rock_et_nothing

アートやねこ、本に映画に星と花たち、気の赴くままに日々書き連ねていきます。

"Lifelines"アーハ、柔らかに透明度の高いサウンド

2011-03-01 23:14:01 | 音楽たちーいろいろ
ノルウェー出身のロックバンド・アーハの2002年のアルバム“Lifelines”。
数ある彼らのアルバムの中で、最も好きなアルバムだ。
そして、アルバムタイトルにもなっている曲“Lifelines”は、聴いているとカモメになってフィヨルドの海岸線をなぞっている気分になる。
そのプロモーションビデオも、海岸沿いとそこに行きかう人々の光景を映していた。
彼らの音作りは、モートン・ハルケットの音域の広いソフトボイスを活かし、シンプルだが厚みと広がりをもたせた懐の深いものだ。
聴いていて疲れるどころか、即効性はないが確実に癒される、治癒効果を持った音楽だ。
それは、奇をてらわない、音が行きたい方に向かって移っていく、まるで植物が光に向かってその葉や枝を伸ばしていくような、自然の気を取り込んでいる、そんな音楽を感じさせるからだろう。
だから、アーハのサウンドの風に乗って空を舞う鳥になった疑似体験を得られるのだ。
しかし、25年以上にわたった彼らのバンド活動も、昨年、終止符を打たれたという。
モチベーションやクオリティーを維持するのは困難を極めるから、仕方のないことなのだろう。
残念がることなく、彼らが残してくれた音楽を、これからも聴き続けていこうと思う。

大きな眼の不老不死の乙女、ポール・デルボー

2011-03-01 00:51:35 | アート
  エニグマ

十数年前、訪れたベルギーで、ポール・デルボーの大回顧展を偶然にも観ることができた。
画集などを通してしか知らなかった彼の作品を、初期から最晩年に亘って観られたことは幸運だった。

彼の作品には、必ずといっていいくらいに大きな目をした乙女たちが登場する。
恥ずかしげもなく美しい裸身を曝け出し、無音の世界に君臨している。
舞台は、古代ギリシャ・ローマ、あるいは列車が止まっている線路や停車場、それらが混在する空間、そして公園。
白昼であったり、月が煌々と照らす夜、人工灯で照らされたいつの時刻か判別し難いものもある。
一見プリミティブ的な画風に見えるが、かなり周到に練られた構図と描画方法だ。
これらが、一堂に会すると幻想に浸された空間を演出する。
時間は止まり、未来永劫大きな目の乙女が支配する静寂の世界。
彼女たちだけが、衣擦れの音も立てず、空気も震わせずに動き回れる、そんな世界だ。

彼の絵を観ていると、カート・ヴォネガット・ジュニア作「タイタンの妖女」の最後に出てくる土星の衛星タイタンでの場面を思い浮かべる。
ビアトリス・ラムファード(老婦人になってしまっているが)の住む宮殿と、その近くにある池の場面を。
タイタンつぐみが飛び交っても、息子のクロノが訪れても、夫マラカイが仕事をしても、無慈悲な静寂が全てをつらぬいている。
そこでは、池の中央にあるタイタンの三人の妖女の彫像とビアトリスが、デルボーの大きな眼の乙女たちと重なり、果てしない時の流れと諦念にも似た愛の世界を表しているかのようだ。