秘録エロイムエッサイム・11
(促成魔女初級講座・実戦編・1)
気づくと、真っ青な空があった。
真由は、どこかで見たことがある空だと思った。東京にはない、真っ青で密度の高い光に満ちた空。
「体の軸線が90度ずれてる。直して」
清明の声が斜めから聞こえてきた。ゲーム機のコントローラーが一瞬頭に浮かび、R3のグリグリを1/4回転させた。
目の前にでっかいシーサーの顔があった。
思い出した。中学の修学旅行で来た沖縄は那覇の国際通りだ。
「瞬間移動には、すぐに慣れるよ。移動の直前に移動する場所のイメージが浮かぶようになる。ボクが手助けしたけど、初めての瞬間移動にしては上出来だ」
「どうして、那覇なんですか?」
国際通りの歩道を歩きながら、真由は清明に聞いた。
「実戦訓練には、ちょうどいいからさ。まあ、全部歩いても一マイル。歩いて馴染んでみようか」
「武蔵さんと、ハチは?」
「武蔵さんは、基本的には自分が行ったところにしか現れることができない。沖縄には来たことがないからね。連れてこようと思ったら『五輪書』を持っていなければできない。それに初級の実戦だから、ボクでも十分だ。ハチは君が見たシーサーに化けている。邪魔が入らないようにね」
三十分ほどかけて、国際通りの端から端まで歩いてみた。真由はすっかり旅行気分になっていた。
「なにか気づいたかい?」
「え、あ、すっかり旅行気分になっちゃって……すみません」
「ハハ、それぐらいでいいよ。武蔵さんの座っている姿でも気づいただろう。本当の剣客は、普段はごく普通の姿勢がいいだけのオジサンだ。いつも殺気立っているのは初心者だよ……言った尻から緊張する。リラックス、リラックス」
そう言われると、真由はすぐにリラックスした。国際通りが素晴らしいのか、真由の才能なのかはよくわからない。
「で、気づいた?」
清明は、ニヤニヤしながら、もう一度聞いた。はた目には兄妹か、若いアベックの旅行者にしか見えない。二人は完全に国際通りの風景の中に溶け込んでいた。
「えと……よくわかんないです」
「正直でけっこう。通行人の人たちをよく見てごらん。微妙に色の薄い人たちがいるだろう……」
真由はウィンドウショッピングの感じで、周りを見渡した。
「分かりました、あの学生風のグループなんか、発色の悪いプリンターで印刷したみたいです」
「よし、それが分かったら裏世界に変換。R3ボタンを押し込んで」
コントローラーをイメージしたのは、ほんの一瞬だった。
「どうだい、なにか変っただろう?」
「……通行人が減っちゃった」
「それでいい。ボクも真由も、あいつらといっしょに裏世界に入り込めた」
「裏世界って……?」
「現実と変わらない世界なんだけど、その道の者だけで戦うダンジョンみたいなもの。現実の人間は、みんな排除してある。きっかけが来たと思ったら、ポケットの中の式神をまき散らして」
きっかけは、直ぐにやってきた。さっきの学生風たちが、違和感を感じてきょろきょし始めた。
「今だ!」
清明に言われると同時に、真由は、ポケットの中の紙屑のようなものをまき散らした……!
(促成魔女初級講座・実戦編・1)
気づくと、真っ青な空があった。
真由は、どこかで見たことがある空だと思った。東京にはない、真っ青で密度の高い光に満ちた空。
「体の軸線が90度ずれてる。直して」
清明の声が斜めから聞こえてきた。ゲーム機のコントローラーが一瞬頭に浮かび、R3のグリグリを1/4回転させた。
目の前にでっかいシーサーの顔があった。
思い出した。中学の修学旅行で来た沖縄は那覇の国際通りだ。
「瞬間移動には、すぐに慣れるよ。移動の直前に移動する場所のイメージが浮かぶようになる。ボクが手助けしたけど、初めての瞬間移動にしては上出来だ」
「どうして、那覇なんですか?」
国際通りの歩道を歩きながら、真由は清明に聞いた。
「実戦訓練には、ちょうどいいからさ。まあ、全部歩いても一マイル。歩いて馴染んでみようか」
「武蔵さんと、ハチは?」
「武蔵さんは、基本的には自分が行ったところにしか現れることができない。沖縄には来たことがないからね。連れてこようと思ったら『五輪書』を持っていなければできない。それに初級の実戦だから、ボクでも十分だ。ハチは君が見たシーサーに化けている。邪魔が入らないようにね」
三十分ほどかけて、国際通りの端から端まで歩いてみた。真由はすっかり旅行気分になっていた。
「なにか気づいたかい?」
「え、あ、すっかり旅行気分になっちゃって……すみません」
「ハハ、それぐらいでいいよ。武蔵さんの座っている姿でも気づいただろう。本当の剣客は、普段はごく普通の姿勢がいいだけのオジサンだ。いつも殺気立っているのは初心者だよ……言った尻から緊張する。リラックス、リラックス」
そう言われると、真由はすぐにリラックスした。国際通りが素晴らしいのか、真由の才能なのかはよくわからない。
「で、気づいた?」
清明は、ニヤニヤしながら、もう一度聞いた。はた目には兄妹か、若いアベックの旅行者にしか見えない。二人は完全に国際通りの風景の中に溶け込んでいた。
「えと……よくわかんないです」
「正直でけっこう。通行人の人たちをよく見てごらん。微妙に色の薄い人たちがいるだろう……」
真由はウィンドウショッピングの感じで、周りを見渡した。
「分かりました、あの学生風のグループなんか、発色の悪いプリンターで印刷したみたいです」
「よし、それが分かったら裏世界に変換。R3ボタンを押し込んで」
コントローラーをイメージしたのは、ほんの一瞬だった。
「どうだい、なにか変っただろう?」
「……通行人が減っちゃった」
「それでいい。ボクも真由も、あいつらといっしょに裏世界に入り込めた」
「裏世界って……?」
「現実と変わらない世界なんだけど、その道の者だけで戦うダンジョンみたいなもの。現実の人間は、みんな排除してある。きっかけが来たと思ったら、ポケットの中の式神をまき散らして」
きっかけは、直ぐにやってきた。さっきの学生風たちが、違和感を感じてきょろきょし始めた。
「今だ!」
清明に言われると同時に、真由は、ポケットの中の紙屑のようなものをまき散らした……!