秘録エロイムエッサイム・4
(真由の最初のエロイムエッサイム)
沙耶が五時間目に事故死したことは、六時間目が終わって分かった。
五時間目に救急車が来て校内は騒然とした。直ぐに警察が来て事件性はないか、設備上の不備はないかと警察とマスコミもやってきた。
そして、六時間目の間に、沙耶の死亡が病院で確認された。
六時間目のあとは、臨時の全校集会になり、校長が沈鬱な表情で事情の説明をした。
沙耶のクラスがごっそり抜けていた……警察の事情聴取を受けているんだろうということは容易に想像できた。全校集会のあと真由は事故現場に行ってみた。何人かの同級生が泣きながら実況見分に立ち会っていた。
――あたしのせいなんだ――
真由は、どうしても自分を責めてしまう。気に掛けないでくださいと、最後に沙耶は言った。でも自分が殺したという気持ちから抜けきれなかった。
「……検死解剖」
そんな一言が耳についた。そうだ、テレビのドラマなんかでもやっている。こういう場合、状況から死因が特定できても、本当に事件性がないかどうか検死のための解剖がされるんだ。
冷たいステンレス製の解剖台の上に裸で寝かされ、喉の下から下腹部まで切り裂かれて、内臓を取り出され、あれこれ検査される。思っただけで真由は恐ろしく、おぞましく、かわいそうだった。
『この世よなくなれ』と『わたしを殺せ』という内容のことだけは願っちゃいけない……沙耶の言葉を思い出した。
――今なら助けられる!――
真由は、そうひらめいた。ダメ元で、真由は小さく声にした。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……沙耶を助けたまえ!」
効果が表れたのは家に帰ってからだった。
「ねえ、この小野田沙耶って、真由の友達の妹じゃないの!?」
帰ると、母がリビングから顔を出し、興奮気味に言った。
――ああ、やっぱダメだったのか――
そう思ったが、違った。
――さきほどもお伝えいたしましたが、A女子学院で階段から転落し、一時死亡が確認された女子生徒が、死亡確認後二時間たって蘇生したとA警察と病院から発表されました。当該の女生徒は、同校一年生の小野田沙耶さんで……――
夕方のワイドショーのMCが自分の事のように嬉しそうに繰り返していた。母親は、それが伝染したように、涙ぐんでいた。
真由は、魔法が効いたことを実感した。
「ちょっといいですか?」
本人の沙耶が、二日後の昼休みに真由の教室にやってきた。前回と違って、教室のみんなが注目「おめでとう」「よかったね」と声を掛けられていた。沙耶は照れながら真由のブロックにやってきた。
「ちょっと、例のところまでよろしく」
今回は目立たないように、沙耶が先に行き、少し遅れて真由が続いた。
「朝倉さん、あなたとんでもないことやったんですよ……!」
沙耶は、小さく、でもしっかりと真由の目を見つめて言った。
「なんのこと?」
「あたしが、今こうしてここにいること」
「やっぱり魔法が効いたのね!」
「シッ、声が大きい」
「ごめん、でもよかった。ほんとに効いて」
「よくないんです。沙耶は死んでいるんです。二日前に魂は、あの世にいっていたんです。人間は死ぬことが分かると、怖さや諦めから、魂だけ先に、あの世に行っちゃう人がいるんです。死ぬまでの何十時間は、いわば惰性みたいなもので、魂の無い状態なんです。こういうのを易学では『死相』が出ているといいます。あたしは、そんな沙耶の体を借りて、あなたに忠告にきたんです」
「じゃ……あなたは?」
「正体は言えないけど、この世のものじゃありません。でも、二つ言っときます。あたしはこの体が死ぬまで小野田沙耶として生きていくんです! それと……もういいわ、あなたを傷つけるだけだから。メアドの交換やってもらえます?」
「え、ええいいわよ」
「これからは、時々真由さんに連絡しなければいけないことが起きそうだから」
ちょうどそこへ、沙耶のクラスの子たちがやってきて、ピーチクやり始めたので、沙耶は、それに合わせ、真由は教室に帰った。
真由は、まだ本当には、自分の力が分かってはいなかった……。
(真由の最初のエロイムエッサイム)
沙耶が五時間目に事故死したことは、六時間目が終わって分かった。
五時間目に救急車が来て校内は騒然とした。直ぐに警察が来て事件性はないか、設備上の不備はないかと警察とマスコミもやってきた。
そして、六時間目の間に、沙耶の死亡が病院で確認された。
六時間目のあとは、臨時の全校集会になり、校長が沈鬱な表情で事情の説明をした。
沙耶のクラスがごっそり抜けていた……警察の事情聴取を受けているんだろうということは容易に想像できた。全校集会のあと真由は事故現場に行ってみた。何人かの同級生が泣きながら実況見分に立ち会っていた。
――あたしのせいなんだ――
真由は、どうしても自分を責めてしまう。気に掛けないでくださいと、最後に沙耶は言った。でも自分が殺したという気持ちから抜けきれなかった。
「……検死解剖」
そんな一言が耳についた。そうだ、テレビのドラマなんかでもやっている。こういう場合、状況から死因が特定できても、本当に事件性がないかどうか検死のための解剖がされるんだ。
冷たいステンレス製の解剖台の上に裸で寝かされ、喉の下から下腹部まで切り裂かれて、内臓を取り出され、あれこれ検査される。思っただけで真由は恐ろしく、おぞましく、かわいそうだった。
『この世よなくなれ』と『わたしを殺せ』という内容のことだけは願っちゃいけない……沙耶の言葉を思い出した。
――今なら助けられる!――
真由は、そうひらめいた。ダメ元で、真由は小さく声にした。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……沙耶を助けたまえ!」
効果が表れたのは家に帰ってからだった。
「ねえ、この小野田沙耶って、真由の友達の妹じゃないの!?」
帰ると、母がリビングから顔を出し、興奮気味に言った。
――ああ、やっぱダメだったのか――
そう思ったが、違った。
――さきほどもお伝えいたしましたが、A女子学院で階段から転落し、一時死亡が確認された女子生徒が、死亡確認後二時間たって蘇生したとA警察と病院から発表されました。当該の女生徒は、同校一年生の小野田沙耶さんで……――
夕方のワイドショーのMCが自分の事のように嬉しそうに繰り返していた。母親は、それが伝染したように、涙ぐんでいた。
真由は、魔法が効いたことを実感した。
「ちょっといいですか?」
本人の沙耶が、二日後の昼休みに真由の教室にやってきた。前回と違って、教室のみんなが注目「おめでとう」「よかったね」と声を掛けられていた。沙耶は照れながら真由のブロックにやってきた。
「ちょっと、例のところまでよろしく」
今回は目立たないように、沙耶が先に行き、少し遅れて真由が続いた。
「朝倉さん、あなたとんでもないことやったんですよ……!」
沙耶は、小さく、でもしっかりと真由の目を見つめて言った。
「なんのこと?」
「あたしが、今こうしてここにいること」
「やっぱり魔法が効いたのね!」
「シッ、声が大きい」
「ごめん、でもよかった。ほんとに効いて」
「よくないんです。沙耶は死んでいるんです。二日前に魂は、あの世にいっていたんです。人間は死ぬことが分かると、怖さや諦めから、魂だけ先に、あの世に行っちゃう人がいるんです。死ぬまでの何十時間は、いわば惰性みたいなもので、魂の無い状態なんです。こういうのを易学では『死相』が出ているといいます。あたしは、そんな沙耶の体を借りて、あなたに忠告にきたんです」
「じゃ……あなたは?」
「正体は言えないけど、この世のものじゃありません。でも、二つ言っときます。あたしはこの体が死ぬまで小野田沙耶として生きていくんです! それと……もういいわ、あなたを傷つけるだけだから。メアドの交換やってもらえます?」
「え、ええいいわよ」
「これからは、時々真由さんに連絡しなければいけないことが起きそうだから」
ちょうどそこへ、沙耶のクラスの子たちがやってきて、ピーチクやり始めたので、沙耶は、それに合わせ、真由は教室に帰った。
真由は、まだ本当には、自分の力が分かってはいなかった……。