習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『やわらかい手』

2008-12-11 20:35:56 | 映画
 この特異な素材を下品にすることなく、コメディータッチで処理しながら、ひとりの女の自立の物語として爽やかに見せてしまったのには驚かされる。

 なんとかしてまとまったお金を手に入れたくて、風俗で働くことのなる女、なんて言えばなんだかありきたりなのだが、その女性がかなりお年を召した中年女(どちらかと言えば、初老と言ったほうがいいくらいなのだ)で、とても体を売ることは出来ない。なんと彼女がする仕事とは、手を使い男たちをイカセテしまうこと。柔らかい手とはそんな彼女の手のことだ。あまりに気持ちがいいから彼女のブースにはいつも長蛇の列が出来る。

 普通の主婦として生きてきて、そんな彼女が今まで考えもしなかった仕事(というか、この女性は今まで働いたことすらない!)に就いて、驚きと後ろめたさの中、だんだんこの仕事に嵌っていく。孫の手術費用を捻出するため偶然からこの仕事を始めた。高給が簡単に手に入るが、ほんとにこれでいいのか、と思う。そんな中、徐々に彼女はここでの毎日がただの日常となる。何も知らない彼女の息子は、母親からのお金を有難く受け取る。(普通ならおかしいと思うはずだが、彼は敢えて聞かない)

 だが、ある日彼は知ってしまう。まぁ、ショックだわな。いくら息子(孫)のためとはいえ、自分の母親がこんな仕事をしていたなんて、受け入れ難い。彼は暴れる。「そんなお金なんかいらない」と突っ返そうとする。だが、彼の妻は「お母さんの好意を受け入れなくてはならない」と言う。(確かそんな感じだった。女はリアリストだが、男はロマンチストだ。)

 映画はこんなふうな展開を見せる。そして、そこから彼女が、孫の病気のためだけではなく、自分が何のために生きるのか、ということを考え出す。

 とてもあたりまえのことが描かれる。至極全うである。そのあまりのひねりのなさに僕はちょっとついていけなくなった。あっけなさ過ぎる。とてもよく出来た映画だとは思うが、この映画が提示するアイデアから想像できる範囲をまるで逸脱しない。こんな特別な手を持つ女なのに、そのことから映画は作品世界を広げていかないのは腑に落ちない。これではただの人情ものでしかないではないか。

 意外な話が、気が付けばなんだかありきたりになるというのでは納得いかない。しかも、この映画が高い評価を受けたのも、よくわからない。風俗店の主人との恋の話に落ち着いていくのも「えっ、」って感じだ。そんなことでいいの?

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