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映画・演劇のレビュー

神戸遥真『笹森くんのスカート』

2022-08-15 07:55:53 | その他

『恋ポテ』シリーズの神戸遥真がこういう青春小説を書いたというのは驚きだ。甘いだけの作品ではなく、明確なテーマの下で、でも、彼の良さを存分に生かした作品を作った。これは高校1年生、5人の男女を描く短編連作スタイルの長編だ。

きっかけは2学期の始業式。笹森くんがスカートをはいて登校してきたこと。ジェンダーフリーの制服導入で問題はないはずなのだけど、男の子のスカートという初めてのことにクラスメートは戸惑う。そんな彼の周囲にいる4人を主人公にしたお話が順次描かれていく。彼らはそれぞれ彼らなりの切実な問題を抱えている。笹森を視野に入れながら描かれるそんな4つのエピソード。

篠原智也は極度の汗かき。自分の汗のにおいも気になる。みんなに不快感を与えているのではないかと気にする。西原文乃は女の子たちの噂話にかかわりたくないから、徒党を組まないでいつもひとりぼっちを貫く孤高の人。でも、それが周囲の女子たちからは反感を買う。細野未羽はぽっちゃり体型。というか、デブ。でも、物怖じせずに積極的に好きな子のアタックして撃沈する。遠山一花は目立ちたくない。かわいいから男の子たちから言い寄られるのが怖い。わざとダサい眼鏡をかけて地味女子を演出している。そんな4人と笹森くんとのつかず離れずのお話が綴られていく。

最後の5話目の主人公はもちろん笹森宏。なぜ、彼はスカートを履いたのか。女装癖があるとか、性的マイノリティーであるとか、勝手な憶測は飛び交うが彼は動じない。というか、ただ、はきたかっただけ。涼しいし。校則違反でもないし。でも、ほんとうは、、、という理由もさりげなく描かれる。

この5つのお話はラストの文化祭での笹森たちの体育館ステージのバンド演奏へと収斂されていく。実にさりげなく、うまい幕切れだ。必要以上の説明はしない。でも、ちゃんと伝わる。こういう小説を子供たちに読ませてあげたいと思った。小学5,6年から高校生くらいまでがターゲットか。でも、もちろん大人が読んでも納得させられる。

同じ教室で過ごし、でも、別々の想いを抱き、高校生活を過ごす。ニアミスや急接近。文化祭までの1か月ほどの時間の中で彼らの想いが交錯する。語り手となる5人以外のキャラクターで、笹森、文乃とバンドを組む野々宮が素敵だ。こういう子が友達にいれば幸せな高校生活が送れるだろう。それから勘違いな正義漢、倉内さん。彼女は自分の正しさしか見えない少し残念な女の子だ。でも悪い子ではない。そんな周囲の仲間たちとの交流を通して、彼らが少しだけ前進していく時間が丁寧に描かれ,好感が持てる。神戸遥真の新境地であり、きっとこれはここまでの代表作だろう。


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