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映画・演劇のレビュー

『死体の人』

2023-03-21 10:41:03 | 映画

大阪ではレイトショーで1週間のみの限定上映。どうしようかと思ったけど、無理して見に行くことにした。なんか怖いけど面白そうなのでチャレンジしてみたのだ。でも失敗。残念な映画だった。無駄な時間だった。悔しい。発想の面白さを活かしきれない。思いつきの域を出てない。「まだ存在しない映画の予告編」を審査する映像コンテスト「未完成映画予告編大賞 MI-CAN3.5 復活祭」の最優秀作品を映画化した作品だから思いつきは興味深いのだが、それを生かし切る力量は(まだ)ない。監督は新人の草苅勲。これが劇場用長編のデビュー作となる。

主人公は小劇場演劇出身の売れない役者(奥野瑛太)。映画やドラマで死体を演じて機会を待つが、浮かび上がる機会は訪れない。以前は座長として劇団を率いて作、演出、役者を兼ねていた。でも今は鳴かず飛ばず。そんな彼とミュージシャン崩れのダメ男を信じて貢ぐデリバリ嬢(唐田えりか)。このふたりの関係を通して彼らが少しずつ成長していく姿を描く映画(のはず)。
 
どうしてこのふたりが、こんなふうに淡く細くつながっていくのか。そこに説得力があればこの映画はそれなりには成功したのだが、ダメだった。これでは納得がいかない。しかもあのラストの狂言殺人なんて、なんかまるで意味ないし。ふたりの関係性をうまく描くことがお話の要だ。デリケートな問題だがそこさえクリアできたならこれはかなりの映画になっただろう。唐田えりかがあんなにいいのに、悔しい。
 
表面上は笑える映画でもいいのだが、その着地点を上手くコントロールしてちゃんと感動につなげて欲しいのだ。だか、無理だった。死体専門の役者という設定自体にも無理があるけど、そこには目をつぶっていい。それ以外の部分に説得力があれば乗り切れたのだが、ない。だから、映画全体が嘘くさくなる。せっかくの唐田えりかがこれでは生かされない。彼女の天真爛漫と、だからこそのバカさ加減が重なることで、うまく機能したならよかったのだが、それもない。ブラックコメディなんていうような斜に構えた微妙なラインではなく、本気のラブストーリーでいいのだ。
 
恋人もいて妊娠しているデリバリ嬢に恋して、彼女を守ることで自分自身も成長していく。それでいいではないか。同時に母親の死という大きな痛みを抱えて、それもまた成長のきっかけになる。いささかご都合主義だが、それはそれでいい。彼の想いがちゃんと伝わるように描けたならそれなりにいい映画にもなったはずだ。当然のことだが、映画は難しい。
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