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映画・演劇のレビュー

畑野智美『ヨルノヒカリ』

2023-10-17 05:45:00 | その他

この寂しさはよく知っている。ひとりぼっちの雨の日。僕は小学生で、窓から外を眺めている。誰もいないし、何もできない。休みの日の午後。(あるいは平日夕方)そんな時は眠るしかない。何も考えずに静かに眠りにつく。そうすれば、誰かが帰ってくる。きっと。そんな夢を見る。

 
主人公のヒカリには誰もいない。夜野光。27歳。家族もない。恋人もいない。仕事を失くし、住む家も失った。台風の夜。このまま死んでしまうかもしれない不安を抱えて雨の中、歩くところから始まる。

木綿子さんは35歳。彼女もひとり。今まで付き合った男性はいない。男の人を好きになれない。だからといって女性が好き、というのでもない。ずっとひとりで生きるのには不安もある。だからといって結婚をしたいわけではない。子どもはできたら欲しい。だけど、男の人とセックスをしたことはない。
 
そんなふたりが同居して暮らす。従業員と雇主の関係。恋愛感情はもちろんないけど、周囲からは疑われるし、危険性を指摘される。そんなふうに思われるのはわかっていた。だが、彼があまりに可哀想で、同時に自分が寂しくて。
 
最後はめでたしめでたしになるんだろうなぁと思っていたけど、簡単なハッピーエンドではつまらないなぁと思っていた。落とし所が難しいけど、さすが畑野智美さんだ。大丈夫。ふたりは幸せになる。なぜならお互いを誰よりも大切に思っていることを疑わないからだ。相手を100%信じられる。形に縛られない自分たちの関係性を大事にする。従来の在り方に無理して収めない。
 
ふたりはパートナーとして暮らす。この先、子どもが生まれると、それもいい。そうならなくても、ふたりの関係は壊れない。結婚にも縛られない。安心して暮らすことができる場所を作ること。幸せになること。それを可能にする物語がここには確かにある。
 
 

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