習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『闇の中の光』

2015-04-22 21:26:16 | 映画

こんなにも手強い映画を見るのは久しぶりだ。こんなものをDVDなんかで見るべきではない。劇場で襟を正して対決しなくては、とても太刀打ちできない。これをつまらない、と斬り棄てるほど、バカではない。しかし、感動した、と言えるほど、ノーテンキでもない。ただ、わからない、と頭を抱えるしかないではないか。凡人には理解不能の世界、と突き放すほど、単純ではない。この衝撃を無視できるわけではない。難解な芸術映画として、崇めるわけもない。

ただ、このわからないものを、しっかりと、受け止める。ある家族を襲った不可解な出来事。それは夢の出来事なのか。とても、それは現実とは思えない。だが、ただの夢として心に収めるにはあまりに生々しいし、強烈だ。ショックだった。僕なんかのわからないものが、この世界にはある。そんなこと、充分理解できる。でも、この衝撃をそんな言葉には終わらせない。終盤の人の頭が飛んでしまう映像が、ショックなのではない。ストーリーが理解できないのが、ショックなのではない。あの赤い生き物が夜中にやってきて、何もせずにそのシーンが終わる。それが何を象徴するのかわからない、ことがショックなのでもない。「想像を絶するもの」が、そこにはある、そのことがショックなのだ。ひとつひとつの事象を捉えてどうこう言うのではない。総体としてのこの映画が衝撃的なのだ。

これはメキシコのある家族の物語のはずだ。4人家族で、夫婦には、かわいいふたりの子供たちがいる。幸せそうな風景が描かれていた、はずだ。しかし、それがどんどんわけのわからないものへと、変貌していく。カルロス・レイガダス。まだ若いこの作家の壮大な黙示録に魂が揺さぶられる。だが、これはあくまでも日常の描写なのである。なのに、それがこれだけの圧倒的に迫ってくるのは、この日常と背中合わせに不安と狂気がこの世界には溢れているからだ。そのことを、頭ではなく体で伝える映画だ。僕たちはこの体感に震えるしかない。悪夢なんていう都合のいいことばを拒絶する。恐ろしい。


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