数十年間、住む人はおろか手入れをする人もいなかった
この谷間の森で、木々は上へ上へと伸び太い幹は少ない。
ひょろひょろと伸び、上の方で枝を広げている。
大風が年じゅう吹いているから、枝もなべて細い。
ところがその根っこときたら、地上の姿からは想像も
つかないほど深くじょうぶで太いのであった。
間伐した丸太は積み上げて乾かすが、根の処理は
粗大ごみ同然で始末におえない感じである。
ではそれをどうしているか?
カメは火を扱うのも、うまい。
あちこちに根が放置してあるが、考えあってのことだ。
土が雨に流され根がしだいに乾き燃えやすくなるまで2,3年は
かかる。太い部分をあらかじめ割っておき、ほどよい長さに
してから熾きている火へ放り込む。
根は、延々と燃える。
カメは燃え尽きるまで火を監視し、後始末をする。
ていねいである。
辛抱強いのである。
だが、それだけではないところがカメのカメたるゆえんである。
カメは森の生き物や彼女と話しているらしい。
じっとして、一服やりながら、頭上でさえずる鳥や地を這う
ねずみたちの声。カメを避けて先を急ぐ蛇もちょっと止まり
雪解け水が音をたてるせせらぎとともに、生きるものの音を
聴いているのである。
彼女の声はもちろん一番大きく聴こえているらしい。
(森の魔女シマコ女王、しのび足)