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映画・演劇のレビュー

アケオーラコミンチャ『きのない月』

2022-11-09 15:01:56 | 演劇

昨年見た公演が素晴らしかったので、今回も楽しみにしていた。前作は1970年代を舞台にした少女漫画家ふたりのお話。今回もふたりの女がまるで漫才でもしているように延々としゃべくりまくるところからスタートする。このまま最後までどうでもいいようなことをしゃべるだけで終わるのではないか、と期待させる。だが、さすがにそれはない。平成さんと昭和さんがお互いの歴史の違いを語り合うなんていうお話。

2人の女たち。ひとりはスッチー(CAではなくスチュワーデス!)。彼女が旅へといざなう。ここは東京、池袋、1969年(89年か)。とあるアパートの一室だ。掛け合い漫才のように軽快に言葉の応酬が始まる。とてもテンポがよく笑える。でもそれが何なのか、何が始まるのかはわからない。でも、彼女たちの会話に引き込まれる。2人は昭和という時代の女と平成という時代の女らしい。それぞれ自分の記憶にある時間の価値観を持って自分たちの考えを披露していく。丁々発止の絶妙な対話に引き込まれる。このまま1時間くらいの二人芝居を見せられるのか、と思うがそこはあくまでもかなり長めの導入にすぎない。(ずっと続きそうに思えたけど)それくらい長いし、でも面白過ぎて、これだけで1本の芝居として成り立つ。

前作『いいからはやく終わらせて』も女ふたりによる会話劇で70年代初めを舞台にした狭いアパートの一室で少女漫画を描く彼女たちの時間を丁寧に描いた作品だったから、今回はその漫才バージョンかと思ったのだが、そうではなかった。この芝居は2人が、この先の未来(令和という時代)に向けて女性たちがどういう生き方をすべきなのかを、過去に遡りそこを生きた女たちとのコラボによって考察していくといういささか観念的な内容なのだ。作、演出、大前田一の一貫性のあるテーマとそこへのアプローチには圧倒される。

まずは大正時代へ向かう。ここから本題に突入。そこで自由に生きる女伊藤野枝と出会う。さらには彼女との対比として別の価値観を持つ平塚らいてうが登場。ふたりの生きざまを体感していく。さらには、江戸時代。恋に生きた女、八百屋お七の生きざまを見つめる。こんな感じでなんだかわけのわからない展開で、でもそこで描かれる二人芝居を堪能する。

たった4人の女たちが(2人ではなかった!)時空を超えて演じる2時間以上に及ぶ作品は一見笑えるだけのコメディスタイルを堅持しながらも歴史上の人物を登場させ歴史劇を展開するのではなく同じ女であるふたりの目を通して令和を生きる女性たちに向けて、その生き方を問う壮大なドラマを提示してくれる。それを平均年齢22歳(チラシによる)の女の子たちが熱演するのだ。久々に荒唐無稽でまさに小劇場演劇らしい芝居を見た気がする。

 

 

 


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