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映画・演劇のレビュー

『チア・ダン』

2017-03-18 04:08:47 | 映画
昨年の河合勇人監督の『俺物語』は極端な人間を描くコメディなのに、とてもリアルで感動的な作品だった。あり得ないことがありえる。それが映画の魅力なら、あの映画はそれをコメディタッチで見せながら、リアルな青春ドラマとして立ち上げることに成功した。もちろん、そこに貢献したのは鈴木亮平である。あの映画は彼という稀有の存在があったからこそ可能だったのである。30くらいの男が高校1年生を演じるという暴挙を実現したのは、彼のデニーロアプローチがあったからだ。もちろん、それは役作りの前提でしかないけど、彼は見た目から入り、散々笑わせながら、10代の恋心という切ない想いを体現した。



だから、僕は今回もまるで心配はしていない。河合監督はこの素材で、ちゃんと納得のいく作品に仕上げる。しかも、広瀬すずにとっては、昨年の傑作『ちはやふる』の2番煎じではなく、新しいアプローチとして(同じパターンのはずなのに!)記憶の残る作品になる、はずだった。



だが、映画を見ながら、なんだか、これはまずいぞ、と思うことになる。今回もまたコメディタッチであることは想定の範囲内だった。福井弁もとてもキュートで、可愛い。だけど、弾けたタッチが徐々にシリアスに転じていく移行におけるバランス感覚が悪い。すんなりと流れないのだ。ぎこちなさがどこまでも残り切れ味が悪い。冗談のような全米制覇が現実となっていく段階での怖さが描き切れないから、リアリティを感じさせないのは致命的だ。実話であるはずなのに、まるでふざけているようにしか見えない。こんなことで可能な全米制覇ってなんだ? と思わせてしまうのはまずい。彼女たちの努力が簡単に報われすぎる。もちろん、そこにもっと大きな試練を用意しなさい、というのではない。この子たちなら大丈夫、と思わせるだけのリアルが欲しいのだ。



冗談のような描写からスタートして、最後まで冗談では、ただのおふざけでしかない。ロサンゼルスに行ってから、決勝での彼女たちの演技は誰もが納得のいく凄さで見せるべきで、そのシーンはクライマックスにならなくては嘘だろう。なのに、そこを細切れに見せるなんて論外だ。感動はちゃんとごまかすことなく、全米制覇を感じさせるダンスを見せつけるところにしかない。『蜜蜂と遠雷』と並行して見たから余計にこの映画のごまかしが気になった。
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