中村義洋監督がこんな時代劇に挑戦した。最近ホラーもしたし、いろんなチャレンジを果敢にこなす。しかも、これはコメディではない。阿部サダヲ主演で、このタイトルと内容だから、てっきりコメディだと、みんなも期待したはずだ。だが、これはハートフルな映画だけど、断じてコメディではなく、シリアスなのだ。笑えるシーンを期待したむきには、少々酷な話かもしれないけど、でも、映画の出来がいいし、ほっこりさせられる話なので、満足したのではないか。2時間9分の大作で、地味な話なのに、しかもあまり動きのない芝居ばかりで、(座った芝居が多い)なかなか話も進展しないのに、でも、スクリーンからは目が離せない。
見に来た人たちは、きっと『超高速! 参勤交代』や『謝罪の王様』の線を期待したはず。(僕もそうだった)だが、まさかの展開を見せる。寂れた宿場町を復活させるために貧乏な町の衆が知恵を絞った銭バトル。お上はまるで、下々のことなんか考えないのはいつの時代も同じだけど、彼らはへこたれないで、自分の得になんてまるでならないことに、全力を傾ける。得どころか損しかない。みんなのためのお金を使うのだから。お上を相手にして、貧乏人たちがお金を貸す。そんなこと可能なのか、と思うけど、なんだか納得させられる。殿さまのお金を貸してその利息で寂れるばかりの宿場を助けようとする。無欲の阿部サダヲを筆頭にした面々の交わす会話劇。巻き込まれ型のサブ主人公を演じた瑛太がいい。迷惑そうにしながらも、最後までみんなを見守る。阿部サダヲが途中でリタイアするから、そこではちゃんと主役を演じるのだ。
実話だというのだが、信じ難い話だ。実話であろうと、フィクションであろうと、どちらでもいい。実に面白い。これだけの長さなのに、派手な立ち回りも笑わせるようなシーンもないのに、最後までダレさせないのもいい。ずっと彼らを見守りたくなる。なんとかしてうまくいってね、と温かく見守る。それだけの映画。それだけで満足させられるなんて、なんて素敵な映画だろう。みんないい人たちばかり。ほんとに、いい話。美談だ。ナレーションを担当した中村組の常連、濱田岳もいい。彼の声がこの映画にはぴったりだった。そんなこんなの細やかな心配りがこの映画の成功を支えた。