習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

島本理生『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』

2017-09-15 22:27:38 | その他

 

 こういう恋愛小説もありかぁ、と思う。読んでいるとなんだか、ちょっと寂しくて、つらい気持ちになるけど、でも、最後にはささやかな幸せで満たされる。ここには特別なことなんて何もない。変わりばえのしない平凡な毎日の生活。その繰り返し。でも、そんな積み重ねのなかにほんのちょっとした変化がある。とても地味なお話で派手なことはない。

HIVに感染して、人生は終わったと思っていた中年男と、30過ぎのシングルの女性の、ビクビクしながら少しずつ前進していく手探りの恋。それを「食事」(日常のささやかな幸せ)と「旅」(非日常の少し贅沢な幸せ)を通して描く。それだけなのだが、それがいい。

 

途中で彼女の周囲の女たち(友だちや妹)のエピソードを挟んで、(彼女たちの恋愛をサイドストーリーとして)主人公のふたりが結婚するまでが綴られていく。何を幸せと呼べばいいのかは、人それぞれだが、たとえ未来がみえなくても、彼女たちは幸せだと思う。

 

たまたま、この本を読み終えた同じ日に見た映画。『きっと、星のせいじゃない』も同じようなテーマで、とてもよかった。末期ステージ4の女の子が主人公。骨肉腫で足を失い、同じようにがんと闘う男の子と出会い、恋に落ちる。未来の見えない二人が少しずつ歩み寄る。あと少しで死んでしまうにしても、残された時間を精一杯生きたい。特別なことなんかいらない。普通に恋をして、普通に生活出来ることの幸せ。それが愛しい。

 

アムステルダムに行く3日間の旅。そこで最高の幸せと最悪のことに遭遇する。でも、そんなものかもしれない。何が幸せで何が不幸なのかなんて、よくわからないけど、今自分が置かれた状況の中で、ベストを尽くすしかない。この小説と映画はそんなことを改めて教えてくれる。

最近、恋愛小説も恋愛映画もご無沙汰だったから、なんだか新鮮だった。しかも、2作品とも、天真爛漫だとか、派手で華やかなとか、というのとは別世界で、とても地味。でも、そこがとてもよかった。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ロイン機関『鳥の火』 | トップ | 『ダンケルク』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。