このなんだかわけのわからない映画がなんだかとても面白い。くだらない、と一蹴することも可能だ。面白いと書いたくせに、どこが面白いのか、と突っ込まれたならうまく答えられない。一貫したお話はない。短編連作でもない。長編作品としては整合性がない。いや、ちゃんとつながってるけど、僕が理解していないだけ、かもしれない。短いエピソードの積み重ねで、オチはない、ようなあるような。なんともまぁ微妙。誰が主人公か、と言われたら、主人公はない、と答えるしかない。群像劇だ、とも言えない。たくさんの登場人物のほぼ全員が主人公であり、傍役でもある。
なんだかわびしいお話ばかりで、舞台となる田舎町の風景もわびしさが募るばかり。こんな何にもないところで暮らしていたら、ますますわびしい気分にさせられそう。久々の竹中直人監督の新作だから、楽しみにしていた。今回山田孝之と斎藤工の3人の共同監督作品である。なのに、映画全体のカラーは統一感がある。3人の志向が似ているからなのか。それともたまたまなのか。原作のイメージを忠実に再現したからなのか。原作マンガを読んでいないからそこのところはよくわからないけど、意味があるのかないのかすら、よくはわからないけど、豪華な配役陣がとてもさりげなくこの不思議な映画の中にぴたっと納まってへんに自己主張することもなく、作品世界の点景になっているのが凄い。ピエール瀧なんて、あんな役なのに、というか、あんな役だからなのか、実にさりげなく、ドキュメンタリーのようにあの役を演じている。竹中直人らしい映画で『無能の人』を思い出す。つげ義春だから仕方ないけど、あれも実にわびしい映画だった。石を売るなんていうバカバカしい仕事をする売れない漫画家の話で、不条理なのだけど、もちろん、そんなことをいいたいわけではなくて、つげ作品の描く心情を実に見事に捉えていた傑作として記憶に残る。これはあのタッチだ。
個人的には松田龍平のエピソードが好きだ。アパートを出てあてもなく西を目指す。おんぼろ自転車に寝袋だけを持って旅する。もう帰らないつもりにしてはあまりの軽装で、どういう気持ちか、わからないけど、彼の茫洋とした表情が(いつも通りなのだけど)興味深い。先の読めないこの映画全体を象徴する。