習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『零落』

2023-03-21 11:47:27 | 映画

これは竹中直人監督10作目の節目となる映画だ。デビュー作『無能の人』に続く漫画家を主人公にした作品。今まですべての映画を公開時に劇場で見てきた。いつも映画愛に感じさせられる作品ばかりで好きなのだが、ここまであの1作目を超える映画はなかった。だからこそ今回期待は高まる。

だがなかなかエンジンがかからない。見ていてもどかしい。消化不良。だんだんイライラしてくる始末だ。これはこんな映画なのだとわかっているが、見ていて苦しい。この苦しみの先に、どこに行きつくことなるのか、見守る。

 
これは売れない漫画家の話ではなく、書けなくなった漫画家の話。8年続いたヒット作の後、彼は書けなくなる。そんなイライラの日々を淡々と描く。主人公を演じる斎藤工がまた実にイライラさせてくれる。彼がボソボソ喋る、いきなりキレる。自分もイライラしてるだろうが、観客の僕らもイライラする。
 
趣里演じるデリバリ嬢(今日見た映画はなんと二本ともデリバリ嬢映画だ!)との関係がお話の核になるのだが、こちらも大事なはずのそこがなんかすっきりしない。彼女を通して彼がどう変化していくのか。彼女は猫の目をした女。冒頭登場する最初の彼女(玉城ティナ)もそうだった。それが彼を不安にさせるし、同時に安心させる。自分が求めているものを彼女たちは持っている。なのに、それが手にできない。去っていった彼女の面影を今もずっと追いかけている。わかって欲しい。でも、妻も含めて誰もわかってくれない。この映画の趣旨はわかるのだが、でもなんかそれが納得しないのだ。だからこの映画に乗れない。もどかしい。
 
ラストのサイン会での対応にはドキドキする。最後まで彼の気持ちが見えないから、また問題を起こすかとハラハラする。書けない日々からどう解放されていくか。解放なんてない、か。ずっとファンだった女性がサイン会にやってきた。そんな彼女を拒絶する。その後、涙を流す。真意はどこにあるのか。売れる漫画を描かなくてはならないというプレッシャーと、描きたいものを自由に描けない苛立ち。
 
「死ぬまでひとりぼっち。」「もう、うんざりだよ。」それがチラシにもある言葉。何度も繰り返し挿入される海のイメージ描写。揺れる想い。散りばめられたそんな数々の大事な要素が有機的に繋がらない。だからやはりこれは消化不良。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『死体の人』 | トップ | 村山早紀『不思議カフェNEKOM... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。