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映画・演劇のレビュー

『ダンケルク』

2017-09-15 22:40:42 | 映画

 

CGに頼らないで本物の戦場を再現するという。ドキュメンタリータッチの描写で迫真の映像体験を見せてくれる。実際の戦場のなかに放り込まれたようなリアルさを目指したという。確かに、凄い。そして、ここにはふつうの映画のようなストーリーはない。目の前の事態を見つめているだけ。誰が誰なのか、戦況がどうなっているのか。まぁ、何をしているのかはわかるけど、細部の説明は全くないし、登場人物たちの内面や、状況は一切語られることがないから、お話にも、人間ドラマにはならない。事実の羅列だ。狙いはわかる。

 

冒頭のどこからともなく、銃弾の嵐が襲いかかり、必死に逃げ回る男を描くシーンから、圧倒される。陸―海―空の三つ巴のエピソードが組み合わされ、ダンケルクからの脱出が描かれていく。英国軍の命がけの撤退だ。この悲壮なドラマを、感情を交えず見せていく。リアルタイムの時間を追っているように見えるが、三つのエピソードは必ずしも同時進行にはなってない。少しずれている。いずれもお話として収まらない。そこにカメラを置いて、彼らの行動を、現状を、追いかけていくだけ。凄い迫力の音響と映像に観客も追い込まれていく。狙い通りの仕上がりで、確かに凄い映画だとは思う。

 

だけど、映画自体はあまり面白くない。確かに凄い映画なのだ。圧倒的な迫力だし。でも、クリストファー・ノーランの映画を見て、久々にがっかりしたのも事実だ。こんなことはデビュー作の『メメント』以来のことだ。だから何なんだ、と思ってしまうのだ。『メメント』を見た時も、そうだった。仕掛けばかりが先に立ち、映画自体はつまらない。今回もそうだ。しかも、なんか、よくわからないけど、ハッピーエンドのような終わり方だし。凄まじい映像体験と映画の感動は別だ。ここには「何か」が足りない。

 


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