「ノルウェイの森」(監督 トラン・アン・ユン)

                

 映画「ノルウェイの森」を観てきました。

 日本映画を観たいと思っていました。周りの映画ファンの話しを聞いていると最近は日本映画の質がよいこと、洋画の字幕を追うのが面倒になってきたこともあります。どこかでまず一作と以前から考えていたところ、この話題作が製作されていることを知りました。フランス語での製作を村上春樹が許可したように読んだ記憶がありましたが日本語でした。それと何といっても監督が「青いパパイヤの香り」、「シクロ」のトラン・アン・ユンです。映像美が想像できるようでこれは観なきゃと気合が入りました。
 それにしてもアニメでない実写の日本映画を劇場で観るのは久しぶりというより前回が何だったか。初めてではないと思うのですが・・・うーん、思い出せません。そのくらいの間隔です。

 いくつか眺めた新聞評などではあまり評価が芳しくなく(妻にノルウェイの森を観てくると話すとええ?評判よくないじゃないと言われました)、原作が原作なので映像化は難しかったのか。とはいえトラン・アン・ユンですから独特の世界観がある筈で自分の目で確かめたい。
 公開二日目、日曜日の1回目ですが、最近は事前にネット予約できるので本当に便利です。昔なら勝手な混雑予想で3週目くらいに出掛けようと考えていると、結局、その頃には関心が薄れてしまい・・・。比較的空いているので好きな新高島の109シネマズです。


(以下は映画と原作の詳細情報が含まれるので観賞予定の方はご注意ください。)


 映像は、導入こそ過去の経緯の紹介なのでバタバタ進みますが、本編が始まると静けさ、沈黙の中、顔のアップや動作だけで語るようなシーンが続き、息詰まるような緊張を強いられます。ホールでクラシック音楽の演奏が始まる直前に空間が静まり返るような雰囲気です。
 実は今朝起きたのが早く寝不足気味で、そうでなくても途中で寝ることが多く、寝るだろうなあと思っていたのですが、神経がピンと張りつめて最後まで眠気とは無縁。そういう意味では、この映画ほど目を凝らして、耳を澄まして観賞したのは初めてかもしれません。

 精神の不安定さが進行した直子が京都の山奥にある療養所(阿美寮)で静養、治療するのですが、この山というか草原の緑が本当に美しいです。これはどこで撮影したんでしょうか。E・ブロンテの「嵐が丘」でも撮影できそうなイングランドの田舎風の景観です。それでも日本なんだろうと思います。寒さの厳しい冬のシーンではやはり日本だなあと思わせる景色になります。

 随分昔に読んだ原作のイメージでは、どちらかというと暑い時期、少なくとも冬のイメージはありませんでしたが、映画では冬そして雪のシーンが後半多く登場します。心を病む直子には冬の風が厳しく吹きつけて、普通の世界に住む緑には雪が降っても毛糸の帽子と手袋があって温かい。

 会話と映像で原作の世界を表現していきます。映像はとても美しくて惹きつけられますが、原作を読んでいない人にこの物語をどこまで理解できるんだろうという思いが頭の片隅にありました。
 僕と直子、どうして直子に関わるのか。友情だったか恋愛意識なのか。原作にどう表現されていたのかは覚えていません。たしか、直子にはやるせない暗さ、重さがあった。トーマス・マンの「魔の山」を読みながら、非常に純粋な精神世界に入っていく。
 映画のメッセージがあるとすれば、純粋で不器用な人間は命を絶ち、世の中の何やかんやに順応して変われる自分は生き続けるといったことでしょうか。

 献身して心から愛した直子が自分のことを全く愛していなかったことを認識する悲しみ、原作が持つ切なさが映像で表現されたか。表面的な嫌いはあります。おそらくこの映画を評価しない人がいるのはそういう点への不満かなという気がします。それじゃあ、直子の心の世界をメインに据えて映像化すべきだったのか。
 私は原作と映画は別物と思っていて、原作を忠実に再現する映画は好きではありません。言葉が多すぎる映画は、まず失敗作です。言葉(セリフ)ではなく映像で語る、出演者が表現する。
 映像・出演者が魅せる映画ですが、トラン・アン・ユンによる日本の純文学の映像化が完全に成功したとはいえないと思います。それでも私は十分に楽しめました。時間を忘れる2時間30分なんて滅多に経験できません。

 ワタナベの松山ケンイチは良かったです。頼りないけど純粋な精一杯さが伝わりました。デトロイトでのコミカルな役、こういう純文学もこなせる、貴重な役者です。
 直子は難しいです。本質的に原作の直子とは違うタイプに見えましたがバベルに引き続き菊地凛子は好演しました。今、日本でこういうシリアスな役は菊地凛子にしか出来ないのではないでしょうか。一般の日本の女優は金銭面で一番おいしいCMの仕事が減るので、脱いだり濡れ場のある役を敬遠すると読みました。菊地凜子はいい映画のいい役が欲しいという根性があります。
 レイコさんも原作のイメージと映画での描き方とに違和感を覚えました。直子が死んだ後の二人のシーン、記憶では原作は「しようか」「はい」「よかった?」「すごく」と印象的ないいシーンだったのですが、映画では「やるべきだと思うの」「やるんですか」とえらく否定的な意味の分からないシーンになっていました。霧島れいかは初めて見ました。

 この映画の一番の驚きは緑かもしれません。原作では無色の女友達の印象ですが、水原希子がコケティッシュな演技で色を付けて命を吹き込みました。どちらがいいかは別として、緑ってこういう人だったっけ、この若手女優は存在感があるなと驚き、印象的です。
 それと原作での記述・存在を全く覚えていなかった永沢の玉山鉄二とハツミの初音映莉子も昭和の匂いのする迫真の演技でよかったです。

 通常、誰が演じたのかあまり興味はないのですが、今回、レイコさん、緑、永沢、ハツミをやったのは誰だろうと関心が湧きました。

 村上春樹の最近の小説は、私には難解で理解できません。読者としてロシア人やアメリカ人を意識したような無国籍なタッチに興味が持続しなくなります。この「ノルウェイの森」は著者がまだ日本人であることを感じて親しみを覚える作品で、最も好きな小説の一つです。
 この映画はベトナム系フランス人監督、外国資本の入った映画ですが、始めから最後まで日本人を感じる、日本の映画です。中途半端に無国籍ではないところがよかったと思います。もう少し深く描けたのではないかというないものねだりはありますが、秀作と評価できると思います。

 ラストシーンで「今どこにいるの?」という電話での緑の問いに「僕は今、どこにいるんだろう」と自問します。魔の山ともシンクロして原作ではずっしりと余韻の残る終わり方だったように覚えていますが、映画では比較的さっぱりと閉じられて、ビートルズの歌をBGMにクレジットが流れ始めます。

 あれ?さっぱり終わったなあ、この映画は一体何なんだろうとそこから考え始めた訳ですが、いろいろと思いを巡らせる楽しみがずっと続く、それがいい映画だった証拠なのかもしれません。



                

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「蓬莱閣」(横浜中華街)

          

 映画の後は以前から一度食べたいと思っていた「蓬莱閣」のギョウザを食べるために中華街に向かいました。新高島からなら3駅、このコースは魅力です。

 「蓬莱閣」のギョウザは池波正太郎(といっても最近の人にはもう分からないでしょうね)の好んだ料理として本に書かれているようですが、ギョウザは個人の好み差が大きく、誰かが好き、絶賛と書かれていても好みが合わないことが結構多いです。

 そういう訳で長らくいつかは行こう候補だったのですが、サンラータン麺という第二の名物を知り、出向きました。

 まずギョウザです。大きめのギョウザで4個680円と高めです。出てきたギョウザはパリッとしていて見た目はすごく旨そうです。口にすると皮はもちっとしています。味はストレートな風味の皮に肉中心の具が入っています。ジューシーな肉汁が溢れて独特の香りがあります。これは美味しい。個人的にはもう少し小さくて、具は野菜中心の方が好みですがこれはこれで美味しいです。
 他の店で食べられないギョウザではないですが、中華街の中ではかなり美味しい方です。



          

 サンラータン麺です。酢と山椒でしょうか、むせるような酸味、香辛料がスパイシーで美味しいです。ただ、小皿に一皿、お好みでお替りくらいで十分で一人で一杯いただくと口に酸味が強く残って、ちょっと量が多いかなという感想です。ただ、これも中華街ではかなりましな方だと思います。

 満足できます。美味しい方だと思います。中華街にいて同行者がどこかで食べたいと言った時には候補になる店と料理です。





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