DIVEの演劇EXPOは昨年も素晴らしいイベントだったが今年もさらに進化した。お祭りでありつつも、それだけにとどまらないのがいい。1本1本がちゃんと本気で作られている。
今回は中心になるウイングフィールドでの2つの企画と、大阪周辺で連日ゲリラ的に開催されるリーディング企画の2本立て。リーディングはよくぞまぁこれだけ、と感心するほど様々な場所でいろんな作品をたくさんの演劇人たちが取り組んでいる。まさか、すべてを見ることなんて不可能だけど、いずれも見たいと思わせるものばかりだった。
僕は時間の都合で7日の竜崎だいち『夢十夜』(イロリムラ)しか見られなかったけど、とても楽しく見ることが出来た。夏目漱石の短編作品である。10のお話から6話をピックアップして彼女の朗読でお贈りする企画。(2ステージで10夜ともコンプリートする。第3夜と7夜はどちらの回でも読まれた。)
6時半の回で彼女は、和服で登場する。(8時半の回では、洋服になったらしい)10カ所に置かれたテキストを手に取り、朗読が始まる。どこに何があるかは、僕たちにはわからない。竜崎さんはまるでその場で偶然手にしたものを読むかのようにさりげない。立ったまま、あるいは座って、5,6分の時間で読み終わる短い夢のお話をことさら大仰に演出することもなく魅せる。そんなさりげなさがいい。上演時間を40分で収めるため6つのピックアップになったのだろうが、適切な判断だ。全話読んで完結させるのは漱石の本意ではない。ひとつの夢はそのひとつで完結する。夢は見た瞬間から消えていく。目覚めた時に、ふっと心地よさやあるいは居心地の悪さを抱くけど、すぐに忘れるほどにさりげないものでいい。
思い入れたっぷりで読まれると、なんだか退いてしまうけど、こんなふうにさらりと読まれると反対にお話に引き込まれる。漱石自身もある種の距離感を持って書いているのは、文章からも伝わってくる。テキストの持ち味を生かした。仕事帰りにちょっと立ち寄り、耳を傾ける、という感じで、気持ちのいい時間だった。
個人的には大好きな悪夢、第10夜が聞きたかったけど、仕方ないことだ。竜崎さんが「豚になめられますが、よござんすか」と言うのを聞いてみたかった。理不尽なことを強要され、迷惑そうに戸惑う庄太郎を描くあのエピソードが僕は一番好きだ。竜崎さんは7話がお気に入りで、だからそれを2度取り上げたらしい。3話は定番だし外せないからこれも2度演じたのだろう。背中の子どもが重くなる話は確かに恐い。