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映画・演劇のレビュー

2008年演劇ベスト30

2008-12-30 10:42:09 | 演劇
 1 劇団太陽族  『往くも還るも』
 2 ニュートラル  『宇宙を隠し持っている』
 3 青年団     『冒険王』
 4 桃園会     『電波猿の夜』
 5 Ugly duckling  『100年トランク』
 6 クロムモリブデン『血が出て幸せ』
 7 遊劇体      『山吹』
 8 劇団May     『チャンソ』
 9 くじら企画    『山の声』
10 五反田団    『すてるたび』

11~20 クロムモリブデン     『テキサス芝刈機』
     日英戯曲交流プロジェクト 『いつか、すべて消えてなくなる』
     桃園会           『お顔』
     いちびり一家       『石のこども』
     A級MissingLink     『裏山の犬にでも喰われろ!』
     突劇金魚         『しまうまの毛』
     ジャブジャブサーキット  『死立探偵』
     テラヤマ博08      『レミング』
     妄想プロデュース     『風の左手』
     France_pan        『家族っぽい時間』

21~30
     突劇金魚         『王様ニキビ』
     パンと魚の奇跡      『パンと魚の奇跡』
     アイホール自主企画    『パーマネント・ウェイ』
     極東退屈道場       『ネクスト・バッターズ・サークル』
     オリゴ党          『カーゴ・カルト』
     燐光群           『戦争と市民』
     劇団太陽族        『劇変』
     青年団           『火宅か修羅か』
     焚火の事務所      『よーし、ぼくはがんばるぞ』
     浪花グランドロマン    『風の亡骸』
     
 今年見た芝居(ダンス含む)は164本。まぁ、例年並みの本数だろう。僕としてはこのくらいが限界だ。見たい芝居はたくさんあるが時間がないし、体力もない。週末は仕事が忙しいし、ウィークデーは仕事が遅くまであるので、なかなか芝居の時間に間にあわない。まぁ、誰もが同じような条件の中、時間をやりくりしてるのだから、しかたがないことだ。それでも、ほんとは〈よく見たものだ〉と思っている。正直言うと。

 例年通り、1~10位まで選んでみたが、順位には深い意味はない。今日の気分でつけた。30本の選出についても、絶対これでなくてはならないというわけではない。選外にすてきな作品がたくさんある。1団体2作品までにした。出来るだけたくさんの劇団の名前を並べたいからだ。(ほんとなら1団体1作品にしたらいいのだが、それはちょっと厳しい。)各作品の詳細はそれぞれの感想を見て欲しい。

 太陽族の『往くも還るも』はロンダート・ナビにも書いたのだが、急に廃刊になってしまって原稿がお釈迦になった。もったいないので、ここに載せておく。もちろん見た後のメモとはかなりタッチが違うのは、一応、雑誌用とこのブログメモとの違いゆえである。

 劇団 太陽族『往くも還るも』(ロンダートナビ用原稿)

 この作品はおそらく今年のベストワンであろう。本年屈指の傑作である。作、演出の岩崎正裕さんは、今までも、そしてこれからも、常に関西小劇場演劇界のトップ・ランナーだが、彼の凄さは時代を冷静に見据えつつもそれをありきたりなメッセージにすることなく、本気で今と格闘することで、見えてくるものを作品化していくところにある。

 その姿勢は地下鉄サリン事件を描いた代表作『ここからは遠い国』から、昨年の北朝鮮出兵を描いた『越境する蝸牛』まで一貫している。何を描いても、そこに立ち止まるのではなく、しっかり一歩ずつ前進していく。天安門事件を描いた『憩いの果実』の頃からそういう姿勢が確立され、全く変わらない。

 神戸の新開地にある古ぼけた雑居ビルの屋上を舞台にして、バブルが弾けたことで、会社が倒産し、博多から故郷である神戸に帰ってきた中年男を主人公にして、彼が見た幻影が描かれる。1994年という時代設定から、さらに30年以上前の労働争議を中心に据えて、主人公の父親探しが過去と今を往還しながら描かれていく。生まれる以前に死んでしまった父の若かりし日、組合活動の指導者として会社と向き合う彼の時代に突然入り込んでしまい、自分より10歳も若い父が理想と現実の中で死んでいく姿を目撃していく。芝居は過去を語るように見えて、実際はそうではない。バブル崩壊後の時代と、高度成長の時代を対比させながら、僕たちがここからどこに向かうのかを見せる。

 そして、94年の夏からスタートした物語が翌95年冬に突入したとき、そこまで来て初めて気付く。僕たちは(僕だけかも知れないが)何を見ていたのだろうか。芝居のラストには、旅立つ主人公夫婦と仲間たちの別れの風景が静かに描かれる。95年1月17日、未明、何も起こらないこの夜明け前のシーンは衝撃的である。その事実がこの芝居のテーマではない。だが、今から10数年前の寂れ行く新開地の片隅で起きたこのドラマは確かにこの今という時代を生きる我々を照射する。

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