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映画・演劇のレビュー

関口尚『潮風に流れる歌』

2010-08-14 20:24:17 | その他
 連日地獄のように暑い試合会場で、生徒の試合が始まるのをを待ち続ける日々が続くので、1日1冊のペースで本が読めてしまう。なんだかなぁ、である。毎日10試合以上を真剣に見ているから、凄く疲れる。クタクタだ。ということで、読む小説は、軽い青春小説をチョイスしているのだが、そのどれもが楽しい。それだけがせめてもの救いだ。

 さて、本作だが、4人の男女を主人公にして、それぞれの事情を背景に彼らが今の自分を乗り越えていく姿を描く。高校3年生という時間。湘南という場所。団地の窓からは海が見える。海辺を自転車を走らせて学校まで通う。近くに引っ越してきた少女。彼女に恋する少年。お決まりのパターンだ。そこにいじめの問題を織り込んでいく。2人は学校の裏掲示板で、いじめの標的にされる。陰湿な話へと展開していくのだが、それをなかなか上手く明るいドラマへと収束させていく。決して単純なお話ではない。  

 主人公の4人を仲よしグループなんかには設定しないのが、よい。それどころか彼等の接点をなかなか簡単には作らない。前半は、主人公は先に書いた転校してきた少女と彼女に憧れる同じ団地の少年の2人であり、彼らがいじめの標的になるところから、話は展開していき、いじめている側のクラスメートと、彼女の恋人であるもうひとりの少年が絡んで来てドラマは広がりゆく。

 後半になってようやくこの4人の話となっていくのだが、彼ら4人のそれぞれの事情をきちんと描くことを通して、個々の孤独を明確にしていく。だから単純に仲よし物語としての予定調和は見せないのがいい。その時、お互いがお互いの事情を相互理解していく、という図式はとらないのだ。それは内面のドラマとして語られるから、彼らの想いは読者である我々が理解するに留める。

 4人のドラマはあくまでもそれぞれのドラマであり、読者である我々の胸にとどめられたまま彼らの物語は進行していく。やがて彼らも自分たちの心情を語る日が来るだろうが、それはまたこの小説とは別のお話である。

 裏掲示板の犯人探しとか、ドラマチックな展開も用意はされている。甘い小説だ、と言われたなら確かにそうだ。だが、見た目ほどには、このお話は単純ではない。そこがいい。

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