大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・1(その始まり)

2016-11-20 06:51:54 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・1
(その始まり Eloim, Essaim)



 晴れと雨を六日繰り返した後、その大風が吹いた。

「春一番てのは聞いたが、冬一番てのは初めてだな!」
「それって、木枯らしって言うんじゃないですか!?」
「木枯らしに、こんな生暖かいのはねえ。それに、なんだ、この臭いは!?」
 確かに、黴臭いような生臭いような臭いが満ちていた。
「古い図書館だから、こんなもんですよ!」
「さっさと見回り済まして帰ろうぜ!」

 この会話が、警報によって駆けつけたガードマン二人の、この世での最後の言葉だった。

 箕作図書館は、その夜十万冊の蔵書とガードマン二人の焼死体を残して全焼した。正確には、一冊の本が奇跡的に残っていた。まるで火事の後に誰かが持ち込んだように、焼け焦げ一つなかった。濡れてはいたが水でふやけるということもなかった。
「なに、この本?」
 やっと現場検証に立ち会えた司書の由奈が取り上げた。その本はタイトルだけが焼けて抜けていた。Eで始まっているのは分かったが、飾り文字なのであとは読めなかった。
「え、なにこれ?」
 もう一人の司書の緑もよってきて、ページをくったが、その本には何も書かれていなかった。ただ装丁から言って、戦前からあった貴重本のような感じで禁帯のラベルが背表紙に貼られていた。


 真美は、いつになく起きづらかった。

「真美、もう時間よ!」
 母が階下で呼ぶ声で、やっと目覚めた。いそいで制服に着替えて鏡の前に立ってびっくりした!
「キャー!」
 慌てて母親が駆け上がってきた。
「どうしたの真美!?」
「あ、あ、あたしの額に……!」
「……額がどうかした?」
「だって、ほら、鏡に……!」

 真美の額にはEloim, Essaimの文字が血の色で浮き出ていた。

「え……なにも見えないわよ」
 母は、鏡と娘の顔を交互に見たが、どこにも異変は無かった。
「だ、だって……!」
 血文字から滴った血が目に入って、真美は一瞬目をつぶった。それを拭って目を開けると、もうEloim, Essaimの文字は見えなくなっていた。
「夕べの風で眠れなかったんでしょ。寝ぼけたか夢の続きか……とにかく急ぎなさい。いつもより五分遅いんだから」
 そう言って母は、ダイニングへ降りて行った。
「どうした、季節外れのゴキブリでも出たか?」
 朝食を終えた父がのんびり言った。
「え、あ、なんだか寝ぼけてたみたい」
 そうとしか言えない真美だった。朝の五分は貴重だ。朝食は流し込み、朝のいろいろは、いくぶん省略。髪の毛の寝癖が気になったが、ポニーテールにしてごまかした。

 そうして、家を出る時には一分遅れ。駅まで早足で歩いて、なんとかいつもの準急に間に合う。真美は日常に戻りつつあった。

 そのことが起きるまでは……。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・99『アカデミー賞決定』

2016-11-20 06:10:01 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・99
『アカデミー賞決定』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


実は少々「良かったね」ってのと「ええ~〓」ってのが混ざってます。

 今年はアカデミーに先立つ各賞決定の結果から“作品”“監督”以外は鉄板でしたから予想通りというより予定通りの顔ぶれです。あえて言えば“アメリカン・ハッスル”“それでも夜は明ける(コノ「ホウダイ」ドナイカシテクレ)”の助演女優賞の争い位ですか。

「風立ちぬ」が惜しかったなんぞと言う方がおられますが、これは相手になる訳が無いんです。駿さんはアメリカでも最高に尊敬される監督ですが、なにせ「アナと雪の女王」はアメリカ社会現象的ヒット、劇中の主題歌を知らない奴はアメリカンじゃないってぐらいです。これは素直に脱帽いたしましょう。
「ダラス・バイヤーズクラブ」はなんとか見に行って来ます。“12years a slave (それでも夜~)”は来月までおあづけで、今はなんともコメントできません。

 まあ、予想段階から“ウルフ オブ ウォールストリート”の無冠は判っていたのですが“アメリカン・ハッスル”の無冠は残念です。オスカーがゴールデングローブのようにドラマ/コメディに別れていれば……いやいや、繰り言であります。
 作品賞が最大10作品ノミネートに成っている事で良しとしましょう。これが5作品だけだと“グラビティ”は弾かれた可能性がありますからね。 まだ公開されていないからなんとも言えないのが“her”の脚本賞、コンピューターと恋に落ちる男の物語……こりゃあ公開が待ち遠しい。
 心からおめでとうと言いたい! マシュー・マコノヒーの主演男優賞、彼はまだまだ二枚目で通用するのに20キロ減量して末期エイズ患者を演じた。思えば'13年のキャリアはずっとインディーズ作品、大ヒットはないが限定公開から必ず拡大公開になった。“ダラス~”にずっと関わってメジャー作品に出る時間が無かったのかもしれない。兎に角努力が報われた、本当におめでとうございました。
 ウルフ オブ ウォールストリート/アメリカン・ハッスル/キャプテン・フィリップス/ネブラスカ/あなたを抱きしめる日まで/8月の家族たち……半分はまだ未公開ながら素晴らしい作品である事は間違いない。

 今年ほど未公開作品だらけで こんな原稿を書いた事はない。一つには試写会に行かないせいではあるが、少なくとも1/3以上はまだ試写会すら開いていないはず……もう言いませんが 何が言いたいかお分かりいただけると思います。 今年のアカデミーを見ていて、ショーアップが足りなかったのが少々不満です。本年のノミネート作品賞の内、なんと6作品が実話とあってイジリ難い部分があったんだとはおもいますが そこをなんとかするのがアメリカンのショウマンシップですよね。
 今年はユダヤも政治色も感じられず、その点スッキリしていたのですが……あんまり地味に過ぎると、いつぞやみたいに視聴者離れが起きます。
 とは言え、無事に86回も終わり、すでに87回に向けてのレースが始まっています。来年に向けては、もう一つのパターンが出ていて、それは宗教です。キリストの生涯/ノアの方舟が既にラインに入っています。

 来年は俄然きな臭くなるのかもしれませんねぇ。

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