(親分は切れ長の美男子である、とうさこだけは信じている、自由だ!)
眼は口ほどにものを言う。
言葉が通じないので眼で話すアイコンタクトが常のことである。
生後50日から120日は手元でかわいがりまくり、それが過ぎたら調教師に
預かってもらった。
なぜならその調教師の飼い犬が主人のアイコンタクトでとてもスマートに
行動するのを見て、その関係に憧れたからである。
落ち着いて言うことを聞いてくれる犬を見たのはそれが初めてだった。
しかしそうカンタンに事はいかない。
調教師のもとから帰ってきたベイビーは横暴で頑固な犬になっていた。
白い金属棒を見せると、とたんに言うことを聞く。
訓練時に使われていたものと同じ色だから。
大型犬が暴れ回ると棒をふりかざすくらいしか、落ち着かせる手段がない。
蹴っ飛ばしたりしても逆襲されるくらいだ。
ベイビーはさすがにわたしを噛んだりしないが、突然吠え出す走り出すを
やめなかった。
これでは調教に行く前よりひどいではないか。
二ヶ月ほどで落ち着いたが、疲れはて、調教師に頼ったことを悔いていた。
調教師は自分の犬には棒を使わないで教えたが、預かった犬には使うと後で
知った。それは「大型犬と主従関係を作るためには力が必要で、あなたは
女性だし雄犬を扱うのは並たいていの力ではない」という説明だった。
わたしは棒を見せるのをやめた。
二ヶ月のあいだにわたしがしたのは、アイコンタクトである。
暴れていても走り回っていても、そのそばでじっとベイビーを見ていた。
少し落ち着くと呼びかけて、しゃがんで待っていた。
すると、どうだろう。
すっと寄ってくると出したコマンド通りに、脇に、前に、と座り伏せる。
それは最初の儀式であった。
わたしはベイビーの眼を見て「何?」と聞くようにした。
何? に応えることがわかってきて、それからはこちらが相手をよく
理解しようと努力する番である。
わたしはベイビーに調教してもらった。
澄んだ眼はよく教えてくれた。
わたしたちは、相手のことをよく知っている。
知っていても、「何?」と今もたずねる。
この方へも、何? とたずねる。
ミルク~とたいていは答えてくるのでちょっとがっかりであるが、
わたしも一時期ハーゲンダッツにハマった事があるわけだし、
水で三倍に薄めたミルクでも、彼女には極上のスイーツだろう。
それでわたしの眼を見てくれるようになったのだから、いいです。
ミルクをペチョペチョやっているシマコの首筋をそっと撫でていると
巣鴨のキャバクラで安物のプレゼントを渡して女の子の肩に手を回している
オッサンの気分で、どうも気恥ずかしい。
キャバクラのオッサンを早く卒業したいと思いつつ、つい撫でてしまう。
シマコは、昨日あたりからちょっと力を入れて触っても嫌がらなくなった。
ミルク効果であることはわかっていても、用心されなくなったことをひたすら
喜び、まるでオッサンの性(さが)と自嘲していてもやめられない。
ベイビーとアイコンタクトを始めた頃を思い出して期待しているから。
庭先で見ているとシマコはカメの後をついてまわるようになった。
親分もカメの言うことをよく聞く。
カメは誰からも好かれる。
カメの波長は気持ちいいので、特に人間以外のものは寄って来やすいが
たまに、ごっつい人間もやってくるので、そこんところがビミョウで
単純にカメはやさしいから、というわけでもないのである。
右にも左にも上にも下にも寄らず、真ん中にいるからなのだろう。
それはつまり無私なのであって、相手には心地よい。
でも自身をそうするのは、言うほどたやすいことではない。
カメは疲れてはいないのだろうか‥とふと思う。
結局のところ、巣鴨のオッサンは見返りを求めている。
心配や気遣いもまた、オッサン並ならしないほうがいい。
右往左往するうさこである。
眼は口ほどにものを言う。
言葉が通じないので眼で話すアイコンタクトが常のことである。
生後50日から120日は手元でかわいがりまくり、それが過ぎたら調教師に
預かってもらった。
なぜならその調教師の飼い犬が主人のアイコンタクトでとてもスマートに
行動するのを見て、その関係に憧れたからである。
落ち着いて言うことを聞いてくれる犬を見たのはそれが初めてだった。
しかしそうカンタンに事はいかない。
調教師のもとから帰ってきたベイビーは横暴で頑固な犬になっていた。
白い金属棒を見せると、とたんに言うことを聞く。
訓練時に使われていたものと同じ色だから。
大型犬が暴れ回ると棒をふりかざすくらいしか、落ち着かせる手段がない。
蹴っ飛ばしたりしても逆襲されるくらいだ。
ベイビーはさすがにわたしを噛んだりしないが、突然吠え出す走り出すを
やめなかった。
これでは調教に行く前よりひどいではないか。
二ヶ月ほどで落ち着いたが、疲れはて、調教師に頼ったことを悔いていた。
調教師は自分の犬には棒を使わないで教えたが、預かった犬には使うと後で
知った。それは「大型犬と主従関係を作るためには力が必要で、あなたは
女性だし雄犬を扱うのは並たいていの力ではない」という説明だった。
わたしは棒を見せるのをやめた。
二ヶ月のあいだにわたしがしたのは、アイコンタクトである。
暴れていても走り回っていても、そのそばでじっとベイビーを見ていた。
少し落ち着くと呼びかけて、しゃがんで待っていた。
すると、どうだろう。
すっと寄ってくると出したコマンド通りに、脇に、前に、と座り伏せる。
それは最初の儀式であった。
わたしはベイビーの眼を見て「何?」と聞くようにした。
何? に応えることがわかってきて、それからはこちらが相手をよく
理解しようと努力する番である。
わたしはベイビーに調教してもらった。
澄んだ眼はよく教えてくれた。
わたしたちは、相手のことをよく知っている。
知っていても、「何?」と今もたずねる。
この方へも、何? とたずねる。
ミルク~とたいていは答えてくるのでちょっとがっかりであるが、
わたしも一時期ハーゲンダッツにハマった事があるわけだし、
水で三倍に薄めたミルクでも、彼女には極上のスイーツだろう。
それでわたしの眼を見てくれるようになったのだから、いいです。
ミルクをペチョペチョやっているシマコの首筋をそっと撫でていると
巣鴨のキャバクラで安物のプレゼントを渡して女の子の肩に手を回している
オッサンの気分で、どうも気恥ずかしい。
キャバクラのオッサンを早く卒業したいと思いつつ、つい撫でてしまう。
シマコは、昨日あたりからちょっと力を入れて触っても嫌がらなくなった。
ミルク効果であることはわかっていても、用心されなくなったことをひたすら
喜び、まるでオッサンの性(さが)と自嘲していてもやめられない。
ベイビーとアイコンタクトを始めた頃を思い出して期待しているから。
庭先で見ているとシマコはカメの後をついてまわるようになった。
親分もカメの言うことをよく聞く。
カメは誰からも好かれる。
カメの波長は気持ちいいので、特に人間以外のものは寄って来やすいが
たまに、ごっつい人間もやってくるので、そこんところがビミョウで
単純にカメはやさしいから、というわけでもないのである。
右にも左にも上にも下にも寄らず、真ん中にいるからなのだろう。
それはつまり無私なのであって、相手には心地よい。
でも自身をそうするのは、言うほどたやすいことではない。
カメは疲れてはいないのだろうか‥とふと思う。
結局のところ、巣鴨のオッサンは見返りを求めている。
心配や気遣いもまた、オッサン並ならしないほうがいい。
右往左往するうさこである。