パターンになりつつある短編と長編の2本立てというスタイルが今回も踏襲される。短編のレベルの高さは時に長編を凌ぐほどで、とてもお得な感じ。小さな作品が必ずしも小さな出来事を描くわけではなく、大きな作品が(といっても70分程度なのだが)大きなことを描くというわけでもない。南出さんはひとつのスケッチから、人と人とが向き合い、本気で何かを目指していく姿をみつめていくと、それがこの世界の行く末すら左右していく、というところにまで行きつくことをさりげなく見せてくれる。大きなテーマと真正面から向き合い、無理せず自分たちの置かれた現実の一コマとして提示する。その姿勢がすてきだ。結果的に社会問題を切り取ることになる。それは今回の2本に共通する。
地方の小さな営業所の所長と本部の幹部。営業所の閉鎖を巡る彼らのやりとりを描く短編『晴れ間』は2人芝居。長編の新作『あたらしいニュース』も最初は2人芝居からスタートする。どちらも主人公を山本祐也が演じる。キャラクターが微妙に違う役をさりげなく演じ分ける。とくに後者の凄く嫌なやつがすばらしい。あんなに嫌な奴なのに、彼から目が離せない。そんな奴のはずなのに、彼の言動にひきこまれていく。彼の向かい側に立つ上司は事なかれ主義のつまらないやつ。なんでも頭さえ下げておけばいいと思っているようで、悪い奴ではないけれど、何も考えてないし、すべてをいい加減なところで納められたらいいと思っている。そんなふたりのやり取りを通して、つまらないネット上の記事を巡るいざこざがどんどん大きくなっていく。
自衛隊の婚活を揶揄するような記事。悪気はないけど、面白おかしく書いた。しゃれで本物の9条を載せた。それにクレームをつけてきた元自衛隊で今はサポートスタッフをしている男。そのクレームに対して毅然とした態度を取る。自分の書いた記事を守るためではなく、つまらないクレームに屈したくはないから。そんな彼のかたくなな態度が事態をどんどんこじらせていくことになる。そして憲法改正を巡る国民投票の結果にまで話が及んでいく。憲法が改正されるのは、この小さな記事のせいではないのだけれど、国民の無関心はこの国を変えてしまうかもしれないという警鐘にすらなる。