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映画・演劇のレビュー

朝倉かすみ『感応連鎖』

2010-05-23 15:49:51 | その他
 惜しいなぁ、と思う。確かにかなりおもしろいのだ。最初のところなんか、この話がいったいどこに行きつくのか、その成り行きが気になる。どう転がっていくのか、想像もつかないからワクワクした。しかし、第2章に入って主人公が変わってしまった時、なんだかばかされた気分になる。ええっ、そんなのありか、と思う。でも、きっともう一度最後には節子に戻ってくるはずだから、と信じて先を読み進めた。なのに、もう節子には帰らない。なんだか騙された気分だ。

 4話からなる連作スタイルで、4人の女たちの話として、終わってしまう。ということは、帯にあった「体重100キロの16歳が『夢の娘』になるまで」の話という文章は半分ん嘘ではないか。確かに第4話のなかで、節子が痩せたということは語られるが、それってただの後日談でしかない。そこにあったはずのドラマは描かれてないではないか。

 ここに出てくる4人の女たちは、それぞれとんでもないコンプレックスを抱えている。100キロの肥満体の節子はともかくとして、不幸をイメージしなくては生きれない初美さんとか、他人の心の中が見えてしまう絵里香と、自分が美少女であることを自覚し、それをさらに完璧に極めなくては気が済まない由季子という他の3人のエピソードは節子の話とはとても対等に語られるものではない。話は見た目のアブノーマルからノーマルへの移行という印象とは裏腹に、内面ではどんどん歪で醜いものとなる。人間の中のとても厭らしいものをぽんとさりげなく提示する。4つの話は絡み合いながら、16歳前後の高校1年の日々を中心にして、その時間から、一気に10年後へとつながっていく。

 とてもおもしろいのだが、あまりに作られ過ぎていて後半嘘くさくなる。最初にも書いたが、節子の話にちゃんと帰ってきたならよかった。第5章として再び節子の話に収斂していくことで、全体のバランスは保てられたはずだ。節子とあの母親の対決が見たかった。

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