想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

青空がよく見えるとき

2009-03-31 23:04:54 | Weblog
   努力家といえば、このところ話題はWBCのイチロー選手ですね、
   センター前、ラスト一本のヒットで地獄から天国へ駆け上った人に
   なってますが、開幕以前は天才イチローだったはず。
   世情は移ろいやすいとはいえ、たった一本のヒット。
   時間にすれば、あの緊迫した延長戦で打席にいたのは何分?
   打たなかったら、いまごろ誰が笑ってる?
   
   「どん底にいると、青空がよく見える」
   そんな台詞をイチローの写真の横に吹き出しを作って入れてみたいわ。
   意地悪な皮肉な眼線にさらされ続けた時を、どう過ごしてきたかは
   その後どうなったかよりもずっと大事なこと。
   一瞬にして敵役から主役へ転じ、中傷から賞讃の的へと立場は変わったが
   同じ人なのである。
   変わったのは周囲だけだということ。時が過ぎれば、また転じていく。
   無常を知った人は、とことん強くなっていく。
   頑丈な強さではなく、緻密で美しい強さだから人を惹きつける。
   そして不動(ゆるぎない)の変わらない信を掴みとる。
   それは他の人にはわからない本人だけの宝だ。



   先週は冷たい雨の日が続いた。
   週末、青空に転じて来客もあって賑やかだったけど‥、
   雨の日にひとり、たくさんの植木が傷まないように手当をしていたカメ‥‥
   カメは努力家だ。
   誰の眼にもふれないときに、よくはたらく。
   昔からそうである。
   20年数年前になるが、初めて訪れたカメの事務所でやはりカメはひとり
   黙々と木彫りをしていた。
   趣味でも仕事でもないのに、木彫り。
   思想家然としたりせずに、ああ、いらっしゃいと彫刻刀を持ったまま言った。

   努力しているとき、人は辛いとか、苦しいとか、思わないものだ。
   ただただ、ひたすら、励んでいるだけである。
   そういう人がたまに、停留所にバスが止まるように自然に手に入れたご褒美を
   成功と呼ぶのは当人ではなく、世間であることが多い。

   どん底も悪くない。
   そんな姿を見せてくれる人は少ない。
   わたしにとっては、ずっと前からそれを教えてくれていた人がカメ。
   晴れても曇っても嵐でも、微動だにせず、変ぜず。
   カメが彫った木彫りの人形はどこへ行ったかわからないが、
   あの頃のカメと雨の日に重い植木を運びつづける今のカメは同じ人だ。



   鬱屈とした日にも変わりなく、今なすべきことを為すというのは難しい。
   がんばれとか、がんばるとか、口でいうほどなまやさしいものではない。
   ある雨の日、庭先に現れた野うさぎは、雨に打たれながらじっとしていた。
   じっとしているうさぎを時々みかけ、辛かった日の自分と重なったり
   青空がほんとうに眼に沁みた日があったことを、ちょっと思い出す。
   
   (カメなんて名づけちゃってるが、尊敬してやまない師のことである)
 
コメント
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