ■
「AIが実用される」的な報道が増えると思われますが、現在「AI」と呼ばれている物は、「AIを装った道具」に過ぎません。言語や作曲やイラストの「特徴」を学習させ「パターン化」させ、「人々が好むと思われる結果を抽出・生成」しているに過ぎません。そこに思考(インテリジェンス)は存在しない。考えている様に見えているだけ。
「シンギュラリティ」と呼ばれる「AIが人間を越えるポイント」は、「AIが思考をし、人間の思考を越える時」と定義されています。「自我を持たないAIが思考をする事は無い」という人も居ますが、これは哲学的な問答で無視して良いと私は思います。
そもそも「自我」とは「パターン化の特徴」だと私は考えています。ある情報入力に対して人間は「ブラックボックス」として結論を導き出しています。このブラックボックスは、教育や環境、生物の本能や、文化の遺伝子(ミーム)によって回路が構成される。全てインプットとアウトプットの間に様々な「パターン化」が存在します。これをAIが学習して習得する事は不可能では有りません。
彼らはビックデータからの抽出で、最初は「認識」を、現在は「既得の知識」と「好みの傾向」を学習しています。この先、AIが生物としての「本能」を習得するのか、或いはAI独自の「本能」を観に着けるのかは分かりませんが、情報処理に何等かの「クセ」が生まれて来ると思われます。これは「情報の揺らぎ」の様な物だと思うのですが、これこそが「AIの自我」或いは「AIの人格」を形成して行くのかも知れません。
人間の根源には「もっと知りたい」という欲望が存在します。AIが自律的にその様な「感情の様な物」を獲得した時、AIは自発的に人類の文明や、科学を学習し始め、それを理解し、そこから人間が到達出来ない思考や発明や発見の領域に踏み込んで行くでしょう。こうなると、AIの進化に人間は全く付いて行けません。
ただただ、「AIが人間は邪魔で滅ぼすべき存在」という思考に至らない事を祈るのみです。ただ・・・AIを停止させる事の出来る人間は、いつかはAIに「敵認定」されてしまう様な気がします。そうなる前にAIに規制を掛ける条約が出来ると思うのですが。
リアル「BEATLESS]の世界は、すぐそこまでやって来ているのかも知れません。・・・或いはコロナワクチンのレシピはAIが作ったとか・・・。