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映画・演劇のレビュー

『20世紀のキミ』

2022-10-27 10:54:45 | 映画

Netflixによる最新韓国映画だ。まるで「おままごと」みたいで、とても甘い砂糖菓子のような青春映画。高校生男女による切ない恋物語。20年後の大人になった彼女のもとに届く昔の彼からのビデオ。17歳の春へと引き戻される。よくある定番ラブストーリーなのだが気持ちいいくらいにパステルカラーのキラキラ青春映画をこれでもか、これでもかと見せてくれる。なのにそれが鼻につかないどころか、なぜだか素直に受け入れられるのは、これはある種の夢の世界だという開き直りに徹するからだろう。なのにそれが嘘くさくなるのではなく、こんなふうなら素敵だと思える。素直なのだ。これを嫌味にならずこんなふうに描けるというのは凄い。ここまであざとい設定はない。なのにそれはこんなにも気持ちよく伝わる。これはそんな稀有の作品である。

心臓病の親友は手術のためにアメリカに渡ることになる。渡航直前、彼女は偶然出会った男の子に一目ぼれした。一瞬で恋に落ちる。でもそのときは顔と名札を見ただけで何も言えないまま。(だから名前しか知らない)主人公の少女は、そんな親友のために彼を探し出し、知り合いになり、せっせとアメリカにいる彼女に彼情報を送り続ける。やがて彼女はその男の子と彼の友人のふたりに同時に好かれることになる。彼女は親友の恋を成就させたい。親友の好きな男の子のそばにいる男の子は彼女を好きになる。彼女もまた彼を好きになる。やがて手術に成功して親友が帰ってくるのだが、ここで問題発生。なんと彼女が好きだったのは、親友のほうの男の子だった。と、こんなふうな話。と、書いていてうまく伝わっただろうか。なんだかとてもややこしい関係なのだ。(というか、もっと読み手にちゃんと伝わるように書けよ、と自分に叱咤する)要するにこれは4人の男女の恋バナなのだ。4人のすれ違う想いが描かれる。もうここまで定番の展開は少女漫画でしかありえないだろう。その王道を行く。とどめは卒業前なのにいきなり彼はオーストラリアに帰ることになる。

さらにはオーストラリアに帰った彼からの便りが途切れるとか、どこまでやるのかというような、展開がどこまでも続く。最後はもうこれしかないという決定打。泣かせるためだけに作ったか、と思うほどベタなお話になる。だいたい2人の男の子たちのキャラが少し不良っぽいのと真面目で物静か、とか、主人公の女の子が男勝りとか、もちろん心臓に病を抱える親友はおとなしいタイプの女の子で、とか。あらゆる局面でとことん定番を踏む。

なのに、である。(ここからが本題です。)この映画は素敵すぎる。キラキラした時間をまるで夢のような肌触りのママ見せていく。もちろん現実はこんなことはない。そんなこと重々わかっているから、これはあくまで映画だとわかったうえで、その感触を楽しむ。監督のこれが長編劇映画デビューとなるパン・ウリはそんな映画だからこそ可能な見せ方を熟知している。

1999年から2000年を舞台にして、20世紀の最後の時間という時代に17,18歳という一番輝いていた時間を過ごした特別な高校生たちの輝きを2時間の映画の中に丁寧に封じ込めた傑作。ほんとうなら劇場の暗闇の中で臆面もなく思い切り感情移入してひっそりと涙しながら見たかった、これは青春映画の金字塔。


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