ジョン・ウーが初心に戻って派手なアクション映画を作る。もうこんなにもワクワクドキドキすることはない。しかも、あの『追捕』である。お話を中国に置き換えたのではなく、大阪を舞台にしたというのも、期待をそそられた。
だけど、映画はスカスカのお話と、異常な日本が描かれるとんでもない映画で、ついていけない駄作。もともとのお話自体があり得ない。70年代から80年代にかけて一世を風靡した西村寿行のアクション・ミステリーの映画化というよりも、当時、中国でみんなが見た高倉健主演『君よ、憤怒の河を渉れ』の再映画化である。あの作品は、大傑作『新幹線大爆破』を作った直後の佐藤純彌が、再び健さんと組んで壮大なアクション大作に挑んでずっこけした映画である。当時見た時のショックは凄まじいものがあった。『新幹線大爆破』の感動再び、と意気込んで劇場に行った高校生の僕はあまりのことに眩暈がした。こんなにもバカバカしい映画をどうして佐藤+健さんのコンビが作るのか、とガッカリした。あの日の悪夢再び、である。
お話自体が大概なのだが、それをジョン・ウーはまるで何も考えず、ただ、派手なアクションさえ見せたならいい、というノリで問答無用の展開をする。台本なんてないのではないか。昔の香港映画は台本無しで撮っていたが、その頃と同じノリなのだ。
だいたい台本がつまらない映画から傑作は生まれない。初めてジョン・ウーを見た時もこれと同じような感想を持った。試写会で評判になる前の『男たちの挽歌』を見た時だ。あの時、僕はつまらん、と思った。アクションがどれだけ凄くても話がありきたりのギャングもので、新鮮味はない。それどころか、ただのパターンに終始して古くさい映画でしかないと思った。その後、『男たちの挽歌Ⅱ』を見た時、バカな話を受け入れたなら、アクション凄さに感動できたし、『狼』はストーリーが上手かったから、目を見張らされた。あの頃、どんどん進化していくジョン・ウーから目が離せなくなった。だが、アメリカに渡って何本かアクションの傑作を作った後、『レッドクリフ』2部作で頂点を極めたところで、キャリアは終わった。
こんな悲惨な映画はない。今回たまたまこんなことになっただけなのかもしれないけど、期待していただけにショックは大きい。往年のアクションシーンに戻ってきたら、こんなにもダメになっていたでは、やりきれない。悲惨の極みのような映画は、ジョン・ウーの老化なのか、それとも企画のせいなのか、よくわからないけど、最近映画を見てここまでの悪夢はない。