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映画・演劇のレビュー

『江ノ島プリズム』

2013-09-08 20:38:07 | 映画
 『時をかける少女』の少年版。こういうジュブナイルを今の時代によみがえらせて見せてくれるのがうれしい。上映時間が90分というのもなんだか懐かしい。今の映画はすぐに引きのばしてしまうけど、昔の映画はちゃんと90分で終わるように作られてあった。(2本立上映だったこともあるけど)無意味に長くする傾向に反発するように、これはドンピシャ90分なのだ。もっと見たいけど、と思わせるくらいのところで止める。なんだか心憎い。

 高校2年生の冬。12月19日。冬休み直前の日が舞台になる。その翌日、友人が死ぬ。彼らは仲良し3人組であった。男2人と女ひとり。恋心は心の中に秘めて3人の友情を大事にする。こういう設定はある種の定番だが、それをちゃんと作ると、とても素敵なドラマになる。そしてこの映画はそれを成し遂げる。主人公の修太を福士蒼汰が演じる。親友の朔は野村周平。そしてミチルは本田翼。この3人がとてもいい。

 3人は幼なじみで子供の頃から高校まで、ずっと一緒。だが、その日、運命の2010年12月20日。ミチルは2人に何も言わずにロンドンに留学し、朔は心臓発作で死ぬ。手紙でミチルの留学を知り、彼女を見送りに行こうとして、走ったことが原因だ。彼は子供の頃から心臓が悪くて激しい運動は禁じられていた。あれから2年。3回忌の法事に出かける。19歳の冬。そこで朔の部屋でタイムトラベルの時計というおもちゃを見つける。だが、それによって修太は2年前のあの日の前日に戻ってしまう。

 この映画は面白いのはただのタイムトラベルものではなく、まずこれが青春映画であることだ。主人公の修太は今の彼のまま2年前に行く。だが、周囲の人間は彼を別に不思議には思わない。2歳くらいの年の差はわからない、というのがおもしろい。17歳と19歳ではかなり成長していて別人ではないか、と思いそうだが、本質も外見も実はあまり変わらないままなのだ。

 だから違和感なく、高校生に戻れる。夢のような話だ。でも、それは映画でなら可能だ。この映画はそういうささやかな夢物語を実現する。誰しも、こんな大切な時間を持っていることだろう。出来ることならあの日に戻りたい。やり直したいのではなく、ほんの少し、感傷浸りたい。この映画は友人の死をなかったことにするという重大な使命があるけど、現実なら、ほんのちょっとした感傷でいい。

 修太はそこで死んでしまう朔の運命を変えようとする。映画だからこういう展開になる。さらに困難が彼を襲う。タイムトラベルのは、過去を変えたら、自分の存在が改変に関わった人たちの記憶から消えてしまうというルールがあるらしい。それでも、彼は朔に生きていて欲しいから、彼らのささやかな、でも、一番重要な歴史を変える。なんとも切ないドラマとなる。

 これは別に特別なお話ではない。タイムトラベル物のある種のパターンからは大きく逸脱するほどではない。この映画が見せたかったのはそういうSF映画としての側面ではない。誰もが感じた青春の甘酸っぱい想いだ。それを描くことこそがこの映画の目的である。SF仕立てはそのための仕掛けでしかない。思い出を作るための花火のシーンが素敵だ。たった1日に凝縮して、17歳の記憶をこの映画は、映画の中にとどめようとする。かけがえのない友だちを大切にしたいというただそれだけの純粋な想いがここには描かれる。また、ここに1本、みずみずしい青春映画の傑作の誕生だ。
 


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