田部京子「ブラームス 後期ピアノ作品集」

            

 田部京子の新作、ブラームスの後期ピアノ作品集です。リリックなピアノの音色、歌があり説得力のある演奏で女性ではピリスと並んで好きなピアニストです。シューベルトに長らく取り組んできましたが、力強いタッチも魅力なので、ブラームスのピアノ協奏曲をやってほしいと思っていました。コンチェルトではありませんがようやくブラームスの登場です。

 注目というか聴きどころは、どうしてもグレン・グールドの名作「間奏曲集」で取り上げられた曲をどう奏でるかになってしまいます。
 グールドは間奏曲10曲を好みで並べましたが、このディスクは「6つのピアノ小品 作品118」、「3つの間奏曲 作品117」、「4つのピアノ小品 作品119」、「主題と変奏 作品18」とクラシック風に纏められています。全14曲中間奏曲は10曲、グールドの選曲とは7曲がダブっています。

 1曲目は作品118-1なのですが、ピアノの強打音が鳴り響きます。まるでショパンかリストのような華麗さです。グールドの瞑想的な演奏に慣れ親しんでいる耳にはあれ?と違和感を感じてしまいます。
 2曲目の118-2は弱音を生かしたゆったりしたテンポの演奏です。その他、間奏曲ではないバラード、ロマンスも含まれているのでこの作品118はグールド盤とは随分印象が異なります。ピアニスティックで美しい演奏です。気難しいブラームスを感じさせません。

 そして作品117。グールド盤の冒頭3曲、要するに117-1をどう演奏するのかに関心の大半があると言っても過言ではありません。117-1の出来がよくなければ愛聴盤にはなり得ません。

 これまでの6曲とは表情が変わります。静けさ、躊躇、悲しみ、それでも前に進む。昔の日の後悔、老年の諦めは控えめで、若さを感じます。グールドの表現とは異なりますが、これはこれでいいです。私は気に入りました。過去からの装飾にはとらわれない新鮮なタッチながら楽想をきっちり表現するのが田部京子の特徴です。
 
 全般的に田部京子特有のリリックで粒の揃ったピアノに溢れた演奏です。鳴らすところは鳴らして、グレン・グールドの演奏とは別物ですが、これもブラームスの音楽そのものと思えます。グールドは独特の解釈で演奏し一貫性のあるアルバムを作り上げました。田部京子は一曲一曲の楽想を丁寧に描き分けて纏めています。スタイルは違うけれども仕上がりの水準は高くて、いずれも説得力があります。下手をすると暗くて辟易してしまうブラームスを思い入れ深く魅力的に演奏しています。

 今回、田部盤とグールド盤とを何度も繰り返し聴いてみましたが、どちらがいいということはもうなくて、どちらも聴き惚れました。


            


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