大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・7(The witch training・3)

2016-11-26 06:48:27 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・7
(The witch training・3)



「あんあたも、えらいもんしょっちゃったね……」

 ハチ公がしみじみとした声音でため息ついた。
「なんでも、血筋だから仕方無いらしい……」
「他にも血筋で、名前だけ引き継いでるのいるけど、からっきし。まあ、魔法が使えたってろくなことないけどね」
「うん、なんだか使い方むつかしいみたいだし。ハチ公も魔法使いなの?」
「魔法犬ってとこか……」
「魔法犬?」
「ああ、ご主人の上野先生が無くなってから、九年間も渋谷の駅前で、待ち続けてさ。それを、世間様は『帰らぬ主人を待ち続けた忠犬』ってことにしちまった。俺は、ただ犬としての……俺って秋田犬なんだ。秋田犬ってのは主人に忠実ってのが売りだったしさ。俺自身のレーゾンデートルのためにも、秋田犬の代表としても引っ込みつかなくなってしまってさ。なんたって生きてる間にマスコミが騒いじゃってさ。俺ぐらいのもんじゃない、本人が生きてる間に銅像まで造られちまって。除幕式には俺自身引っ張り出されっちまってさ。映画になるは、教科書に載るはで……けっこう大変。で、もう九十年も、ああやって銅像やってるだろ。自然と魔法犬っぽくなちまってさ、あの沙耶ちゃんの体に憑りついてるやつと仲良くなったりするわけ」
「沙耶ちゃんに憑りついてるのって、誰なの?」
「それは……内緒。いずれ分かる時もくるさ。けして神さまとか天使とかじゃないけど、悪い奴じゃないから。気楽に付き合ってていいと思うよ。ほんと新人の教育って大変だから……あ、真由のこと嫌がってるわけじゃないからね。これでも、俺使命感があるんだ。真由も大変だ、たまたま四代前がイギリス人でさ。この人が魔女の血をひいてたから、真由がやらざるを得なくなっちまった。さて、基本からやろうか」
「ああ、お願い、沙耶途中で投げ出しちゃうんだもん」
「あの子にも都合があってね、真由一人のことにかまけてらんないの。真由、ゲームってやる?」
「うん、たまにね。いまは『ファインファンタジー13ヘッドライトニングリターンズ』やってんの」
「ああ、あのラスボスが、バカみたいに強くって、何度も『最後の13日間』やらなきゃならないやつだね。あの世界観、ちょっと魔法に似てる」
「そうなんだ」
「コントローラーを頭に思い浮かべて」
「うん……」

 真由の手は無意識にコントローラーを持つ手になった。

「〇ボタンが攻撃、あ、ちょうどいいや、あそこでチンピラに絡まれてる気弱そうな大学生がいるだろ。△ボタン押して、地図を出す。ターゲットを大学生にマーク合わせて、合わせるのはL3のグリグリボタン。キャッチしたら〇ボタンで決定。あとは〇ボタンで攻撃になる」
 襟首を締めあげられていた大学生が、振りほどいて、チンピラの顔に頭突きをくらわせた。
「連打すれば、コンボ攻撃」
 大学生は、頭突きのあと、パンチと背負い投げを二回繰り返した。
「ああ、攻撃ゲージの使い過ぎ、□ボタンでガード。その間にゲージを貯める。×ボタンで相手の攻撃能力を弱くして……」
 あとの説明はいらなかった。真由は無意識にバーチャルコントローラーを操作して、HPゲージも満タンにして、さっさと逃げさせた。あとには三人のチンピラが唸って転がっている。
「さすがにゲーム慣れしてるね。これなら、すぐにコントローラー思い出さずに魔法が使えるようになる」
「R1ボタンは?」
「カーソルを……自分に合わせて押してごらん」
 R1ボタンを押すと、次々に自分の姿が変わるのが分かった。相変わらずAKBの選抜メンバーになってしまう。
「弱く押せば、コスだけ変わるから」
「……なるほど、ファッション雑誌でいいなと思ったのに変わっていく。ハハ、これいいわね」
「あんまりやると、人に怪しまれる」

 雑踏の中、真由の変化を信じられない目で見ている人が何人かいた。真由は急いで元の姿に戻った。

「魔法属性とか、戦闘、防御の属性は暇なときに切り替えとくといいよ。慣れれば、これも無意識の瞬間でできるから」
「こうやりながら、経験値をあげていくのね」
「ま、そういうこと」
「あの……さっきから、同じとこばっか回ってない?」
「バレたか。テレポのゲージを上げてんの」

 ハチ公が、そう言うと一瞬目の前が白くなり、回りの景色が変わった。東にダラダラした山並み、擬宝珠の付いた橋。その下に南北に流れる川。托鉢のお坊さんに、溢れんばかりの観光客。振り返ると京阪三条の駅。どうも京都にテレポしたみたいだ。

 首を前に戻すと、ヒョロリとした若者がやってくるのが分かった。若者の魔法ゲージは、真由とケタが二つも違っていた……。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・105『第三の男 その他』

2016-11-26 06:31:38 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・105
『第三の男 その他』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので、転載したものです。


今週「やみきんウシジマくん2」をやっとるんですが、金貸しの映画なんぞ見たくもないので(山田孝之のファンなんですが)パスいたしました。

 さりとて、また、ボックスオフィス情報ってのもどないやろってんで、いささかイニシエの作品ではありますが……49年英作品、キャロル・リード監督/グレアム・グリーン脚本の“第三の男”であります。 映画史に燦然と輝く作品であります。とは言え、若い人は殆ど見た事無いでしょうね。アントン・カラスのチターによるメインテーマとラストシーン位はご存知かも知れません。
 案外、年嵩の方でも、題名は知っていても全編は見ていないかも……大戦直後のウィーン、喰い詰め三文文士のマーチンス(ジョセフ・コットン)が、親友ハリー・ライムに呼ばれてやってくる。
 しかし、一足違いでハリーは事故死しており途方にくれる。事故を看取った二人の男やハリーの恋人アンナ(アリダ・バリ)に会うが、どうも事故なのか殺人なのかよく解らない。
 当時、ウィーンを取り締まっていた四カ国(英米仏露の軍隊)警察には邪魔にされる。殊に英のキャロウェイ少佐からは「すぐに帰れ」と恫喝される。なんだか胡散臭い情勢。その内、事故を看取ったのが二人ではなく、そこには「第三の男」が存在したと知れる。 疑問を持ったマーチンスは、闇雲にそこら中を突っついて回るが事態はややこしく成るばかり、果ては殺人(第三の男を見た証言者が殺される)の容疑者に仕立てられる。ハリーは何かの闇商売の黒幕だと目されているが、マーチンスには信じられない。
 実は、ハリーは死んでおらず、墓の棺には別人が入っており、「第三の男」とは他ならぬハリーなのだと知れる。そしてハリーの正体も知れてくる。
 
 モノクロ作品の「光と影」っちゅう お題を頂きまして、そら“第三の男”やろってんで見返しました。他にも多数ありますが、やっぱりこれがダントツですわ。
 正直、「これがグレアム・グリーンの脚本か?」と思う程、前半のストーリーテリングはむちゃくちゃであります。
 大昔、初見時も「ナンジャコリャア」と思いましたが、今回も基本的にその感想は変わりません。
 ところが、ハリーが生きているのが解る中盤以降、本作は全く違う顔を見せます。
 街角の闇の中に男の靴だけが見えている。気付いたマーチンスが「誰だ!」と怒鳴る。二階のおばちゃんが「やかましいわよ」と点けた灯りが闇を照らすと…そこに、死んだ筈のハリーが立っている(ここも有名なシーン) ハリーは逃げ出し、その靴音と長く延びる影を追ってマーチンスが駆ける。しかし、ハリーは忽然と姿を消す。
 ここら辺りから、画面が少し斜めに成ったり。深夜のアパートの壁に男の影が映り徐々に近づいて来る、「ハリーの影?」と思いきや、何故か風船売りのおっちゃんだったりとサスペンスを盛り上げる映像のオンパレードに成って来る。現実のウィーンの夜が、まるで「オルフェ」の地獄のように見えて来る。

 この“光と影”は、クライマックス 下水道を逃げるハリーと、追うマーチンスと警官のシーンで最高潮に達する。見事な映像のニュアンス(まさに陰影)を生み出しています。
 ハリーは逃げ切れず、射殺される。冒頭と同じ墓地、今度の棺には間違いなくハリーが収まっている。空港に向かうマーチンスは車を降りて、荷馬車にもたれ、歩いて来るアンナを待つ。彼女はマーチンスの気持ちを知りつつも、彼の前を一顧だにせず通り過ぎる……煙草に火を点けるマーチンス(代表的シーン “カサブランカ”のラストと並ぶ)
 前半あれだけもたつきながら、このシーンからアンナとマーチンスの気持ちが溢れだす。 この、なんとも曰わく言い難いニュアンスはモノクロでなければ表現出来ない。カラーでは絶対醸せない映像なのです。この味を出したいがため、わざわざモノクロやセピアで撮影する人もいます。
 世界が白と黒だけで在ることによってクローズアップされてくるものが間違いなく存在します。たまにはイニシエの作品にも触れて見て下さい。
 おっと、いい漏れてました。ハリー・ライムを演じているのは、かの、オーソン・ウエルズ御大であります。死んだはずのハリーの顔が闇から現れる時の御大の表情が、本作の殆ど総てであります。

 さて、付け足しにチョコッとボックスオフィスランキング。前週の①~⑤が各一個ずつ順位を下げ、今週1位は“NEIGHBORS”週末興収4900万$、スパイダーマン2は②落ち、1億4千万$トータルと、この類いとしては少々苦戦。
 今年も、オスカーから3ヶ月。そろそろ傾向が見えて来ました。アニメと大作は毎度の通りで、ブームなのが宗教作品。もう一つがコメディのようです。このコメディ、金満アメリカンの自分勝手がバックグラウンドにあるものが多く、今週1位の“NEIGHBORS”も、隣に越してきたのが大学のクラブハウス(そんな事が有るんかい?……まぁ、有るんやろなぁ) 学生のバカ騒ぎにセス・ローゲンのお隣さんがブチ切れて抗争勃発ってなお話です。
 リーマンショック以降、意気消沈していた反動が出て来ているんだと思います。おんなじようなテーマで作っていて(俳優のランクも似たり寄ったり)それなりに当たるのもあれば、第一週300万$ポッキリとか、中には4万$未達なんてなトホホな作品もあります。  
 アメリカンが見たいコメディの傾向が全く解りませんわい。 それと、性懲りもなく、またまた“GODZILLA”を作った(日本公開7/25)のでありますがぁ……東宝第一作は1954年の水爆実験でゴジラが出現した事になっとりましたが、次回ハリウッド版ではゴジラは既に存在していて、対ゴジラ兵器として水爆を使った事に成っとるようです。
 この設定、日本人としちゃあ ちょいと 引っかかりませんか? 予告を見る限り なんやら「クローバーフィールド」みたいになかなかゴジラの全体像が見えない展開のようです。まぁ、見てみますか。

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